77回
仕方がありません。このゴミ袋でのごみでは業者は引き取ってくれません。二つのゴミ袋下げて社宅に戻りました。
新しいゴミ袋がいるのです。どこへ行けばもらえるのか?社宅の奥さんに聞くこと思っても、私に向けられる冷ややかな視線を思うと勇気がありません。
考えた挙句思いついたのです。
役所の支給のゴミ袋なら家に届いてくるはずです。でも社宅の場合は会社のビル全体にまとめて届くはずです。
時間を見てから、一階に降りて会社の事務所に行きました。
担当の白い名札を見て庶務の部屋に入りました。
小さな部屋にテーブルが並んで若い男性がひとり机で書類相手に仕事しています。
気配に顔上げて私を見ると慌てて立ち上がるのです。
「なにか?」恥ずかしそうな表情で見つめてきます。毎度の若い男性の共通した反応です。
「上の社宅の者ですけど、ゴミ袋変更なったのを知らなくてゴミ捨てできないので
こちらで頂けないかと思いまして~」
「ええ?確かに会社で一括購入して、事務所だけでなく社宅の方にもお届けしたのです。届いてないのですか?」
「はい、それで困って~」
「社宅は当番の方に一括し渡していますから届いているはずなんですが?聞いてみてください」
「それが、先ほどもご主人の方に言われて聞いたのですけど、もらってきてくださいとか~」
「変ですね~失礼、お名前は?」
「穂高ですが~」
「えっ、穂高さんですか?」
うなずくとまじまじ私を見つめるのに、ぴんときたのです。<私を知っている>
「はい、こちらに住んで間がなくて、皆さんともなじみがないのです。ゴミ袋がないと私のほうのゴミ袋でゴミ箱に入れるしかありませんので、業者が引き取らないままゴミ箱に溜まっていくしかなくて、皆さんにご迷惑かけることにならないかと~」
「そうですか~分かりました。それはお困りでしょう。これからは直接私のところにゴミ袋取りに来てください、お渡ししますから」
笑顔でうなづくとケースの戸を開けて、ログのついたビニール袋の束を出して渡してくれたのです。
事情は分かったみたいです。
社宅の奥さん達の嫌がらせにあっていることを知ったのにちがいありません。
でも、こんな味方になってくれる人もいるのだと、嬉しくなります。
「ありがとうございます」
嬉しさを笑顔に見せて会釈すると、男性は手を振ると照れくさい表情見せるのです。そうです、いくら私が男と知っても美人には弱いのは正人さんだけではないのだからと、変な自信もっている私です。
帰って玄関の戸を開けるとミカちゃんが立っているのです。
「お帰りママ、玄関にゴミ袋二つも置いてどこ行っていたの?」
不思議な表情のミカちゃんは私のいないのが気になって、玄関で待ち受けていたみたいです。
「ごめんね~ミカちゃん。このゴミの袋では持って行ってくれないので、袋もらいに行ってきたの。早くゴミの入れ替えしないと業者さん行ってしまうから手伝ってね」
言いながらごみの袋の口を開けたら、ミカちゃん笑い出すのです。
「ママ、そんなことしなくてもゴミの袋ごと袋に入れたら早いじゃないの」
「あらほんとだ~ミカちゃん良く気が付いたね」
「だってママがいない時に、おばあちゃんに家のこと教えられていたもの」
「そうなんだ。それでママのお手伝いできるんだね」
会話交わしながら、二人でゴミ袋の入れ替え作業します。
「ミカちゃんゴミ捨てにママと一緒してくれる?」
「いいよママ、一緒に行こう」
ミカちゃんを誘ったのは、この時間エレベーター横のフロアーで社宅の奥さん達がおしゃべりしているときと気が付いたからです。
嫌がらせされているのを知っては、冷たい視線向けられるのがわかっているだけに一人では嫌だったのです。
ミカちゃんには軽いゴミ袋持たして、手をつないで出ます。
フロアーでは?やっぱり奥さん達が輪になっておしゃべりしていました。
ミカちゃんの手を握りしめて、気づかぬふりしてエレベーターに向かいます。
でも無理です。
話声がぴた~と止んで一斉に奥さん方の視線が私達に向けられたのです。
「あら~ミカちゃんお早う。ゴミ捨てに行くの偉いね~」
一人が私を無視してミカちゃんに声かけてくるのです。
「お早うおばちゃん」
挨拶するミカちゃんに合わして、私も無視されていても会釈してみせます。
「ミカちゃん家のこと男のお母さんを助けて頑張っているのね」
「おばちゃん男のお母さんでなく、ママだよ」
「ああ、男のママだね」
別の奥さんが追い打ちかけてミカちゃんに言うのだけど、私に言っているのが分かります。
「止めてください!」叫んだのです。
「子供に言うことではないでしょう。失礼です」
もう辛抱できません。奥さん達を睨みつけました。なんてひどい人達なの~怒りの視線を一人一人の奥さんに向けます。
私の剣幕に恐れたのか、睨みつけられると視線を伏せたのです。
しぃん~とフロアーが静まりかえります。
「ミカちゃん行こう~」
ミカちゃんの手を引いてエレベーターに駆け込んだのです。
その私達の背に追っかけるように声が届いてきたのです。
「やっぱりね~綺麗な女と思っても、男だよ」
背中にグサッと突き刺さるような言葉に聞こえたのです。
<どうして、こうまで言われなければならないの?>心のなかで叫びます。
耐えているつもりでも、涙が伝い降りてきました。
「ママどうしたの?おばちゃん達にいじめられて悲しいの?」
ミカちやんが心配そうな表情で見上げます。
「大丈夫だよ、ミカちゃん、ママは強いんだから~」
慌てて目元を拭うと、ミカちゃんに笑み見せたのです。
そうなのです。ママは強くなければ~ミカちゃんを守れません。
若い娘のようなママだけど、でもママには違いないのです。そしてママだから強くないとホントのママになれないのだ~と、私は自分に言い聞かせているのでした。
正人さんから長距離電話がかかってきたのは、その日の夜のことでした。
<続く>