101回
「ママ~ミカね田舎でおばあちゃんと居るとき、田舎のお友達沢山できて遊んで楽しかったけど、やっぱりママに会いたくておばあちゃんにママに会いに行こうといくら言ってもね、おばあちゃんは<ママは居なくなったおばあちやんもママがどこに行ったか知らない>それしか言わないから、ミカは悲しくて泣いて泣いていたの」
ミカちゃんは私の胸の中で一生懸命訴えるのです。
でも大きな瞳は口元は笑みでいっぱいで、私を見上げて話す言葉は喜びにあふれているのです。
悲しかったことも今は私に会うことで、嬉しさに包まれているようです。
こんなにも私はミカちゃんに愛されていたのか?それを感じて私もまた喜びが体中に満ち溢れるのを覚えるのです。
<やっぱり私はこの子のママなんだ~>実感がひしひしとこみ上げます。
「ごめんねミカちゃん、ママねパパの社宅に居られなくなって姿を消したの。ママもミカちゃんやパパと会えなくて泣いていたのよ。ミカちゃんと会いたいと思ってもママはおばあちゃんの家しらないし、パパとも連絡取れなくて~ミカちゃんと会えなかったの」
何故そんなことになったのか?それは子供に言えることではないのです。
でも、ミカちゃんを悲しませることになったこと思うと、私は間違っていたのか?後悔の気持ちに包まれて、涙がぽろぽろこぼれてきて<もう絶対離さない>その想いでミカちゃんを抱きしめているのでした。
「でもママ、ミカは泣いてばかりいなかったよ。だってママはミカがおばあちゃんちに行くとき、ママに会いたかったらこの箱開けなさいと言ったでしょう。だから私一生懸命箱開けようとしたけど、開けるのが凄く難しかったからママに会うのが遅くなったの」
「凄い、ミカちゃん偉いは~秘密の箱を開けたのね?」
「まあね~でも少し手伝ってもらったけどね」
にやりと意味ありげなに笑うミカちゃんに、私ははっと気づいたのです。
<正人さんと~>思って一気に胸が高なったのです。
「ミカちゃん箱の中でコロンコロン鳴っていたものがあったでしょう」
「うんあったけどね。でもそれはね~」
ミカちゃんが言いかけたときです。
医院の扉が押し開けられたのです。
「あきさん迎えに来ましたよ」
言葉とともに現れたのは正人さんでした。
南の国に居たせいか、すっかり日焼けして精悍な風貌が男性の逞しさを感じさせるのです。
「正人さん~」
呼びかけたけど後の言葉が出ませんでした。
<正人さんが迎えに来てくれた~>その言葉が頭の中でぐるぐる回ります。
「待たせてゴメン。あきさんと会うにはその前にすることがあって、それですぐこれなかったんだ」
「いいの、いいの正人さんと会えただけでも嬉しいのに、ミカちゃんと会えて、迎えに来たと言われて、もう言う言葉がありません」
やっと答えた自分の声が涙声になっていたけど気になりませんでした。
とにかく上がってと、ミカちゃんの靴を脱がせ手を引いて待合室のソフアーに座ると、さっそくミカちゃんは私の膝の上です。
でも正人さんは待合室に入ってきても、私の前に立って座ることしないのです。
「正人さん~?」
ミカちゃんを抱きしめながら、背の高い正人さんを見上げて問いかけたときです。
正人さんは私の前、床にひざまずいたのです。
「あきさん指出して~」
微笑みながら私にうなずきかける正人さんです。
なにか恥ずかしい気分だけど、ミカちゃんの体の前に腕を突き出して指を差し出します。
正人さんはポケットから紫のピロードの小箱を開けると、パチンと音をさせると蓋を開けます。
出された指輪~見覚えのある琥珀の指輪です。
正人さんの亡くなった奥様、私が結婚指輪として正人さんからもらった指輪です。
「秘密の箱はミカにあきさんを探させるだけのものではなかったんだね。この指輪を秘密の箱に入れることで、僕にも探して欲しいと言うあきさんの僕へのメッセージだったと分かった。だから僕はあきさんの居所を探してここにきた。あきさんメッセージは受け取ったよ。改めてもう一度僕と、ミカと一諸に住んでくれるね」
「正人さんありがとう。嬉しい、私、また正人さんの奥さんになれるのね」
「そうだよあきさん。そうだなミカ、ママと一諸に住むんだね?」
「パパ~そうだよママがミカのところに帰って来たんだから」
「正人さん」
私の指にはめられた琥珀の指輪の手で正人さんの手を握りしめました。
嬉し涙がつぎつぎ沸き上がってきます。
「ママ~ママの指~綺麗に色がついて光っているよ」
「ほんとだねミカちゃん。指輪が電灯の光で紫に光っているのよ」
答えながら思わずミカちゃんに頬ずりして、正人さんを見て笑みを交わします。
「さあ、何時までも待合室で感激に浸っていないで、奥でコーヒーでものみましょうか」
横からの声に振り向いたら、白衣姿の前畑先生がニコニコしているのです。
正人さんが慌てて立ち上がります。
「先生お世話になりました。おかげでルージュのママさんも、メイクの先生も待っていたように返事頂いて助かりました」
「それは良かった。あきさんは私の大事なスタップですからね、幸せになってくれないとね」
笑顔で答える先生は私を見ると祝福するようにうなずくのです。
先生はミカちゃんの手を取ります。
「ミカちゃん奥にねジュースとケーキがあるから食べようか」
「やった!ママケーキだよ」
踊りあがるミカちゃんに私も笑顔でうなずき返します。でもケーキの言葉に気が付いたのです。ケーキがなぜ4つもあったかを?
思わず先生を睨みつけます。
「先生!正人さんが来るのを知っていたのですね」
「知っていたと言ってもあきさん、昨日、ルージュのママと、メイクの先生から正人さんが来たことの連絡受けたのですからね。でも事前に知っていたら感動の再会の感激が薄らぐでしょう」
冗談のように答えて笑う先生だけど、でも、その言葉に気が付きました。
そうだったのか、前畑先生は私のこと頼んでいてくれていたんだ。女装さんは自分のブライバシーを明かさぬものなのに、先生はあえてそれを破って医者であること、医院の場所を教えたと言うことを。
「でも先生、ありがとうございます」
頭を下げたら、<いいのですよ>言いながら背を向けミカちゃんの手を取って奥に消えてしまいます。
私達を二人にしょうと気を利かせたのでしょう。
「でも正人さんよくあんな手掛かりで私を見つけましたね?」
自分で手掛かり残しながら聞かずにおれません。
琥珀の指輪とそれを傷つけないように、私は大事に鏡台の引き出しに入れていた
花火大会のチラシに指輪を包んで、髪を止めていたゴムバンドで縛って秘密の箱に入れてミカちゃんに渡したのです。 <続く>