㊿ ドボン (その一)
コロナのまだ先行きが見えないときです。
家に閉じ込められていた私に、日曜日新しい楽しみができたのです。
ことの初めです。
家事に結構忙しい私にとって、日曜日洗濯できない時間が生まれたのです。
洗濯のとき必ず入ってくる洗い物~女装衣装です。
コロナのためにスタジオに行くのも減った私にとって、女装できないほど辛いことはないのです。まあ、女装するものしかこの気持ち理解できないことは承知しています。
でも自分でメイクすること放棄した私は、メイクなしでも通用することに気が付いて、今では外に出るときは女装するようになったのです。
これは90歳~いえ、今月に91歳になる私には、すごく体にいいと私は思い込んでいるのです。
なぜかというと女装すがたになると、自然と胸反らし足早になり、女性のポーズをとって老いを消し去るからです。
代わりに女装の洗濯物が増えるというわけ。
でも日曜日になると仕事休みの娘が様子見に来るのです。
それが女装の洗濯物が干してあると~
「お父さんまた、大阪行っていたの?」
私の女装を知っている娘には、女装より私の<大阪行き~スタジオ行き>が問題なのです。
<コロナで行くな~いっているのに~。うるさいのです。
予防注射は済んでいるのですけどね。とにかく口うるさいのです。まるで<しうとめ>です。
でも考えてみたら、私は90過ぎようとして、娘は60歳をとうに過ぎていますから、もう娘でなくしゆうとめになる筈です。
だから聞き流せばいいのです。それより女装公認してくれているほうが私にはありがたいのです。
大方の女装さんが家族にも打ち明けられず、女装の道を密かに進むしかないことを思うと、私は妻にも娘にも、姉達、姪達迄堂々と公表しているのですから、厚かましいというか?いえ、幸せというべきなのでしょうか?
話は変わりますけど、メイクを自分ですることを放棄した私は、コロナで外出もままならぬとき覚えたのが、メンズ女装なのです。
メイクなしで衣装は女装姿をして、公園を一周歩いて脚を鍛え、海辺に行ってウインドサーフイン私に言わせると一人乗りヨットを見る楽しみを見つけたのです。、
衣装と云えば黒のレギンス穿いて脚を細く長く見せ、上半身は黄色の生地に花柄模様をプリントしたシャツで、下に忍ばせたブラジャーのポケットに入れたお乳で胸を盛り上げます。
91歳になったところの私でも、背筋はまっすぐ、170センチの身長に女性に近い細身~最近中年太り?お腹が出てきて少し気になるのですけど、遠方のヨットから見たらスタイル抜群?の女性が茶髪<ウイッグ>の髪を風になびかせて堤防に一人立姿見せれば~
歳など忘れて、若い女性の気分になるのです。少し厚かましいけどね。
でも、フレンドの女装さんにその話したら<人魚に見えるのじゃない?>言ってくれました。
だから人魚の気持ちでコンクリートの突堤に立っのです。
はるか沖合のウインドサーフィンの群れ~数えたら40艇。三角や半円のカラーの色とりどりの帆を風に載って滑るようにはしるのもあれば、風にのりきれずぐるぐる回るだけの艇があるのを見ると、操作の上手、下手でウインドサーフィン動きがちがってくるのでしょうか?
東京オリンピックでもヨット競技が10種目、8艇種の種類がありましたが、ヨットの種類て、キャビンのある大型艇から、今、目の前で群れ成している一人乗りの艇まで多くの種類があるのですね?
知ったかぶりはこのへんで~
ところがです。
群れ成していたウインドサーフィンのなから、5艇が近ずいてくるのに気が付きました。
追い風に乗って競うように私に向かってくるようなのです。
まるでそれぞれのウインドサーフィンが私目指しているような錯覚します。
私の立つ突堤からは距離があるけど、それぞれの艇で男性が帆の引き綱を引っ張って体を逸らしているのが分かります。
すると一艇がまっすぐ直線的に私目指してくるではありませんか?
まさか?思いながらフレンドさんが言った人魚が脳裏に浮かぶのです。
反射的に私は両手上げて、その艇に向かって背伸びして両手ふっていました。
男性の顔が見えたら~でもそれは無理なのは、突堤の前は砂浜が遠浅になって近づけないのです。
でも私の呼びかけに思いが通じたのか?
男性は私に答えるように、片手で引き綱を握りながら片手を振って返してきたのです。
嬉しい~思ったのはそれはつかの間のことでした。
三角の大きな帆がはためいたと思うと、一瞬に横倒しになり海水に浸かり、男性の姿が消えたのです。
ドボン~水しぶきは見えました。
驚きました。横風を受けた帆が倒れるのを片手では受けきれなかったみたい。
<どうなるのか?>自分のしたことに後悔の思いに包まれて、でも、どうすることもできない私です。
男性が水中から浮き上がってくるのを待つしかないのが悔しいのです。
突堤の上で立ちすくんでいるだけなのですから~
でもそれは一瞬~ポケットの中の笛を握りしめていました。
ここは広い公園です。夜の散歩で樹木の茂る明りの届かない道を歩くとき、たとへ女装でも襲われるかもしれない?そんな心配から私は笛をポケットに入れているのです。
男性が水から浮いてこなかったら笛吹いて、周辺の人に救助を呼ぼうと気が付いたのです。
私にできることといえば、そんなことぐらいです。
でもそれは杞憂でした。
水面にぽかっと頭が出て、艇にすがった男性は、まるで何でもないように艇の細い板の上に這い上がると、水に横倒しの帆の竿を握って立て前後にゆすって風を受けさせ~
もう男性は私の方を見向きもせずに艇をすいすい走らせ、離れていくのです。
あっけに取られて見送る私。なにか騙されたような気分です。
ただ唖然として見送るだけになりました。
その後です。入れ違いに3艇が近づいてきました。
なんだかしゃくな思いになっていたから、今度はドボンさせる狙いで派手に手を振り、ええい~腰くねらせて見せて~
歳を忘れて、我ながら恥ずかしいことしてドボン狙ったものです。
でも狙いは的中~先頭の艇が私に帆先向けたとたん<ドボン>。すると後に続いていた艇も
釣られて<ドボン>です。
やった!なにかすっきりした気分。
後に続いてきた艇が反転離れていくのを見送って、久方ぶりに声上げて笑いました。
コロナの時期、私の新しい遊びだったのです。
<その一オワリ。その二に続きます>