<写真・2021年11月24日・京都>
56章 すっぴん女装
それはメイクなし~すっぴん女装で買い物に行っての帰りのことです。
駅のコンコースのエレベーターに乗ろうとしたら、若い娘さんが車椅子に乗り、それを押してお母さんでしょうか?エレベーターに乗り込んできたのです。
<若いのに~>身を引いて<開>のボタン押しながら、娘さんの、そう二十歳代位でしょうか?車椅子に身を預けているのに~
思わず気の毒な思いに包まれて~娘さんを見つめたのです。
、
私は反射的にバックの紐に括り付けている<ヘルプマーク>を手に彼女に差し出し笑みを見せたのです。
<貴女と同じよ~頑張ってね>そんな思いをこめてです。
すると彼女はヘルプマークに目を走らせて私を見上げたのです。
その表情には笑みが広がっていました。
ヘルプマークが分かっているのです。多分彼女も障害者として持っているのでしょう。
コンコースから 駅のホームは1階分だけですから、あつというまのことです。
車椅子を先におろすために私は再びボタンを<開>に押し続けます。母親が私に会釈してエレベーターから出て行きます。
再び車椅子の娘さんを見降ろし顔合わせたのですが、笑顔が一変、きつい顔つきに変わっているのです。
え~なぜ、なぜ?胸突かれた思いになって私も笑顔失ってしまったのです。
真っ先に思い浮かべてのは、メイクなしに女装している私を見抜いたということなのか?
いや、それならあんな表情する筈はない~うち消したのは~
滅多ではないけど、年配のおばさんに女装を見破られるのは、それは好奇心に満ちた表情で見られるので私も気が付くのです。
娘さんの表情はそれではありません。車椅子を見送った後、私は、娘さんの想いはなになのか?読み解こうと考えていました。
それで足元を忘れて、ホームの黄色い線の点字ブロックを踏んでよろめき、でも、踏みとどまって~
思い当たったのです。
同じ障害を持っていても、脚がしっかりして立って、見た目健常者と変わらない私に見比べて車椅子に頼って、立つことも、歩くこともできない~
娘さんの想いはそれではないかと気づいたのです。
それは辛さ、悲しみを越えて、そんな境遇に置かれた自分に憤りを感じたのでは?
若さを満喫できる年頃なのに~そう察すると、私はどうなのか?90歳を超えて、なお女装を謳歌しているのだから~。
そんなこと考えて気が重くなって、その日は早々に帰ったのです。
問題はその後です。
私のマンションはエレベーターが各階に止まらないのです。幸い娘がエレベーターが止まる階の部屋を契約してくれたので助かっているのです。
古いマンションで、建築費の節約でしょうか?
昔の入居競争の激しいときですから、こんなマンションでも申し込みが殺到して、抽選で入居が決まる時代だったのです。
ですからエレベーターが止まらない階の人は、エレベーターを降りると、階段を上るか?降りるかしなければならないのです。
それが私の部屋の前の階段に来た時なのです。
その階段を車椅子押して、お年寄り夫婦?が降りようとしているのを見たのです。
ご主人が車椅子持って、それに乗るべき奥さんが階段を降りようとしているのですから、そんな危ないこと^慌てて押しとどめたものです。
「ご主人それは危ない~車椅子私が持ちましょう」
「いや、よろしいです。降りれますから」
断固とした口調のご主人です。
「大丈夫て~」
どうして大丈夫なのか?ご主人は車椅子持っているので、奥さんは自力で階段を降りないと~絶対危ない。
そうですか~と引き下がれる筈ありません。
「そんなこと言わずに、車椅子私が持ちますから、奥さん見てあげてください」
「かまわんでください。いいです」
これは年よりの頑固一徹?
自分が年寄なのを忘れて、親切の押し売りになっては~と諦めました。
「考えてみると、このお年寄り夫婦より、見たところ私の方がはるかに年上なのです。それなのに私は世話焼きたがるのです。
バスに乗っても、電車でも、お年寄りと見ると席譲る私は、自分の歳忘れるみたいです。
「やはりご主人でした。声で分かりました」
後ろで声かけられて、振り返って飛び上がるほど驚きました。
ヘルパーさんなのです。
そろそろヘルパーさんが来る頃だと急いで帰ってきたのに、お年寄り夫婦にかまけて忘れていたのです。
自分が女装しているのに気が付いたのです。
どう説明するか?頭のなかがぐるぐる回転する思いです。
すぐに言葉が出ません。
どう納得してもらうか?私の歳は当然知っています。
90歳越えた男性が女装姿見られたのですからね。
恥ずかしいなんてことを通り越していました。
「ブザー押しても返事がないので、お留守かと思っていたら声がして分かりました。鍵お願いします」
ヘルパーさん何事もないように言ってくれてほっとしました。
事務所に帰ってヘルパー仲間に私のこと吹聴するかも?心配したのですが、それは杞憂と気づいたのです。訪問先のブライバシーをしゃべることを禁じられていること思い出したのです。
「驚かせました。これも仕事なのです」
なにか言い訳めいた言い方だけど、とにかく女装のこと分かってほしい。その一心です。
「仕事ですか?」
中年のベテランヘルパーさんだけど、さすがに理解できないみたい。
「一寸、待ってて下さい」
言う必要のない断わり言って、書斎、いえ、仕事場に行って写真集を引っ張り出しました。
「これです」
写真集を見せます。
「わあ~綺麗な方ですね」
「私です。」
「ええ?まさか~ご主人?」
「はい私です」少し得意げな私です。
「うそ!信じられません。ホントにご主人ですか?」
「ホントですよ。私です」
「すごいですね~」
ため息のようにつぶやいて、写真集の表紙見るのです。
「アマゾンで発売しました」
「信じられません」首を振るヘルパーさんでした。
<おわり>次回 <ええ~ええ~>です。