52回
由美さんに顔の火照るような話を私を材料にされて、居たたまれられなくなって逃げだした私でしたが、自分のマンションに帰ると、夕食は正人さん達とよばれて帰ってきたので、することはありません。
メイクを落とし、風呂を沸かして湯船に浸かっていると、由美さん達の話が引き金になって正人さんとのしびれるようなキッスが思い出されて、私の男性が目覚めてしまうのです。
食事をしてから京都の高雄の夜桜を観ようと言われて、帰ると言ったら正人さんは承知しませんでした。
その会話が引き金になったのか?私は正人さんに口づけされて~
その経験は後になった今も私は思い出して、高ぶる気持ちを抑えられないのです。
正人さんが夜桜に誘って、後、何を考えているのか?経験ないこととはいえ、耳学問で後の展開がどうなるかは分かります。
そういえば私たちが出かける土曜日にミカちゃんを見るためにお母さまが呼ばれていることを聞いて、当然お母さまは泊りで来られるはずです。正人さんが仕事がお休みなのにです。
だから正人さんは外でのお泊り考えていることは、そのことでもわかるのです。
でも正人さんはいわゆるノンケの男性です。私たちの世界を知らない普通の男性です。その正人さんが女であって男性の性を持つ私を相手にできるのか?
経験のない正人さん相手に経験のない私がお相手できるのか?
その時にならなければわからない心配までしている自分に、あきれながらベットに入っても寝付かれない夜を過ごしました。
あくる朝いつもより早く目覚めて、前の日の着ていたものを洗濯すると、メイクだけは睡眠不足の疲れた顔を隠すため丁寧に化粧しました。
食事もしないでマンションを出たのは、正人さんの出勤前に社宅に着かなくてはならないからです。
ピンポ~ン鳴らしてから預かっている玄関の鍵で戸を開けて入ると、待っていたように背広姿の正人さんが、ダイニングの戸を開けて出てきました。
「お早うございます。遅くありませんか?」
挨拶したけど昨日の話がまだ頭にこびりついて、顔が火照って正人さんの笑顔見るとうつむいてしまいます。
「お早うございます。あきさん、いや、早くからすみません。ミカはまだ寝床です。食事は冷蔵庫や戸棚のもので適当にお願いします。買い物があればカウンターに財布がありますから使ってください」
「ミカちゃん寝ているて具合悪いのですか?」
「いや、そうじゃないのです。僕が寝巻着替えさせようとしたら、ママじゃないと嫌だとごねて寝床から出ないのです」
苦笑する正人さんに私も笑ってしまいます。
どうも私は正人さんの奥さんになる前にママになるみたい。内心思ったのです。
勤めに出る正人さんを送り出してから、私はミカちゃんの部屋に入りました。
ミカちゃんはベッドの上で座って、着る服を広げていました。
「ミカちゃんお早う~あら賢いね、自分でお洋服着るの?」
「ママ~ミカ待っていたのよ、この服どちらが前か?わからないの?」
「ママだって子供服は弱いのだけどね。貸してごらんなさい」
渡された子供服は、黒の綿100パーセント襟フリルの長袖Tシャツです。下は格子縞のパンツです。
「ああ、ミカちゃんこのTシャツ前後ろ着れる2WAYなの、だからどちらが前でもいいのよ」
「な~んだ、やぱっりママでないとだめだ。パパはぜんぜんわからないんだから」
「それは仕方ないのよミカちゃん。パパは男で女の服着ないのだからわからないのは当たり前なんだから」
「この服もミカがいいと言って選んだら、パパは分からないものだから店員さんに
聞いて買ったのよ」
「それでいいのよ。ママだってどちらがいいか迷ったときは店員さんに聞くもの」
「じゃ、今日はミカの服買いにママ行こうよ。財布は台所にあるからね」
「それはダメミカちゃん。パパからあづかった財布のお金は、食事の材料買うお金だから、服はパパさんに聞いてから買いに行きましょう」
「なんだ~ママはもうこの家に住むのだから、いいと思うのだけど」
「そうじゃないのミカちゃん。ママはまだ一諸に住めない通いママなんだから。ミカちゃんの世話するのに昼間だけくるママなのよ」
「でもミカのママなら一諸に住めるでしょう」
なんだか、ミカちゃんしっかりしてきて理屈いうようになって~この分では正人さんより、ミカちゃんに手焼きそうです。
「じや、服は買いに行けないけど、ミカちゃん市場に行きましょう。いろんなお店一軒一軒見ながら歩くのも楽しいよ」
「うん、行こうママ」
家のお掃除してから、マンションの廊下に出ました。
エレベーターの前のフロアーにおしゃべりしている主婦がいました。同じ社宅に住む婦人でしょう。
私たちを目ざとく見て、話し声が止んで見つめられます。好奇心の表情で見られます。足早に前を通りながら会釈しました。
「あらミカちゃんいいね~綺麗なお姉ちゃんとお出かけなの」
会釈にうなづき返した主婦がミカちゃんに声かけたので、どきりとしました。
「おばちゃん、お姉ちゃんじやないよ、ママだよ、ママと買い物に行くの」
「ええ、ママ?穂高さんの奥さんですか?」
驚いた表情で二人に見つめられて慌てました。「
「いえ、違うのです。通いママです。」
「通いママ??」
怪訝な顔つきで問い返されたけど、「失礼します」頭下げて、ミカちゃんの手引っ張ってエレベーターに飛び込みました。
「穂高さんまた若い人と結婚したみたいね」
エレベーターの扉が閉まるあいだにそんな声が聞こえてきました。
ああ、これで社宅の人達に話が広がるだろう。きっと正人さん主婦たちの話題の種にされて、問い詰められるに違いないと思います。
<正人さんどう答えるのだろう?私のことどんな説明するのか?>
口さがない主婦たちの噂になって広がるのか?気になるのですが、もう手遅れです。
<続く>