95回 <22日の誕生日で93歳になりました。>

     <TIkT0k  とくみチャンネル>参照下さい。

<注・イベント舞台での誕生日お祝い。赤い衣装、筆者>

95回

 静さんの話は続きます。

 「それで貴女、正人さんの社宅を出てから家探しと、働くところ探しているのだって?」

 「ええ、家の方は取り合えずワンルームのアパート借りることはできたのですけど、勤め先はね~、ハローワークに行ったのですけど、身についている病院の事務の仕事を生かそうと相談したけど、ないのです。

 パートやアルバイトの仕事はあるけど、それでは生活できないし~。まあ、ハローワークに申し込んでいるけど、それだけに頼らず自分で歩いて探すしかないかと~」

 「わかった~明日私の家に来なさい。力になれると思う」

 「ええ、静さん心当たりあるのですか?」

 静さんのはっきりした答えに、飛び上がりたくなるほどの嬉しさです。

 

 お母様に頂いたお金は相当あっても、敷金と家賃のためで生活費に使えばあっという間に消えてしまうのです。

 勤め先が決まらないと深刻なことに見舞われると、私は気がきでなかったのです。

 「私のしてきた病院の事務を生かせます?」

 「あら、あら、あきさんたらせっかちね~心配しないで、ここの住所よ。」

 

 手帳にボ-ルペン走らせると、静さんは用紙を切り離すと私に渡します。

 「あら静さん、ここから電車で15分ほどの終点の駅ですね。駅から近いのですね?」

 「駅降りて駅前通りの商店街を右見ながら歩くと、<前畑医院>の看板がでているから、そこがそうなの」

 「えっ、医院ですか?嬉しい。よろしくお願いします。頑張りますから~」

 思わず静さんの手を握って振り回してしまいました。

 こんな幸運てあるんだと思いました。さっきまでルージユで水割りあほって泣きたい気持ちを、酔いでごまかしていたのに~。

 嬉しさが先立って、正人さんに会えない寂しさも一気に吹き飛び、生活の先行きの不安も消えて、酔いも手伝って陽気な気分が戻ってきたのです。

 

 それからは静さんと二人、カラオケ唄って、唄って~。

 

  

 <前畑医院>の小さな立て看板はすぐ見つかりました。

 <休診>の小さな木札が扉の取っ手にぶら下がっています。

 鍵の掛かっていない医院の扉はすぐに開きました。

 待合室とカウンターが向かい合っています。カウンターの背後にカルテの束が棚に仕分けられて並んでいます。

 待合室にはソフアーが二列並んで、子供が遊べるスペースには緑の絨毯が引かれて

積み木や絵本小さな子供椅子があります。

 カウンターと待合室の間に廊下が奥に伸びていて、診察室などがあるのでしょう。

 

  「ごめん下さい」

 声掛けたら廊下を隔てた奥から<は~い>返事が返ってきました。

 青の事務服を着た中年の婦人が現れました。

 「あの~前畑先生に面接に~」

 後の言葉が遮られました。

 「ああ、あきさんでしょう。ほんとだ、先生の言う通り可愛い娘さんだ。どうぞどうぞ上がって」

 急かすように言われて、下駄箱に靴を入れてスリッパーに履き替えます。

 「奥の部屋よりここのソフアーの方が気楽でしょう。今、お茶淹れますから」

 「私、お客じゃないのです。先生に面接に来たのです。ここで事務職のお仕事あると聞かされて」

 「はい聞きましたよ。あきさん、相原さんですね?貴女が私の後継いでくれると先生に聞かされて、助かった~喜んでいるのよ。いえね娘がお産で帰って来るのよ。孫が生まれるのよ。私、若いおばあちゃんになりますの。だから娘の付き添いしてやらないといけないでしょう。ないしょだけど仕事どころではないの」

 嬉しそうに笑い飛ばすようにして話す婦人に、私も釣られて笑顔になるのです。

 

 「あきさん来たね~」

 声がして、あれ、聞いたような声?と思って振り返ると~

 <静さん~>言いかけて慌てて口閉ざしたものの、言葉が漏れたようなのです。

 白衣姿の男性が笑っているのですけど、歌舞伎役者のような大きな目を見て静さんだとすぐわかったのです。

 女装さんが男性に戻れば、肩書のある職業の人が多いとは知っていましたが、まさか静さんがお医者さんとは思いもよりませんでした。

  「すみません。うっかり~」

 「ああ、女装のこと?大丈夫です。この人も看護師さんもみんな私の女装のこと知っているから安心しなさい。うちの医院では女装さん公認だからね。ああ、あきさんの女装さんもスタップには言っていますから安心しなさい」

 「ええ、それじゃ私~女装してお仕事してもいいと言うことですか先生」

 「気にしなくていいのよ。貴女の話が先生から話が出たときから貴女の女装のこと説明あったのだから安心なさい」

 そばから事務職の婦人の口添えです。<まだ紹介もされずこの人の名前も聞かされてないと言うのに、女装のことが真っ先に出てくるなんて~。>

 嬉しさの混じった安心感です。

 

 トップの理解があればこんなにも違った環境になるものか?静さんの女装の想いの強さを感じながら、私は正人さんの社宅での環境の厳しさとの比較をするのです。

 「じゃ本条さんあきさんとの引継ぎは明日にして、私はあきさんと面接しますので

帰っていいですよ」

 「はい先生。あきさん、いえ、相原さん明日は8時半ですよ。9時の開院まえに打ち合わせしますからね」

 「はい、よろしくお願いします」

 医療事務職の婦人は本条さんというのだ。なにか仕事の緊張感が解けてくる気がします。

 前畑先生は本条さんが帰るのを見送ってから、私の座るソフアーの前に座ります。

 「じや、あきさんでなかった、相原さん、今から私は静でなく前畑医師として面接します」

 「はいよろしくお願いします」

 確かに白衣姿の静さんは、男性で笑顔だけど何か厳しい医師の表情で私を見つめているのです。

 「私の医師としての、この医院でのありようの考え方を説明します。私はね、患者さんが気安くクレームが言える、そんな医院にしたいと思っているのです」

 「ええ、クレームつけるのを歓迎するのですか?」

 驚きました。私の勤めていた病院の医師とはまるで違う考え方です。

 <続く>