61回

 「こんな立派な部屋で、私には過ぎます」

 心に思っていた言葉が思わず口に出ました。

 「そんなことはないよ、あきさん。今夜は僕たちの結婚初なんだから、女将にもそう言って頼んだのだから、そうだね女将」

 「はい、そう伺いましたよ奥様。穂高さまとは長いお付き合いで、奥様を亡くされて本当につらい思いされていたのが、こんなにお若くて綺麗で、落ち着いた方を奥様にもらわれたのですから私も喜んでいるのですよ」

 女将さんは私に笑顔見せて相槌うつのです。

 「そんな~恥ずかしい~」

 もう居たたまれない気持ちです。続く言葉がでなくて顔が染まるのを意識してしまいます。

<結婚初夜なんて正人さんたら恥ずかしげもなく言うのだから、もう~」

 女将さん正人さんのこと知っているようです。

 「それでは私はお邪魔ですから引き下がります。この部屋はだれも参りませんから、ごゆっくりお休みください」

 

 女将さんが部屋から出た後、テーブル挟んで正人さんと向き合います。お茶を口につけても顔のほてりが引きません。

 「あきさんどうしたの?赤い顔して~」

 「もう~だって正人さんたら~あんな恥ずかしいこと言って~」

 「ああ、結婚初夜てこと?」

 むきになって怒る私に、正人さんは破顔するのです。

 「どうして笑うの?私、女将さんに恥ずかしくて何も言えなかったのよ」

 「あきさんの怒った顔~凄く初々しくて可愛いのだから。ほんとにあきさんは男性なの?信じられなくなって~」

 「それは言わないで!私は女として正人さんと結婚したのよ」

 「そうでした。僕も女のあきさんと一緒になったのでした」

 また、嬉しそうに笑い声あげる正人さんに怒る気もおきません。

 <男>と言われると、私にはその言葉は短剣で突き刺されたようにこたえるのです。

 

 私にはそれはタブーとして私のなかにあるのですから。

 私は立ち上がり、隣の部屋のふすまを開けます。

 雪洞<ぼんぼり>のようなオブジュエライトの赤い光が、畳の間に敷かれている真っ赤な布団を照らし出しています。

 そして大きい枕が二つ並んで~。

 慌ててふすまを閉めました。

 

 ドキドキしている鼓動を覚えながら、正人さんに気付かれないように、なにくわぬ顔で反対側のふすまを開けます。

 板の間があってガラス越しに浴場と分かります。

 ガラスが曇っているのでもうお湯が張っているようです。

 板の間の棚に籠が二つあって浴衣がそれぞれかごにあります。

 

 「あきさんせっかく風呂場に入ったのだから、二人で風呂に入りましょう」

 背中で正人さんの声に飛び上がりそうになりました。

 「ダメです。正人さん先に入ってください。私は後で入りますから」

 「なに言っているの?新婚は二人で入るものですよ」

 「そんな~正人さんさっきに私に言ったでしょう。私は普通の女性じゃないのは分かるでしょう。姿見せるなんて恥ずかしくて見せられません」

 「なにいいますか?あきさんさっき僕が言いましたね。あきさんは女性だと。だから当然一緒に入るものです」

 「もう、変な理屈こねて~」

 「いいえ理屈じゃないですよ、あきさん。僕が一緒にお風呂入りたいだけですから。嫌だと言っても服脱がしますからね」

 「正人さんたら~分かりました。入りますから、背広脱いでください。衣紋かけにかけないとしわになりますから。私も正人さんが風呂場に入ったら、後から続きますからね」

 なにか正人さんの口に乗せられて、結局正人さんの言いなりになっているみたいです。

 でも自分自身、口ではダメと言いながら、心のなかでは望んでいるような気持ちがあるようなのです。

 

 正人さんが背広を脱いで脱衣場に入るのを見届けて、背広を衣紋かけにかけ、私も正人さんのお母さまに頂いた青い洋服を脱ぎ、スリップ姿になって脱衣場の戸を少し開けてなかを除きます。

 正人さんの姿は見えません。ガラス越しに黒い影が映り、湯を浴びる音が漏れます。

 スリップ、ショーツ脱いで股間のタッグを外すか?少しためらってから、思い切って外しました。どうせ正人さんに脱がされることになるのは分かっているからです。

 タッグは由美さんが結婚祝いにくれたのです。

 なぜまたこんな恥ずかしいようなものをお祝いにくれたのか?疑問に思ったものですが、ミカちゃんとお風呂一緒に入ると約束することできたのは、このタッグがあったからです。

 

 裸身に前隠して、胸はホルモン飲んでいるわけでもないのに、最近膨らんできたので、まあいいか~と、見せることにしたのです。

 風呂場の戸をそっと開けて滑り込みます。

 檜の湯船に、床も木組みの和風の風呂場です。格子窓からライトに照らされて竹の塀をバックに築山があり、その前にも檜風呂が湯気をあげているのです.

  ガラス戸を隔てて野天風呂があるのす。

 

 正人さんは檜の風呂椅子に座って全身泡だらけにしていました。

 「あきさんそのままで~」

 湯船の前にかがんで体を流そうとした私を正人さんは押しとどめるのです。

 「どうしたの?正人さん」 

 「あきさんの立ち姿見たいのです」

 「立ち姿て~また、私に恥ずかしいことさせるの?」

 「黙って~立って動かないで~ポーズしなくていいから、そのままじっとしていてください」

 私を制して正人さんは座った風呂椅子からじっと私を見上げるのです。

 真剣な眼差しで見つめられると、動きたくても動けずすくんでいるしかありません。

 「あきさん綺麗~凄い、人魚?いやウ“ィ―ナスだ。なんて綺麗な身体なんだ」

 褒められている?いえ、正人さんの眼差しは獲りつかれている眼差しなのです。

 「あんまり見ないで~正人さん。」

 言いながら、体中が一気に熱くなったのです。

 「白い肌が桃色になってきたよあきさん。」

 声上げると、正人さんは風呂椅子から一気に立ち上がると、<これは邪魔だ>言いながら、股間を隠していた私の手からタオルをはぎ取ったのです。

<続く>