<写真・作者91歳>

 不思議でした。どうして初めて会ったばかりの由美さんの言うことに、ミカちゃんが素直に聞いたのか?それも笑顔でうなずくミカちゃんです。

 一体、由美さんはどんなことささやいてミカちゃんを納得させたのか?

 私は唖然として階段を降りて行く二人を見送るしかないのです。

 後から男性達。そしてジョッキーの並んだ盆を持って優子さんが続きます。

 

 由美さんと優子さん、この二人のフレンドは私の予想を超えた企みを考えていたみたいです。立ちすくむ私の耳元でささやいてきた正人さんまで二人の計画の内のように思えてくるのです。

「あきさん、いいフレンドさん達です。僕たちに気いきかしてくれたのですね」

「でも正人さん、ミカちゃん迄連れて行くなんて出来すぎだと思いません?」

「それは僕も不思議に思っていますよ。ママ、ママとあきさんのそばを離れないミカがフレンドさん達の後について行くなんて~あの由美さんていう方、どう言ってミカをウンと言わしたのでしょう?なにか普通の女性のように思えません」

 正人さんの言葉にどきりとしました。

 <正人さん、由美さんや優子さんが女装子と見破ったのかしら?>

 そうだとすると~私を女装子と知って正人さんはどんな態度で接してくるのか?暗雲に取り囲まれた気分です。

 

 <でもそこまで勘繰るのは思いすぎかも?>

 すぐに思い直したけど、しかし正人さんとの次の展開を予期して、優子さんの言葉思い出して息吞んだのです。

 <正人さん一諸に住もうといわれるのではないか?>

 そのことに気づいたのです。

 そういえば<お母さんと会ってほしい>正人さんに言われたことも、それを裏づけられることではないか?

 

 荒れを思い、これを考えると、そのときどんな応対を私がしたらいいのか?入り乱れて結論がでないのです。私のいろんな角度から物事を見て判断する能力は私の天性だけど、仕事の上でもそれが認められてのことだと思うのだけど、最年少の病院主任になった私ですが、今はその能力が私を一層混乱させるのです。

 

 さっきまで賑やかだった音や人の気配はすっかり消えて、屋上は静けさに満ちているのです。眼下の人家の光も弱い明りしか届かないのです。

 階下に降りる階段には小さな蛍光灯が灯っているけど、私達には淡い光でしか届きません。

 

 由美さんや優子さんの計画が次第に見えてきました。ムード満点の舞台作りに二人はこの場所を選んだのだと。

 由美さんがミカちゃん連れ出したのも計画の内です。

そして私~彼女たちの狙いが、すべて私の正人さんへのセリフに収れんされることを期待していることも分かってきたのです。

 それは<カミングアウト>です。正人さんが本気で私への愛する気持ちがあるなら、私が告白しても受け入れる筈です。

 彼女たちは私に<ここまでおぜん立てしたのだから、カミングアウトするのよ>そんな声が聞こえてくるようです。

 今までの由美さん、優子さんの言ってきた言葉を繋ぎ合わすと、そんな答えが私の頭の中でできあがるのです。

 

 二人が私のために思っての計画だと分かります。泣きたいほど嬉しい思いです。彼女たちの期待に応えたい、その気持ちもあるのです。

 でも私は人形ではないのです。彼女たちの願いにこたえる勇気は私にはありません。正人さんにカミするぐらいなら、私は正人さんの前から姿消します。私はその道を選ぶしかないのです。

 

 正人さんがそっと私の肩に手を掛けたのも気が付かず。私は乱れる自分の想いのなかに閉じこもっていました。

 「あきさんどうしたの?ミカが居らなくなってから急に黙り込んで~」

 気ずかしげな正人さんに声を掛けられて我に返りました。

 「ごめんなさい。正人さん私怖いのです」

 「怖い?なにが怖いのあきさん。心配しないで、僕が付いているじやないか」

 なにがこわいか?口で言いながら自分でも何が怖いのかはわからないのです。<もう一度<何が怖いか言ってみて>正人さんに追い打ち掛けられたら答えられなかったけど~正人さんは~

 

 黙って私の肩に掛けていた手に力を入れて私を引き寄せたのです。

 なぜか私は引き寄せられるままに、正人さんの浴衣の厚い胸にしがみついていたのです。

不思議なことに浴衣の生地を通して、私のブラの人工乳房が正人さんの胸にぴったり密着した感触が私の胸に感じられたことです。

 

 あり得ない事とは分かっていても、私は強く正人さんに抱きついて、わが乳房としていっそう強く押し付けているのです。私のうちでこの瞬間<私の女>を正人さんに分かって欲しい、その願望がそうさせているようでした。

 

 正人さんもまたそれに応えて、私の背に廻した腕に力が入って私を抱きすくめます。

 意識飛ばした感じでした。自然と頭が上がり正人さんを見上げると、正人さんの顔が近ずき被さってきたかと思うと、唇つけられたのです。

 

 息つくために小さく開いた私の口に正人さんが入り込んできてなぞられ~

 それは今まで経験したことのない甘びな感触が私を待ち構えていました。

 正人さんの熱い手が私のヒップをさすります。

 私を抱きしめていた片手の力が緩むと、ヒップから離れた手が今度は浴衣の上から乳房~いえ、人工乳房を摩られるのを感じました。

 

 優子さんならこんなことする男さんを笑い飛ばすのではないか?ふと、そんなことが脳裏を走るのです。

 でも私の場合は女の乳房としてわが身に摩られる快感を感じているのが不思議でした。

 それは正人さんの熱い口づけのせいだったかもしれません。

 

 官能の嵐が私を駆け巡り、私は声が漏れるのを抑えられません。もだえるようなわが声に目をさましたのは股間のタッグを押しのけようとする痛みでした。

 私の内なる男が目覚めたのを知りました。

 一気に嵐が過ぎ去るのを感じ取りました。

「止めて!正人さん」叫んで~

 正人さんを押しのけたのです。

<続く>