63回

 「只今~」

 玄関の戸を開けて正人さんが声あげると、私も続いて~

 「只今、帰りました~」声上げます。

  上がり口に行くのと、リビングの戸が開いてミカちゃんが飛び出してくるのが同時です。

 「ママお帰り、待っていたよ!」

 叫ぶような声あげてミカちゃんは私の懐に飛び込んできて抱き着いたのです。

 持ち重りするミカちゃん抱いては、身動きできないほどです。

 「ミカ~パパは?」

 「パパはいいの~」

 「いいのだって、ママに抱いてもらっていたらママは部屋に上がれないよ」

 正人さんは苦笑いして答えながら、ミカちゃんを抱き寄せて立たせます。

 

 「ミカちゃん京都のお土産あるのよ。見たいでしょう?」

 「お土産?やった~なになに?ママ~」

 「リビングでね~」

 ミカちゃんに手を引かれてリビングに入ると、正人さんのお母さまがコーヒーを淹れている手を休めて、笑顔で迎えてくれます。

 「お母様只今帰りました」

 「お帰り~早かったね」

 「ミカちゃんが待ちかねていると思って、大急ぎで帰ってきました」

 「新婚旅行だからゆっくりすればいいのに~」

 「僕があすには仕事に行くから仕方ないんだよ」

 「仕事て~正人さん結婚したのだから、会社だって休みくれるでしょう?」

  不審そうなお母様の表情に正人さんは平気な顔でいるけど、私はどきりとしました。会社に結婚届けできないことは私も知っているのです。

  悔しいけれど法律上では私達の結婚は認めてもらえないのです。当然、会社に結婚届は正人さんも私も出すことできないのです。

 

 「ああ、お母様お土産です。京都のお土産はありふれてますけど八つ橋です」

 お母様の疑念をそらすのに慌てて話をそらして、八つ橋の箱を渡します。

 「ありがとう。八つ橋なんて久しぶり~コーヒ淹れたから飲みましょう」

 並んでいるコーヒカップにコーヒーを注ぐお母様にほっとします。

 <それにしても、正人さんは私のこといつお母さまに話すのだろうか?>

 何時も気になることが、また浮かんでくるのです。

 本来は私がお母様に<カミングアウト>すべきことです。でも正人さんは<結婚ということを念頭においての話だから、僕から話す>と言ってくれたのです。

 でもそれは正人さんの優しさだと私は理解しています。<カミングアウト>することの不安に包まれた辛さ、勇気のいることの大変さを正人さんは分かっているのだと思うのです。

 確かにいつかはお母様に私の性のことを話さなければならいとは、覚悟しているのだけど、でも昔気質のお母さまの反応を思うと、恐ろしいまでの不安に包まれて、私を女性と思い込んでいるお母様には、そのままで思って欲しい。

 そう逃げてしまう私なのです。

 

 「ママ、お土産開けるよ」

 ミカちゃんの嬉しそうな声に、私はママになったのだと改めて実感します。

 包紙を開けたミカちゃんは、箱の絵を見て歓声をあげます。

 「おばあちゃん見てみて~カメラだよ」

 「良かったね~ミカちゃん。ママはミカちゃんの喜ぶもの知っているのだね」

 笑顔でうなずくお母様にテストをパスしたような気持ちです。

 カメラの絵が描かれた箱を開けると、包装紙に包まれたカメラが姿を現します。

 一目見て軽やかで桃色の子供のおもちゃと思えるようなデザインだけど、静止画像だけでなく動画も撮れる優れものが、おもちゃさんで売っていたのです。

 ミカちゃんはまた歓声をあげます。

 「ママこっち見て~」

 ミカちゃんはもう私を撮るつもり?カメラを私に向けて構えているのです。

 「はい、ママ、チーズ~」

 言ってシャッター押して首傾げます。

 「ママ動かない?」

 「ごめんミカちゃん、言うの忘れていた。お店の人が電池は別売りと言っていたの。電池入れないと写せないの。パパに電池ないか聞いてみて~」

 「わかった~パパ~電池探して~」

 今度は正人さんに向かって、カメラ抱えて走るミカちゃんです。

  そんなミカちゃん見送って、お母様と顔合わせ笑ったしまいます。

 「ミカは本当に貴女が好きなのね。食事すましてお風呂入ろうと言っても<嫌だ>とごねてね~貴女が帰ってから一緒に入るんだって~」

 「やはりね~いえねお母様、ミカちゃんと私約束してますの。旅行から帰ったらお風呂一諸に入るて~」

 「そうだったの~矢張り小さい時母親に抱かれて風呂に入った記憶が忘れられないのかね」

 「お母様恋いしい気持ちがあるのでしょうね」

 「それで母親とよく似たあきさんを母親と思うのかね?いえ、ごめんなさいねあきさん、若い娘だった貴女をいきなり結婚したとたん、母親にさしてしまって~申し訳ないと思っているのですよ」

 「いいのですよ。私、正人さんと結婚出来て最高に嬉しいし、ミカちゃんが可愛くて、だんだん自分が母親気分になってきているのですから」

 「ありがとう、それを聞いて安心しました。でもね~貴女のその服お似合い、私の

見立て良かったと自慢できる、まだ娘にしか見えないもの」

 「ありがとうございますお母様。素敵なドレス頂いて~それがねお母様京都の常寂

寺の真っ赤な紅葉の下に私が立ったら、正人さんがドレスの青が紅葉に浮いて見えて素敵と言ってくれたぐらいですのよ」

 ほんとはそれに加えて、天女といゎれたことは恥ずかしくて言えません。

 「正人さんがそう言ってくれましたか」

 お母様は嬉しそうな表情でうなずきます。

 でもすぐ真面目な顔つきになって私を見つめるのです。

 「それで、どうでした?」

 私に問うお母様です。でも、なんのことか?問われていることがわからなくて首傾げます。

 「いえね、正人さんと上手くいったの?」

 言われてやっと気がついて、途端に真っ赤になってしまいます。

 でも、答えるしかないのです。

 「始めは無理だから時間かけてゆっくりしていこうと、正人さんが~」

 うつむいて小さな声で答えます。

 お母様は男と女の関係で問われているけど、私は男と男のことを問われているように聞こえて身が縮まる思いなのです。 

 「それは、そうですわね。気にしなくていいのよ。若い娘なのだから当然のことだから安心なさい」

 優しいまなざしで私に元気つけるように言葉かけるお母様に、安心感が広がり私を満たしていくのです。

 <続く>