「アドバイスなんて言ったけど、そんな大層なこと言うわけではないのよ」

静さんはうっすらと笑み浮かべて私を見つめます。

 目元が細くなって見つめられたとき、どきりとしました。息吞む気分になったのは、あふれる色気の発散に魅せられたからです。

 女装子の女になり切っている私なのに、奥底にある男の部分にアタックされたようでした。

 落ち着いた物言いに年配と感じさせたけど、30歳位なの?

 <男さんが魅入られるような女装さんだろうな?>

 自分の悩み横に置いて、お姉さんのような静さんを見つめていました。

 

 「あきさんは女装子忘れられないようだけど。そんなこと忘れて自分が純女と思うのよ。女として正人さんに自分の気持ちに正直になって、私も愛しているというのよ。普通は好きだと思う人に打ち明けるのはすごく勇気が言って、断られたら?と、相手の気持ちわからないことから悩むのでしょう。でもあきさんはいいな~

と思うのよ。相手の正人さんの気持ちが分かっているのだから、愛していると言われてね。

 だから、待つと言ってくれても、正人さん、あきさんの返事待ちに悩んでいるでしょうね。だから早く返事してあげないと気の毒じゃない?」

 静さんの言葉にあっと気が付きました。

「私、自分のことだけで悩んでいて、正人さんの悩みは気が付きませんでした。そうでした早く返事してあげないと失礼でした」

「そうよ。正人さんは貴女を純女として告白したのでしよう。だから貴女も純女の気持ちで返事してあげないとね。女装子の話は後のこと。あきさんも正人さんを愛している限り返事しないとね」

 

 言われて気が付いたのです。私、自分の悩みに閉じこもって正人さんの事忘れた自分勝手な私なのを。

静さんのアドバイスに目の前が開けて、正人さんに会うことを考えだしていました。

 

 帰りしなに静さんは私の耳元でささやいたのです。

「あきさん、いつか正人さんが貴女の女装子を知るときがくるしょう。そのとき貴女が気にしているように受け入れてくれないことがある可能性は確かにあると思うの。そのときは女装子の避けられない運命の定めと思って従いなさい。いくら女に身をやつしていても、辛いけれど女でないと烙印を押される悲しさに女装子はただ耐えるしかないの。。それは覚悟しておきなさいね。それが女装子に待ち受けている現実なのだからね」

 静さんのささやきはぐさっと私の胸に突き刺さります。

なにか引導でも渡されたみたい。でも、たしかに静さんの言われる通りかも知れないと私が納得できたのは静さんの私を見つめたときの表情でした。

 静さんの目元がうるんでいたのです。悲し気な表情。

 <ああ、こんな綺麗なひとでも女装子の運命に従うほかなかったのか?>

 思いながらも私は、そのときは私もまた、静さんが通ってきた同じ道を通ることになれば、甘受しようと自分に言い聞かせたのです。

 

 スナックを出て通りの道の暗がりで足を止めました。

 正人さんのアドにスマホのボタンを押します。

 でもつうつう~と音がするだけ~応答がありません。

 私の電話には絶対に出る正人さんなのに~急に心配になってきました。

 声は聴けないけど、メールを打ちました。

 <花火のときのお返事します。お会いできます?>

  スマホの呼び出しに出ないぐらいだから、メールの返事がすぐには来ないだろうと思って、電車に乗って帰路につきます。

 

 でも気になって電車のなかでも何度もメールの返事の確認するけど、正人さんからの返事は来ていません。家に帰ってからも、また何度もメールの返事を確認するのだけど、返事は返ってきていないのです。

 正人さんの家に電話することも勿論考えました。でも、お母様が出ること間違いないとおもうとかけづらいのです。

 正人さんの社宅に行ったときお母様の応対はすごく良かったのです。楽しくて家族の雰囲気味わうことできたぐらいでした。でもこちらから押し寄せてお母様と話するなんて矢張りできない~。ためらいがあるのです。

 結局、気になりながら寝についたのですが、今度は静さんとのやり取りが気になって寝付けないのです。

静さんは<女装子の避けられぬ運命の定めいに従いなさい。>て言ったけど、私は正人さんに女装子では~と言われたとき自分が耐えられるか?自信がまだ持てないでいるのです。

 でも、もう後には戻れなくなっているのです。正人さんに会う限り、正人さんがどんな答えをだしてくるのか?私に<愛している><正人さんの言葉は無条件?それとも条件付きなの?>寝付けないなかで私は頭のなかでそんなこと思って正人さんに問うているのです。

 

 寝ていないようで寝ていたのでしょうか?枕元のスマホの呼び出しメロデイに起こされました。時計見たら朝の5時です。病院からの呼び出し~?

 確認したら、正人さんからです。<こんな時間に?まさかお誘いではないだろうし~矢張りなにかあったのでは~>思いながらスマホを耳に当てます。

 

 「あきさん朝早くからすみません。朝から緊急です。」

 「ええ、なに~?」まだ眠気の去らない私です。

 「ミカが入院しました」

 「入院?どうして?」一遍に目が覚めました。ミカちゃんが入院てどうしたというの?

 「なにがありましたの?事故なの?病気なの?どんな症状です?どこの病院です?」

 自分でも気が付かないで矢継ぎ早に正人さんに問い返してもの言わさないでいました。

 

 パニックに襲われているようでした。

 「落ち着いてあきさん、驚かせてすみません。ミカは大丈夫です。夜中に熱出して救急車で○○病院に行ったのですが、手当てしてもらって落ち着きました。ただ原因が分からないので明日検査しますが当分入院となるのです。

 それが今日は日曜で僕も休みの予定なので、昨日母を田舎に帰らせてしまっていたところが、会社から今日外国から取引先の役員が来るので出社するようにと連絡が来たのです。

 それでお願いです。今日、会社から私が帰ってくるまで病院でミカの付き添いお願いできませんか?」

 「分かりました。夜中でも連絡いただいても良かったのですよ。すぐ今から出ます」

 

 正人さんに連絡しても返事が返ってこない筈です。

 「ありがとう。助かります。子供が病気だというのに会社に行くなんて父親失格です。」

 「それは仕方ありません。奥様がおいでにならないのだから仕方ないでしょう。今日と言わずに入院中ミカちゃんの付き添いは私がします」

 「そんな~あきさんも仕事があるでしょう?無理しないで下さい。母に付き添い頼みますから」

 「いいえ、私、ミカちゃんのママですから当然です。会社は休暇を使わないので溜まっていますから、休ませてもらいます。お母さんは呼ばないで下さい。私に付き添いさせてください」

 

 言い切って正人さんに後の言葉言わませまんでした。

 でも言った後で、どうして私はこんなこと言ったの?戸惑いを感じていました。

 <私はミカちゃんのママになろうとしているのか?>自分のあり様を気持ちの動きを探っていました。

 <私は正人さんが一諸に住みたい。その誘いに答えようとしているのかも?>

 <いえ、それよりミカちゃんのことが心配でほっておけない気持ち~どうしたのだろう?私は本気でミカちゃんの母親になろうとしているの?女装子の私が~>

 疑問を感じながらも、静さんの言ったこと思い起こしていました。

 <女装子の運命に従いなさい>

 すると、これが私の女装子としての運命なの?

 自分に問いながら、でも迷う気持ちは消えていました。

 <私はこの運命に従う>そう決意したのです。

 22歳~この道が険しく苦難の道であることを若さのゆえに理解できていなかったのです。

 <続く>