私が気になったのは、正人さんの言葉の中になにか隠されたものがあるように感じるのです。

 好きな人に告げる言葉が常識的でないこと?

 なぜ結婚でなく、一緒に住みたいと飛び越えた言い方を正人さんは告げるのか?

 それにまだあります。

 私が正人さんにどうしても言わなければならない言葉、でも私が勇気のなさからどうしても言えない言葉~<カミングアウト>

 ためらう私に<無理していう必要はない><言えるときまで待つ>と言ってくれた正人さんが、今、<知る必要がない>と言われたことです。

 それに<資格がない>といった私に事情も聴かないでなぜ否定できるのか?

 

 そんな正人さんの数々の言葉に、どうしても正人さんに<問いたい>その気持ちが私に少しの勇気をもたらしたのです。

 「正人さん教えてください。私の抱えている悩みを正人さんに打ち明けることできないで申し訳なく思っています。でもいつか正人さんに告げなければいけないと、覚悟はしているのです。それなのに正人さんは知る必要がないと言われるのはどうしてですの?」

 <なにか突き放されたようで、冷たいと思います>その言葉が後に続けようとしたけど、思いとどまりました。それを言えば正人とのつながりがぷつんと切れるような気がしたからです。

 

 「悪かったあきさん、僕の言ったこと気にしていたんだね。白状するけど僕もあきさんの告げることのできない悩みは何なのか?気にしていたんだけど、でも気が付いたのです。あきさんを愛しているなら、そのあきさんの悩みも一緒に引き受けてあきさんを愛すればいいんだと答えだしたのです。だから辛い思いして無理に僕に告げることしないでいいから安心していいよ、それでいい?」

 笑み浮かべて私に握っていた手を強く握りしめてきて、私の顔覗き込んだ正人さんに嬉しさがこみあげて、笑顔を返す私です。

 

 由美さんが<カミして正人さんが愛している気持ちが本物か?確かめるのよ>言ったけど、そんな必要なかったという安心感も含めて、正人さんの私を愛する気持ちの確かさに、ただただ嬉しに包まれるのです。

 「正人さん安心して打ち明けます、私は・・・」

 言いかけた私の言葉を抑えるように、正人さんの指が私の唇を抑えたのです。

 「あきさん言わなくてもいい、僕にはわかっているのだから~」

 「わかっている?て~」

 言いかけた私の言葉は、今度は正人さんのキッスで言葉は止められます。

 抱き寄せられ口づけされて正人さんにしがみついた私は、反射的に口を開けると入ってきた正人さんの舌でなぞられます。

 でもそれはすぐ引き上げられて、正人さんは私の耳元でささやくのです。

 「あきさん愛し合うものの間には、質問はいらないの~」

 その正人さんの言葉が私を一気に情感の虜にさせたのです。

 

 「正人さん好き~愛しています~」

 「あきさん僕も愛しているよ~」

 後は互いの口が一つになって絡み合い、車の座席に寝かされ正人さんの体の下で正人さんの激しいキッスに酔い知れ、情感の渦に巻き込まれ、興奮の極致に包まれていました。

 男の性は忘れ、女として正人さんのキッスを受け止めている私でした。

 時間の過ぎるのを忘れていました。

 

 駐車場の車のエンジンの走り去る音の大きさに我に返ります。正人さんも気がついたようです。

 私の手を引いて車の座席から起こされました。

 「早く病室に帰ってやらないとミカ怒っているに違いないよ」

 言っている正人さんは言いながら、嬉しい表情を見せて車から出て私の手を取って車から私を受け取るのです。

 

 駐車場を横切って病院に向かいながらも、正人さんは私の手を放しません。

 「ミカちゃんきっと遅いて言いますよ」

 「でも大丈夫、ママと一諸に住むことになったと言えば機嫌治りますよ」

 「ええ、そんなこと~私、住むなんて返事していません正人さん」

 「大丈夫~あきさんのことわかっているから気にしなくていいから」

 「またですか?何が大丈夫なのか教えてください」

 「あれ、さっきの僕とのキッスで分かったはずですよ」

 「もう恥ずかしい~もういいです」

 にこにこしながら、正人さんの楽しむ口ぶりでのやり取りに合わすより、何が大丈夫なのか?それがわからないもどかしさ~でも、キッスなんて言われたら恥ずかしくて聞き返せないのです。

 

 「わかりました。言いますよ。キッスの興奮であきさん下半身押し付けてきたので分かりました」

 「まさか?私そんな恥ずかしいこと~」

 血が一気に上がりました。顔が真っ赤になるのがわかります。

 「うふふ~あきさん赤くなっている。恥ずかしがらなくてもいいです。僕にはあきさんの悩みの理由がわかって安心したのですから」

 「もういいでしょう。恥ずかしいけど教えてください」

 「あきさんが男で、女装子さんだと知っています」

 正人さんさらりと私に告げるのです。

 その答えにうろたえました。どうしてわかったの?疑問に振り回されて聞きたいけど、正人さんの顔を見ることもできません。

 

 「どうして知っていますの?」

 うつむいて小声で問います。

  「いえばまた恥ずかしいでしょう?とにかく花火見物の時分かりました。少し驚きましたが、後であきさんへの気持ちがどうか?自分に問いました。それで分かりました。あきさんが男でも僕には女性だということです。だから女性のあきさんと暮らして生きたいと思ってきた自分に正直になろうと思ったのです。

 ただこれは僕だけの想いで、昔気質の母には理解できないことでしょうから、言わないでいます。ミカはもちろんあきさんはママですから、それでいいでしょう」

 

 正人さんの気持ちを知って涙がでそうになりました。私が女装子と知ってもなお私を愛していると言ってくれていたのです。

 叫びたいほどの嬉しい想いです。

 たとえその想いが私と正人さんだけのもので、誰も知らないことにするしかないとしても、私にはそれで充分な喜びなのです。

 「正人さんありがとう。私、嬉しい」

 もっと嬉しさを伝えたかったけど、言う言葉が見つかりませんでした。

 

 「だからあきさん僕には新婚旅行の気持ちでいるから、土曜日は付きあってくれますね?」

 「はい、お供します」

 こんなときどんな返事すればいいのか?わからいままに答える私です。

 でも内心、正人さんとの新婚旅行?どんな経験が待ち受けているのか、少しの不安はあるけど、わくわくする思いが勝っているのでした。

<続く>