<写真・2021年スタジオ>

55章 女装も妻と共に~

 

 昨日、やっと妻と面会できたのです。

 それにしても病院のコロナの警戒の厳重なこと~。

 

 入口のチエックは受付で、消毒、体温、そして予防注射の証明書の提示を求められるのです。

いくら近親者でも証明書がなければ面会できないのです。

 

 しかも面会は1日二人ですから、月に1度しか面会できないのです。

 

 

 さらに受付すればで病室に入れると思っていたら違ったのです。

 職員の案内でガラス張りの囲いコーナーに案内されて、そこで<フエイスシールドマスク>

を顔に装着、ビニールの簡易使い捨て防護ガウンを着て、エレベーターに乗って2階へ~

 

 病室の入口は閉ざされて職員が アクセスボタン押して開けるという厳重さなのです。一人でもコロナ感染者が入れば、集団感染~施設の閉鎖に追い込まれるのですから、面会が出きなくても耐えるしかないのです。

         

 真っ白な明るい光沢に包まれた廊下を進んで行くとその両側は白い扉の病室が長く続いています。

 

 私と娘の前を進んでいた女性職員が足を止めると振り返り~

 「こちらです。ただ椅子より前に進まないようにお願いします」

 指さされ~。

 

  職員に頭下げて部屋に入ると、広い部屋で妻が白い布団に包まれ、白衣寝間着を着てベットに寝ている姿が見えたのです。

 

 「お父さん椅子より前に出ないで~」

 娘に注意されるけど、椅子に座らずのぞき込んで妻の寝顔見ようとします。

 

 「お母さん私ですよ。あなたの旦那さんですよ。」

 何度か呼びかけると、妻はうっすらと瞑っていた目を開けます。

 

 でもいぶかし気な表情なのです。

 それで気が付きました。

 

 フエイスシールドマスクに防護ガウンです。

 職員と思っているのかも?

 

 慌ててシールドマスクを頭に持ち上げ、私の素顔を見せます。

 でも、妻のいぶかし気な表情が変わらないのです。

 

 「お母さん私よ~」

 娘も自分の名前を言って呼びかけるのですが、妻の表情は変わることはありません。

 

 たまりかねて私は、妻の傍に寄り布団に手を差し入れて妻の手を探りあて、握ったのです。

 柔らかさのない節ばった妻の手でした。

 私の知る柔らかなふっくらした手はなくなっていました。

 

 なによりも握っても握り返す力がまるでないのです。

 どんよりとした目で私を見つめる妻の眼差しは、私を認識しているとは到底思えません。

 

 予期していたとはいえ、がっくりした気持ちが私の内を広がるのを感じます。

 「お父さん!」

 

 娘の注意に呼び戻されて、私はあわてて椅子に戻ります。

 とたんに戸が開いて職員が入ってくると~

 

 「お時間ですので~」

 告げられたのです。

 

 それはあまりにも短い10分でした。

 帰り道すがら、駅に向かって歩きながら~

 「やっぱりママ分かっていなかったみたいね」

 「うん、6月の時はお父さんの手握って泣いていたのに~すすんでいるようだ?」

 

 娘に答えながら<パパさん~>妻に呼びかけられることはないのだと、観念する思いに包まれたのです。

 

 家に帰っても私はその想いを引きずっていました。

 もう、妻との対話は二度と来ないことを~

 

 それを自分にいい聞かせるのですが、でもそれを素直に受け入れない自分があるのです。

そしてベットに眠る妻の姿が脳裏に浮かぶのです。

 

 写真のように病室の光景を思い浮かべながら、そのうち、はっと気が付いたことがあるのです。

 妻の寝るベットの横に沿って、横倒しにベットが立てられているのです。普通、病室にベットを仕切りをして、二人病室することはあっても、ベットを横にして立て妻のベットにそわしているなんてことはありえないこと~

 

 そしてさらに気が付いたことがあります。

 <おしゃべり人形がいない?>

 

 妻が施設に居るときから抱き抱えて一時も離さなかった<おしやべり人形>です。

 絶対に今も、枕元に居て、時間おいておしやべりする人形です。

 

 と、言うことは~

 <私達が面会した妻の居た病室は、本来の妻の病室ではないということだ>

 

 気が付いたのです。

 ではなぜわざわざ寝たきりの妻を運んで面会の病室に入れたのか?

 病院の対応の謎に疑問が溢れて解けないのです。

 

 帰ってから夜までその謎を解こうと、食事も作らず考え続けました。

 それは妻が回復して私とおしやべりするようにするには、どうすればいいのか?

 

 その想いと同じでした。

 ついに思い余って娘に電話して、私の疑問を打ち明けたのです。

 

 すると、電話口の娘が私の疑問を聞くと、笑い声あげたのです。

 「お父さん何言っているの~お母さんが入院するとき4人部屋に入ると聞いたでしょう。四人部屋に面会の人入れられないから空き部屋を面会室にして、移したのでしょう。人形もその四人部屋にいる筈よ」

 

 娘の言葉に、なんだ、そういうことか思うと一気に胸のつかえが降りる感じがしました。今まで妻の反応に思い悩んでいたことが嘘のように消えたのも不思議です。

 

 病院はコロナの感染対応に徹底して、患者を守っていることに気が付いて私は気が楽になったのです。

 

 週末、私のフレンド一行の毎年の恒例の京都行です。

 雨模様、空を曇で覆われどんよりとした天気で、貸し切りの観光タクシーで走る間に雨が降り始めていたのが、車を降り観光に廻ると雨が止むのです。

 

 なにか私の胸の内のようでした。

 晴にはならないけれど、でも曇りのままでもいいから、そのままでいて~

 

 そんな想いでスタジオに帰り、打ち上げは私の常連のお店の女装スナクッです。

 唄って、踊って^いつものように、91歳と思えぬ声張り上げて唄う私です。

 

 私は女装で美しくなる楽しみ~

 元気な91歳をさらに伸ばしていく健康作り~

 91歳でも女装する私。女装さん達の希望の星として守り続ける~

 

 そしてなによりも、妻が生きてさえいるならば~

 私も生きて、そう、楽しく生きていきます~

<オワリ>