<写真・作者>
㊲
目指すビルの階段の入り口にスナックの店の名前の看板がかかっています。
お店は3階で屋上には階段で上がればいい~と聞いています。
3人が入るといっぱいになる小さなエㇾベータ―で3階に上がりました。エレベーターを降りると前がお店の扉です。
「断りいってきますから、ここで待っていて下さいね」
正人さんに言ってお店の扉を開けます。途端にエコーの利いた歌声です。声が外に漏れないように扉をしめてカーテンを分けると、明りの暗いなかで色とりどりのライトが点滅しています。
聞いたことのある声~甘い~人を、男性も女性も蕩けさせる歌声は優子さんです。
奥のミニステージで真っ赤なドレスの優子さんがマイクを片手に、首を一寸まげて片手を耳に当てる何時ものポーズで唄っているのは、私の好きな歌美空ひばりの<愛燦燦>です。
思わず聞き惚れて足を止めたtら~
「あきさん来たのね。」声掛けてきたのは由美さんでした。
「一緒なの?」聞かれたのは、正人さんとミカちゃんのことです。
「表で居てもらっています」
「そうね~子供さんはここへは無理だもの」
言いながらカウンターのなかの二人の女装さん、ママとスタップに紹介されます。
ここは女装スナックなのです。
「お世話になります」
挨拶したら、ママさんに笑顔で言われました。
「前に一度来てくれましたね。客の男さんに言い寄られてびっくりして、飛んで帰ってしまわれて、それが一年経ったら、子供連れの男性と来られて凄い進歩です。でも、すごく綺麗になって~」
褒めているのか?冷やかしているのか笑われて、どぎまきして~
「違うのです。私は子供さんの付き添いで、お父さんが付いてこられたのです」
打ち消したら,横から由美さんが~
「いいじやないのあきさん。お父さんがあきさんに熱々だって~」
「もう由美さんたら~」
こんなやり取りして正人さんが入ってきたら~と、気が気ではなりません。
「ママさんビール屋上で飲みたいのですけどよろしいですか?それに子供の飲めるものあります?」
「はい、生ビールに子供さんはウーロン茶かコカ・コーラになりますよ」
「じやコカ・コーラで」
答えたら、すかさず横から由美さんが~
「私達と優子さんさん達もビールお願いね。皆で屋上行くからね~」
注文する由美さんに、花火よりお酒飲んでカラオケする二人と思いこんでいたので、なんで?と思うのです。
「ええ?由美さん達も花火見るの?」
「当たり前でしょう。男性とのお付き合い知らないあきさんをほっておけないでしょう。だから私達もお相手呼んであきさんにお手本示すの」
「一寸由美さん私、正人さんとはそんな関係じゃありません」
「いいのよ、そんな関係でない人が花火見物に連れ立ってくると思うの?」
<それはミカちゃんに花火見物せがまれたから~>と言いたかったけど、言ったところで聞く耳持たない由美さんと分かっていたので、口つぐむしかありません。それより後ろのソフアー見ると歌い終わった優子さんが男性に寄り添って座っているし、隣に中年の男性が座っているのは由美さんのお相手の男性と気が付きました。
それで気が付いたのです。由美さんがお膳立てしてくれたのはこんな魂胆があったのだと~。
「いいからさっさと屋上行きなさい。ビールは私が届けるから~」
由美さんに追い立てられて、スタップのひとが持ってきてくれた氷の浮いたコーラーのコップをお盆語と受け取って扉の外に出るのと、ドーンパチパチ~花火の音に迎えられて思わず足が止まります。
「ママ早く、もう花火始まっているよ」
狭いビルの廊下で正人さんに手繋がれたミカちゃんが、私を見て急き立てます。
「ごめんねミカちゃん、ママミカちゃんにコーラー注文していたの。屋上で花火見ながら飲みなさい」
コーラーと聞いてぱっと顔が輝くミカちゃんです。
「正人さんすみません。おまたせして~ビール頼んでおきました。フレンドさんが持ってきてくれるので屋上に上がりましょう」
「花火にビールですか。いいですね。フレンドさんてこの場所借りてくれたフレンドさんですか?」
「そうなのです。花火一諸に見ようと言って、もうひとりのフレンドさんとくるのですけど~それぞれお相手が一諸なのです。」
「それじゃお礼言わないといけませんね」
「いえ、連れのひといますから、頭下げるだけでいいですよ」
慌てて正人さん押しとどめました。由美さんや優子さんと話して女装子と見破られたら、私もそのあおりが~特に優子さんは大柄だから気づかれる心配があるのです。
「正人さんそれより早く上に上がらないとミカちゃんがおこります」
「そうだよパパ、パパはママとおしやべりするの好きなんだから~」
ミカちやんの抗議の後の言葉は花火の轟音に打ち消されます。
「早く早く~」ミカちゃんが先頭になって屋上への階段を駆け上がります。
屋上のガラス扉を開くと細長くテラスのような屋上です。
テーブルが三つ並び、二つの椅子が二つのテーブルに、三つの椅子があるテーブルが私達の席だと分かります。
花火は本格的になったみたいです。ヒュルル~と昇っていく音がして、ドーンと音が広がり空一杯に色とりどりの鮮やかな花が咲くのです。
「わゎ~ぁ」ミカちゃんの甲高い歓声に、私も、正人さんも歓声あげます。間髪を入れずに次の花が開き、しぼむ間もなくまた花が咲いて~ドーン、バリ~ひゅるる~音が交錯して空一面に重なり合って花が開きます。
その光の饗宴に私達も声上げ通しです。私はテーブルにコーラのコップのお盆置いたままミカちゃんに渡すのも忘れていました。
次々打ち上げられる光の織りなす饗宴はしばらく続いて、ぴたりと止まります。一息つくようです。
今度は間をおきながら一発づつ打ち上げられます。私達もやっと一息つきました。私は気が付いてコーラーのコップをミカちゃんに渡します。
ミカちゃんが一気に飲むのをみて、余程喉が渇いていたのだと気が付いて、矢張りにわかママでは失格だと気づくのです。
「あきさん」と呼ばれて振り向くと、由美さんと優子さんがいるのです。ビールのジョッキーを二つづつ持っていて、由美さんが持っているジョッキーを二つ私に渡します。
「お待たせ~貴女から渡しなさい。」ウインクする由美さんです。
「すみません、お手数かけて~」
こんなとき由美さん達とのおしゃべりは禁物です。
ジョッキー持って、間欠的に打ち上げられる花火に、ミカちやんと見上げている正人さんの声掛けます。
「やあ、あきさんありがとう、待っていました」
受け取ったジョッキーを掲げて見せる正人さんです。
「お世話になったフレンドさんです」
伝えると、気が付いた正人さんは立っている二人を見たのです。
由美さんが笑み見せて正人さんに頷きます。
優子さんは二つのジョッキーを大きな体で掲げて可愛い笑み見せるのです。
さあ、この後どうなるのか?不安に包まれて知らず知らずのうちにジョッキーを両手で握りしめていました。
<続く>