写真<スタジオで2021年9月>

 

51章 <その二>  ドボンがドボンに~

 

 コロナの時期です~妻にも会えず、家にと閉じこもっての一人暮らしです。洗濯、料理後は壁見て暮らすようなものです。

 

 91歳迎えて老人に違いないけど、本人は老人なんて気はさらさらないのですが。

 でも、姑のような娘達の監視?いえ心配を無視してうろうろできなかったのが、新しい遊び見つけたのです。

 

 ハイ、ドボンです。

  昨日は面白かったと言えば怒られるかも~でも、オンナに惑わされてのことだから仕方ないでしょう?

 

 昨日と同じように堤防の上に立って入江を見渡すと、遠く離れたウインドサーフィンが数えたら14艇。

 

 堤防の上で一人目立つように立っているのだから、遠くても分かる筈です。

 離れていても遮るもののない海の上です。

 

 ウインドサーフィンに向かって両手上げて、横に振って呼び掛けます。

 ところが、近づいてくる前に、ドボン!それが立て続けに三艇がドボン、ドボン~なのです。帆が次々横倒し水に浸かって~

 

 水に落ちてもすぐ浮き上がってきたので、ウエットスーツ着ていて大丈夫なのでしょう。

 その後、帆を立てて走り出したけど、こちらに向かってくることはないのです。

 

 ドボン~私の遊びはオワリみたいです。

 右に左にと風を受けて反転するウインドサーフィンの群れ~でも、私の期待に応える様子はみられませんでした。

 

 私の楽しみは終わりです。仕方なく帰ることにしました。堤防の階段降りると階段に腰かけて鳩に囲まれたおばさんに声掛けられたのです。

 

 「あなた知ってるわ~」気安そうに声かけるのです。

 <知ってる?女装の私を?>少し不安が横切ります。

 「あれお会いしました?」

 「07棟でしょう。私もそう」

 「ええ~エレベータでお会いしました?」

 「いえ、私、あなたの上の階だから。それより貴女?堤防歩いている姿素敵よ」

 {ありがとうございます」

 私の返事待つ間もなくおばさん、いきなり手伸ばして私の手をにぎるのです。

 

 「綺麗な手~」言いながら両手で私の手を挟んで手のこうを摩るのです。

 でも違和感がないのは、女装の時おばさん族と話するとよく触られるので、あれまた?という感じなのです。

 

 なぜなのか?私、何かおばさん族を引き付けるフエロンみたいなもの発散しているの?そんな馬鹿なこと考えるのです。

 

 「背が高くてスタイルもいいし~それで歩く姿が綺麗に見えるのね」

 「うふふ~そうですか?でも、これでも脚にパイプ入っているのですよ」

 「ええ、そうなの、私も交通事故で怪我して不自由な身なのよ」

 

 答えながら私を摩るその手の動きは止みません。

  でもそれが、なにか親しみを作り出していかしらくことで女同士の会話になる感じ~

 

 「私、脚が悪いのに部屋はエレベーターの止まらない階なのよ。貴女の階で空き部屋ないかしら~」

 「今、空き部屋の改装している部屋あるけど~ああ、ダメ、入居するから改装しているんだ」

 

 「やはりね~エレベータの止まる階はすぐ入居きまるのね。私、主人亡くして一人暮らしだから不自由なの。それで貴女は?」

 「ああ、私も一人暮らし~」 

 

 急いで答えました。ご主人は?と言われたらどう答えればいいの?

 お母さんゴメン^まだ病院でいるのにね。一人暮らしなんて~言って~

 

 「それで貴女今晩の献立はなになの?」

 いきなり話が飛躍して問いかけるおばさん~

 一人暮らしで話相手がいないから、私を引き止めたいみたい。私も同じだから分かるのです。

 

 「肉ときゃべつがあるから、お好み焼き」

 「ああ、それならコンニャクとネギ入れると美味しいよ」

 「でも冷蔵庫に入ってないわ。買いに行くといってもこの辺スーパーも八百屋さんもないし、私 バスに乗って買い物行くのよ」

 

 「そんんなことしなくてもコンビニが近くにあるでしょう。そこならあるよ」

 「コンビニに野菜が?」

 

 女同士の会話はいつ尽きるとも分からないのです。もう音上げた私~お先に~と逃げ出したのです。

 

 帰り道、急に心配が嵩じてきたのです。

 おばさんが私と同じ棟ということは、私がメンズでエレベータ乗ったとき、おばさんと会ったら気が付くだろうか?

 

「あなた男だったの?」エレベータのなかで顔合せて言われたら。?いえ、聞くまでもないこと男姿なのだから~女装が趣味?なんて言われたりしたら?そうです。ハイ、いうしかないし~」

 

 家族、身内すべてに堂々と女装を公開している私でも、矢張他人さん相手では堂々とはいかないのです。

 

 いえ、それより私の女装を見破っているのかどうか?それが気になります。女になっているのだから女に見てほしいのです。

 

 それを男と見破られることは女装する者には、とっても辛いことなのです。

 これから男でエレベーターに乗るときは気を配らなければ~

 

 でも、暮らしているのだからいつか、男のとき乗り合わしたら~そのときは無視することに~

でも女装見破られていたら、そんなわけにはいかない~

 

 もう堂々巡りです。

 思いあぐねて、それで私の先生に聞いたのです。

 

 「最近、女装の時、おばさん達に良く触られるのです。このあいだも洋装店で人体にスーツ着せているの気にいって、店主のおばさんにスーツ降ろしてもらっていたら、店主の友達のおばさんが世話焼いてくれるの。それはいいのだけど、「あなt細いね~」言いながら私の背中や、お腹触るの~それがそのときだけじゃないの~ほかのおばさんでもやられるのだけど、なにか私、おばさん達にフエロモンだしているのかしら思って~なぜでしょう?か」

 

 お伺い立てたものです。そしたら先生の答え単純明快です。

 「とくみさん普通女の人は女の人の体触ったりしないものよ。男と見破っているということね」

 

 ああ、矢張~まあ、メイクしなくても女と見られると自信持っていた私は浅はかだった~

 ため息ついた私の脳裏にドボン音が聞こえました。

 

 ドボンはウインドサーフィンでなく私だったのです。 <おわり>