<写真・大阪天満宮で、左・92歳・筆者 右・小説のモデルのフレンドさん>
57回
「あきさん、ミカ寝ましたか?」
「はい、ママと一緒に寝ると離してくれませんのですよ。お母様の添い寝でいつも寝るのに、いや~ママと寝ると。なにかお母様に悪くて~」
「甘える相手のママができたから嬉しいのでしょう。母は和室に引っ込みましたよ。気にしないで、気利かしてくれているのですよ」
正人さんはうなずくと、食卓の椅子を引いてくれます。
「帰らなければいけないけど、ビールは乾杯ぐらいならいいでしょう?」
私と向かい合って座った正人さんはコップにビールを注いでくれます。
コップを付け合って乾杯すると、口に流し込んだビールの美味しいこと~
お母様との嫁テストに緊張して汗だくでいて、乾いた喉に流し込んだビールは冷たくて美味しくて緊張がほぐれるのです。
「さて、あきさんへの贈り物です。私の部屋に行きましょう」
「部屋?正人さんまさか、贈り物は正人さんて?」
「はは~違いますよ。それは明日の楽しみにおいておきます」
ウインクする正人さんに気回し過ぎた自分が恥ずかしくて、赤くなってしまいます。
ミカちゃんの隣の部屋が正人さんの書斎で、大きなガラス板を張ったパソコン机にテレビ画面のようなパソコンがあるのです。
廊下を隔てた向かいの部屋が寝室で、お妃さんが寝るような豪華で大きなダブルベットに、私の背丈ぐらいの西洋鏡台がデンとあるのです。私は部屋のお掃除しながら、正人さんの亡くなった奥様が正人さんに凄く愛されていたのだと思って、羨ましく思いながらも私も同じにと~勝手に想い込んで体が熱くなったものです。
でも正人さんが入った部屋は書斎の方でした。
回転椅子に座った正人さんは向かい会った椅子に私を勧めます。
パソコン机の引き出しから正人さんは紫のビドローのケースを出して私の前に置きます。
一目見て指輪だと気づきました。
<矢張り~>思った通り、わくわくして婚約指輪を指にはめてもらう瞬間を待ち受けします。どんな指輪なのか?興味に包まれます。
でも正人さんはケースの蓋を開けようとしないのです。
手を出すわけにもいかず、正人さんの顔をどうして?問いかける表情で見つめます。
「あきさん開ける前に話したい事があるのです。」
私を見つめた正人さんはさっきまでと違う真面目な顔付だったので、<なんだろう?>疑問持ちながらも、返す言葉はなにかためらいを感じて私はうなずくだけでした。
「婚約指輪なのは確かですが、じつは亡くなった妻の指輪なのです。交通事故にあった時もこの指輪はめていましたが、傷一つなく妻の指にはめられていました。あきさんへの婚約指輪だから他に購入することは承知しています。でも僕はどうしてもこの指輪をあきさんにはめてほしいのです。
事故のときの指輪でゲンがわるいかもしれません、でも妻と結婚する前に婚約の印として、まだ駆け出しサラリーマンの僕が、有り金はたいて妻に送った妻の誕生石の指輪なのです。
まあいえば僕と妻との愛のこもった指輪といえるでしょう。だから妻を送るとき本当は妻とともにとすべきなのを棺<ひつぎ>に入れることしませんでした。僕と妻と
をつなぐ、残された唯一の印の指輪でしたから。指にはめる人はいないのは承知で処分することしないでいたのです。
その指輪を今、あきさんにはめて欲しいとあきさんにいうのは失礼かもしれません。でも、前にも言いましたね。あきさんはあきさんだと。ただ一人のあきさんを僕は愛しています。でも同時にあきさんは僕にとって亡くなった妻そのものなのでもあるのです。」
「私はあきだけど、でも亡くなった正人さんの奥さんでもあると言われるのですか?」
「すみませんおかしいこと言って、じつはあきさんと阪急の陸橋で会いましたね。
そのとき僕は妻と会ったと思いました。いえ、正しくは結婚前の若い時の妻です。
愛していた妻の突然の死を受け入れることできなかった僕は、あきさんとお会いした時、時間さかのぼって妻その人と思い込んでしまったのです。あきさんを妻の身代わりという、失礼なこと思っているわけではないのを分かってください。あきさんを愛しています。でも同時に僕にとっては妻でもあるのです。この混乱したような僕の気持ちをあきさんが受け入れてもらえるなら、この指輪のケースを開けて下さい。お願いします」
私はすぐにどう返事しすればよいのか?分かりませんでした。
長い正人さんの告白を私が理解できたとは思いません。でも、単純に私を正人さんが奥さんの身代わりと思っているのではないのは理解できました。奥さんを愛する気持ち、同時に私を愛する気持ちが正人さんのなかでは同居しているのだと思ったのです。
指輪は正人さんにとっては、奥さんそのものかもしれません。そう理解すれば私に指輪を指にはめて欲しいという、正人さんの気持ちが理解できます。
「正人さんケースの蓋開けさせて下さい。私、指輪を見たいのです」
それが私の返事でした。
渡された指輪のビロードのケースの蓋を開けます。
「オパールです。色の変化を見るというギリシャ語の由来からの命名のようです。
ローマ時代から「幸運を招く宝石」として珍重されてきたといいます。あきさんの目からは何色に見えます?」
正人さんのオパールの由来の解説も私には上の空でした。
手にした指輪に引き付けられます。「綺麗~素敵~」口ずさんで魅入られたように光輝くオパールの指輪に見とれていました。
見る角度によって輝く色が変化するのです。
赤、紫、青~赤は私、紫は奥さん、青は正人さん。名づけながらこの宝石には3人が同居している。そんなこと思いつきました。
私は引き付けられるように自分の指に指輪をはめていました。
「正人さん私、亡くなられた奥様と一緒に正人さんの奥様になります」
指にはめられオパールの指輪、その手を高く差し上げて電灯にかざします。
次々変化するその色に見とれて視線は動きません。
正人さんを見ることなく、言葉だけの返事をした私でした。
私は、今、正人さんの奥さんになったのです。
<続く>
「
<写真・大阪天満宮で、左・92歳・筆者 右・小説のモデルのフレンドさん>
57回
「あきさん、ミカ寝ましたか?」
「はい、ママと一緒に寝ると離してくれませんのですよ。お母様の添い寝でいつも寝るのに、いや~ママと寝ると。なにかお母様に悪くて~」
「甘える相手のママができたから嬉しいのでしょう。母は和室に引っ込みましたよ。気にしないで、気利かしてくれているのですよ」
正人さんはうなずくと、食卓の椅子を引いてくれます。
「帰らなければいけないけど、ビールは乾杯ぐらいならいいでしょう?」
私と向かい合って座った正人さんはコップにビールを注いでくれます。
コップを付け合って乾杯すると、口に流し込んだビールの美味しいこと~
お母様との嫁テストに緊張して汗だくでいて、乾いた喉に流し込んだビールは冷たくて美味しくて緊張がほぐれるのです。
「さて、あきさんへの贈り物です。私の部屋に行きましょう」
「部屋?正人さんまさか、贈り物は正人さんて?」
「はは~違いますよ。それは明日の楽しみにおいておきます」
ウインクする正人さんに気回し過ぎた自分が恥ずかしくて、赤くなってしまいます。
ミカちゃんの隣の部屋が正人さんの書斎で、大きなガラス板を張ったパソコン机にテレビ画面のようなパソコンがあるのです。
廊下を隔てた向かいの部屋が寝室で、お妃さんが寝るような豪華で大きなダブルベットに、私の背丈ぐらいの西洋鏡台がデンとあるのです。私は部屋のお掃除しながら、正人さんの亡くなった奥様が正人さんに凄く愛されていたのだと思って、羨ましく思いながらも私も同じにと~勝手に想い込んで体が熱くなったものです。
でも正人さんが入った部屋は書斎の方でした。
回転椅子に座った正人さんは向かい会った椅子に私を勧めます。
パソコン机の引き出しから正人さんは紫のビドローのケースを出して私の前に置きます。
一目見て指輪だと気づきました。
<矢張り~>思った通り、わくわくして婚約指輪を指にはめてもらう瞬間を待ち受けします。どんな指輪なのか?興味に包まれます。
でも正人さんはケースの蓋を開けようとしないのです。
手を出すわけにもいかず、正人さんの顔をどうして?問いかける表情で見つめます。
「あきさん開ける前に話したい事があるのです。」
私を見つめた正人さんはさっきまでと違う真面目な顔付だったので、<なんだろう?>疑問持ちながらも、返す言葉はなにかためらいを感じて私はうなずくだけでした。
「婚約指輪なのは確かですが、じつは亡くなった妻の指輪なのです。交通事故にあった時もこの指輪はめていましたが、傷一つなく妻の指にはめられていました。あきさんへの婚約指輪だから他に購入することは承知しています。でも僕はどうしてもこの指輪をあきさんにはめてほしいのです。
事故のときの指輪でゲンがわるいかもしれません、でも妻と結婚する前に婚約の印として、まだ駆け出しサラリーマンの僕が、有り金はたいて妻に送った妻の誕生石の指輪なのです。
まあいえば僕と妻との愛のこもった指輪といえるでしょう。だから妻を送るとき本当は妻とともにとすべきなのを棺<ひつぎ>に入れることしませんでした。僕と妻と
をつなぐ、残された唯一の印の指輪でしたから。指にはめる人はいないのは承知で処分することしないでいたのです。
その指輪を今、あきさんにはめて欲しいとあきさんにいうのは失礼かもしれません。でも、前にも言いましたね。あきさんはあきさんだと。ただ一人のあきさんを僕は愛しています。でも同時にあきさんは僕にとって亡くなった妻そのものなのでもあるのです。」
「私はあきだけど、でも亡くなった正人さんの奥さんでもあると言われるのですか?」
「すみませんおかしいこと言って、じつはあきさんと阪急の陸橋で会いましたね。
そのとき僕は妻と会ったと思いました。いえ、正しくは結婚前の若い時の妻です。
愛していた妻の突然の死を受け入れることできなかった僕は、あきさんとお会いした時、時間さかのぼって妻その人と思い込んでしまったのです。あきさんを妻の身代わりという、失礼なこと思っているわけではないのを分かってください。あきさんを愛しています。でも同時に僕にとっては妻でもあるのです。この混乱したような僕の気持ちをあきさんが受け入れてもらえるなら、この指輪のケースを開けて下さい。お願いします」
私はすぐにどう返事しすればよいのか?分かりませんでした。
長い正人さんの告白を私が理解できたとは思いません。でも、単純に私を正人さんが奥さんの身代わりと思っているのではないのは理解できました。奥さんを愛する気持ち、同時に私を愛する気持ちが正人さんのなかでは同居しているのだと思ったのです。
指輪は正人さんにとっては、奥さんそのものかもしれません。そう理解すれば私に指輪を指にはめて欲しいという、正人さんの気持ちが理解できます。
「正人さんケースの蓋開けさせて下さい。私、指輪を見たいのです」
それが私の返事でした。
渡された指輪のビロードのケースの蓋を開けます。
「オパールです。色の変化を見るというギリシャ語の由来からの命名のようです。
ローマ時代から「幸運を招く宝石」として珍重されてきたといいます。あきさんの目からは何色に見えます?」
正人さんのオパールの由来の解説も私には上の空でした。
手にした指輪に引き付けられます。「綺麗~素敵~」口ずさんで魅入られたように光輝くオパールの指輪に見とれていました。
見る角度によって輝く色が変化するのです。
赤、紫、青~赤は私、紫は奥さん、青は正人さん。名づけながらこの宝石には3人が同居している。そんなこと思いつきました。
私は引き付けられるように自分の指に指輪をはめていました。
「正人さん私、亡くなられた奥様と一緒に正人さんの奥様になります」
指にはめられオパールの指輪、その手を高く差し上げて電灯にかざします。
次々変化するその色に見とれて視線は動きません。
正人さんを見ることなく、言葉だけの返事をした私でした。
私は、今、正人さんの奥さんになったのです。
<続く>
「