58回
指にはめたオパールの指輪、次々かわる色のきらめき~
見とれて夢中の私に正人さんから声がかかります。
「あきさん指輪はづしてくれる」
「どうしたの?正人さん」
不審に思って問い返します。でも不審に思いながらも笑み浮かべる正人さんに指輪を手渡します。
「今、あきさんがはめた指輪は亡くなった妻への指輪です。」
言いながら正人さん私の手を取ってオパールの指輪を私の指にはめるのです。
「これがあきさんへの婚約指輪です。おめでとうあきさん、ミカと僕をよろしくお願いします」
「正人さんありがとう」
嬉しさがどっと沸きあがります。涙が瞼に浮かんできます。
「嬉しい。私、正人さんの奥さんになるのね?ミカちゃんのママになるのね」
「そうだよあきさん。今日から僕の奥さんなんだよ」
言いながら体を寄せた正人さんに抱きしめられました。
顔がかぶさってきて口を寄せてきた正人さんに私は指先当てて止めます。
「ほんとにいいの正人さん?私は普通の女性じゃないのよ」
「なにをいまさら~あきさん。考えてごらん。僕があきさんと暮らしたいと言ったのは、あきさんの体のことを知ってからだよ。知っていて僕はあきさんにプロポーズしているのだから。
世間の人はともかく、僕は亡くなった妻とあきさんとを重ね合わして愛して、結婚したいと思ってプロポーズしたのだから、性の違いなんて意味のないことを分かって欲しい」
まじかに顔寄せられ、じっと正人さんの目に見つめられます。もう返す言葉がありません。不安が消え去って一気に激情が駆け上がります。
「正人さん好き~」言ったとき正人さんの首にかじりついて唇重ねていました。
もう、間違いなく女装子の私が普通の女性のように奥さんになれたのです。
その場所にすぐ着きました。
タクシーを降りた前の建物は、これレストンなの?と思わすような建物なのです。
昔の建物?といっても古色蒼然ではなくモダンな印象を受けます。
立ち止まって建物を見上げた私に腕を組んでいた正人さんが笑顔で話しかけます。
「この建物はあきさん由緒ある建物なのです。<重要文化財>に指定されているのですよ。昭和4年に電話交換局として建造された<旧逓信省芦屋別館>だったのです。そして今は<芦屋モノリス>という名のレストランなのです。」
「芦屋モノリスて~正人さんの住む社宅から見えた集合住宅でしょう?」
「そうですよ。作家の村上春樹が名づけた<モノリスの群れ>ですね。それにあやかったのでしょうか?このレストラン。入ったら分かりますが普通のレストランと違うもの感じます。高級感でしょうか?」
「でもお昼の食事するにはもったいない気がします。ミカちゃんどんな食事しているのでしょうか」
「あはは~両方とも気にしなくていいですよ。」
正人さんは小さく笑います。
「じつは白状しますあきさん。外国のお客さんが帰国するのに食事してもらうために予約していたのが、予定より早く帰国されたのです。ほんとならキャンセルするのを私たちの新婚旅行のためにそのままにしておいたのです。もちろん私名義に予約は変更しましたけどね」
ウインクする正人さんに笑ってしまいます。
「ミカは心配いりません。今朝僕が出るとき<ママと一緒に帰ってくるから>と言ったら大喜びして、<おばあちゃんと留守番している>言っていましたから」
「良かった~帰ったらミカちゃんとお母様にお土産なにしょうかな?」
「まあまあ、あきさん僕たちこれから行くというのに、もう帰る心配ですか?さあレストラン入りますよ」
腕をとられて入るのに頭上見上げたらasiyamonorisu ローマ字が書かれたアーチをくぐって入口の扉がすごく変わっているのです。
「ねえ正人さんなにかレストランとおもえません」
「ああこの扉ね。そうでしょう、アールデコ様式なのです。」
「アールデコ様式?」
「それはね、1920年から30年代に流行したデザイン様式なのです。あきさんとにかく入ってから話しましょう」
私の好奇心の相手になっていたら、何時テーブルに着けるか?正人さん思ったのでしょう。せかされて内に入って~
息飲みました。
「凄い!教会のなかのレストランみたい。」
思わず叫ぶように感嘆の声あげました。
普通のレストランでは考えられないような奥行きの深いホールに、四角いテーブルが埋め尽くす感じで並び、天井には異国情緒を思わすシャンデリア・・・。
あちこちのテーブルに家族連れ、商談?の男性など身なりの整った人たちが食事しています。
白い制服の給仕が二人足早に近寄り腰かがめて迎えます。正人さんが給仕に言葉かけている間に、もう一人の給仕が足許に置いた私達の手提げかばんを持ちます。
前、後ろに給仕に挟まれてテーブルを縫って進むと、食事している人達の一斉の視線の的にされました。
目立ったのです~きっと。
仕立ての良いシックな背広姿で180を超える長身の正人さん。男性的な容貌の正人さんは俳優と思われたのかも知れません。そして私はお母様から頂いた目の覚めるような青のドレスを身につけ、170センチの背丈にハイヒールですから正人さんと肩並べる感じなのです。
きっと私も女優と思われたのかも~。
<良かった~朝早くメイクの先生に出てきてもらって>
新婚旅行です。自分のメイクでは恥ずかしくて、女装さんのメイクでは日本一と言われる先生のメイクをお願いし~<ウイッグ>も奥様風のウイッグにしてもらいました。もう、娘とはさようならですからね。
正人さんからもらった亡き奥様の遺品の指輪。
先生はケースからそのオパールの指輪をだすと私の指にはめながら言われます。
「今日で貴女は娘とお別れよ。女として奥様になるのだから、男は忘れなさい」
ほんとです。うなずきながら私は思います。こんな言葉は女装さんのメイクをしている先生しか言えない言葉だと。
「ああ、あきさん綺麗、正人さんて方幸せでしょうね。私もあなたと同じ歳に戻って素敵な旦那さん見つけて結婚したい」
「もう先生たら~見つけなくても先生の旦那さんも素敵じゃありませんか。」
先生の旦那さんは先生より10歳も年下なのです。でも先生は姉さん女房ていう感じしないのです。40歳と聞いているけど、顔の皮膚が光って、つやつや30歳ぐらいにしか見えないのは、若々しく女の色気を発散しているからでしょう。きっと旦那さんはこの色気に引き寄せられたのに違いありません。
<着付けで身寄せられたら、ぞくりとして、思わず抱きしめたくなる>女装さん達が言うぐらいです。
<私も先生のような色気を発散して、正人さんを悩殺したい>正人さんの後について行きながらそんなことを思う私です。
でも今はこのレストランのテーブルの人たちの好奇の視線にさらされている。それが私を心地良くさせているのです。
給仕に案内されたのは、他の客と離れた<予約済>とカードが立てられた席でした。
<続く>