<2018年3月・怖い~写真です>

<2021年3月28日スタジオで女装さん達と>

㉜ 妻を想う <続き3>

  2016年の5月頃は私は妻の実家から義母に来てもらっては、高速バスで大阪行きしては、女装する楽しみに取りつかれていました。仕事から解放されて私にはそれが生き甲斐でした。

 しかし家に居るときはもっぱら家事に精出すようになっていました。

 掃除も、洗濯も、料理もできないようでは女装する資格ありませんものね。

 一方、妻はというと、私が妻から家計引き継いで間もなしからです。私が台所で洗い物していると妻は新聞読んでいるのが日常になっていました。。私が外出から帰ってくると流しに食器類が放置されたままです。

 それは今までの妻とはまるで違うありようでした。流しに食器を放置するなんて考えられないことです。今までの妻だったら、洗い物が済むと流し台を洗剤で綺麗に洗うのが身についていた筈です。

 でも私は別にこだわりの気持ちはありませんでした。家でゴロゴロするより家事に精出すほうが気分がいいのです。それにもとも料理を作るのが好きでしたから~。

 とは言え、妻の今までとまるで違った様子には何となく気がかりでした。家計を引き継いだから家事も当然引き継いだということなのか?妻に問い詰めようかと思ったけどためらいがあります。60年余りの気の遠くなる間、妻は家事に取り組んでいたのです。

 家事といっても今の私がしているような家事ではありません。食事、洗濯、それらは序の口です。掃除といっても私の場合は箒で畳をさっさ~とはくのが掃除だと思っているのが、妻の場合は家の窓、戸などのガラスを拭き、板の間は勿論畳もはくだけでなく拭き掃除です。

 子供たちの面倒はとことんしていました。父親の務めを果たさない私に代わり妻が子育ての責任持っていました。前にも書きましたが、高校に行きだした娘のアルバイトにも目配っているのですから。専業主婦ならまだしも、洋裁の腕を生かして縫製の勤めに通いながらですからどうして時間のやりくりしていたのか?寝る時間も少ないことも理解できます。

 そんな妻が突如家計のすべてを投げ出したのですから、考えられないことです。

 あれこれ思いながらも私は妻のありように問うことをしない~というよりできないのは、妻に長年苦労かけたことだけではなく、女装にのめりこんでいる自分に引け目を感じていたからと思うのです。

 そして、ある日~

 「私のブラウス着ないで頂戴~」妻に言われて~

 え~唖然として妻の顔見て~でも妻はまじめな表情です。本気みたいです。

 思わず笑ってしまいました。

「あのね、お母さん~貴女のもの着るといっても肩幅が違うでしょう。お母さんのブラウス着たら破れますよ」

「でもタンスにキチンとたたんで入れて風呂敷かぶせているのが、ブラウスに皺<しわ>寄っているもの~パパしか着るものいないでしょう」

 言われてどき!としたのは、妻のブラウス着た覚えはないにせよ、女装していることを妻に知られたのか?そう思ったからです。

 まあ、妻のブラウスあてにしなくても、私のサイズの洋服~婦人服を通販でせっせと買っている私なのですけどね。でも身の潔白証明するなら買った服見せればいいようなものだけど、それはできませんもの。

「じや、ブラウス持って来なさい。証明するから」

 うなずく仕草しながらタンスから取り出したブラウスを私に渡そうとするのに、私は妻に背を向けます。

「背中に当ててごらん。肩幅が違うでしょう?」

 念押ししたけど妻は答えないのです。でも、私の背中にブラウス当てて測る様子です。

「あら~腕の長さが全然足りない~」だって。

<当たり前ですよ、私は類人猿ではないけど腕が長いのです>言いたかったけど言わないでいたら、それで納得したみたい。

 

 だけどその後です。

 テーブルを前に椅子に座ると、

「パパ食事は?」

「ええ?お母さん作っていないの?」

「だって、お腹減っていなかったもの~」

ああ、またです~ため息が出ます。

「何作るつもりなの?」

「さあ、何作ります?パパ考えて~」答えのない返事です。

 仕方ありません。冷凍庫かき回して材料探しです。すぐにできる手のかからない材料探しと~見つけたのは冷凍のハンバーグ。これなら湯選で15分です。

 大きなフライパンにポットの95度のお湯をひたひたに入れて、ガスレンジにかけるとすぐに湯が沸騰します。そこへハンバーグ袋ごと入れたら15分待つだけ~。

 その間に野菜です。

 「お母さん野菜何がある?」

 「大根ともやしがあるけど~ああ、ジャガイモがある」

 「冷凍にした油揚げがあったけど~油揚げを冷凍にするなんて~」独り言をまぜて妻に問いかけします。

 「油揚げと大根炊いたら簡単におかずできたでしょう」

 「そんなこと考えていなかった~」言われて、妻はあてにできないと分かってきました。

 ぎっしり詰まっている冷凍庫をかき回したらグリンピースを見つけました。

 「じゃ、ハンバークにポテトサラダにしたらいいね」

 「私、サラダ嫌い~」

 「はいはい~じや、もやしとキヤベツの炒め物だったらいいでしょう?キヤベツはお母さん刻んでくれる?」

 半分に切りわけて売っていたキャベツを渡すと、妻はまな板の上でトントンと器用に細く刻んでいくのです。身に付いた手先は忘れていないようです。

 コープで買った油のいらないフライパンだけど、ごま油を入れてモヤシを入れて炒めます。

 妻の刻んだキャベツは日がたっているので、固いと思ってレンジでチンしてから炒めます。

  ガス台が15分のベルを鳴らして火を止めたので、熱湯の中のハンバーグのビニール袋を

を取り出し、野菜をいためているフライパンに入れると、ハンバーグのソースが野菜に味付けしてくれるのです。もう一度ガスの火をいれて卵を2個落とすとフライパンにガラス蓋して、まあ、3分も待たないけど~出来上がり~。

 バーザーで婦人服と一緒に売っていた四角の大皿。なにか素敵な皿~と思って買ってしまった皿に盛りつけすると料理は終わりです。

 テーブルに運ぶと妻はぼんやりした表情でテレビ見ていたのが、料理を見て「できた!」て歓声上げるのです。自分が料理作ったようにね。

 私も思わず苦笑いです。

 ミニ缶のビールを冷蔵庫からだしてテーブルに置いてはっと気が付きます。ご飯?炊飯器見たらふきんが被せてあるのです。

「お母さんご飯は?炊かなかったの?」さすがに慌てました。だが妻は動じません。

「はい、ありますよ」立ち上がってガス台の開き扉から出してきたのは、<炊き立てご飯>のレトルトのご飯。

「チンしたらすぐできますよ」だって~

やれやれ~ビールを飲んでチーンを待っていると。

「パパ~ご飯食べたら、洗濯もの干してくださいね」

「ええ、お母さん洗濯もの干すて~朝に洗濯したのと違うの?」

「干すの忘れてた~」

ああ、ため息が出ます。これが今日だけではなく毎日続いていたのです。

 

それから5年たった今妻は家に居ないのです。今にして思えば妻に振り回された当時がなつかしく思えます。妻は今、病院に入院中ですがコロナで私は面会にも行ってやることができないでいます。<続く>