2026年度版 馬場あき子の外国詠11(2008年9月)
  【西班牙3オリーブ】『青い夜のことば』(1999年刊)P58~
  参加者:F・I、N・I、T・K、N・S、崎尾廣子、T・S、
      藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
  レポーター:渡部慧子      まとめ:鹿取未放

99 西班牙のオリーブの樹人口の五倍を立てりその実の津波        
         
           (当日発言)
★こんなに収穫できても国が豊かになれない、社会詠(T・H)
       
          (まとめ)
 レポーターのいうような農業技術の不足や農業政策の貧困、輸出入の問題などオリーブ栽培には問題は山積しているのだろうが、それは措いて歌に限ってみてみよう。この歌、まずはオリーブの木が人口の五倍もあることの驚きをいっている。オリーブの木が見渡す限り豊かに実って津波のように波打っているのだろう。実(ミ)と津波の「ミ」が弾んだリズムを生んでいる。スペインはオリーブ生産量で世界一だが、その七割をアンダルシア地方でまかなうそうだ。収穫は2月でジブラルタル海峡を渡ってはるかモロッコから季節労働者がやって来る。灌漑を利用して半月に一度はオリーブの根元に充分な水やりもしている。収穫したオリーブはその日のうちに工場で搾られ良質なオリーブ油になるという。(鹿取)

 

                     (レポート)
 オリーブと人口の割合をまず据える。EUの加入による援助を受ける一方で、農業技術の効率化、それに伴う農業人口削減、それらの人々の海外へ出稼ぎ、また輸入が恒常的に輸出を上回る等の事実が生じる。総合判断すれば効果大なりというところへ達していないことも考えられる。スペイン近代化に伴う大きな痛み、揺れの部分をオリーブの実に照準を当て「その実の津波」ととらえた一首である。(慧子)

2026年度版 馬場あき子の外国詠11(2008年9月)
  【西班牙3オリーブ】『青い夜のことば』(1999年刊)P58~
  参加者:F・I、N・I、T・K、N・S、崎尾廣子、T・S、
      藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
  レポーター:渡部慧子      まとめ:鹿取未放

 

97 突兀たる巍々(ぎぎ)たるそしてふくらなる山越えて群翔しくる鸛(こふのとり)


          (レポート)
 「突兀」は(岩、山などがつきでているさま)、「巍々」は(高く大きいさま)、「そしてふくらなる山」と写生されている。スペインは、ヨーロッパ・アフリカを往来する渡り鳥の通り道になっている為、鳥類がきわめて豊かである。「群翔しくる」と詠いながら、山河もろとも大きくとらえて、爽快な一首だ。(慧子)

         (まとめ)
 現代ではあまり使われない「突兀たる」「巍々たる」という漢文調の描写が、文字づらも厳めしく、険しい山の姿を読者にイメージさせる。その上「ふくらなる」ときて、険しいだけではないやさしいなだらかな山容もあるところが楽しい。険しく厳しいばかりの山容では渡ってくる鸛の表情もけわしいものになるが、彼らは「ふくらなる」山の上をも飛んでくるのだ。そのあたりが馬場の鸛への優しさなのだろう。日本では日常見慣れない鸛が群れをなして飛翔してくるイメージが珍しくたのしい。(鹿取)

98 ほつといてくれとばかりに樹なければ煙突に巣づくれり鸛


             (レポート)
 かつて伝統的農法は野生動物とよいバランスを保っていたが、スペインでも近代化の為の自然破壊がすすんでいるようだ。ヨーロッパの伝説・童話によく登場する鸛だが樹木が少なくなったのか木のてっぺんに巣を作る習性から煙突を代用しているらしい。そこを「ほつといてくれとばかりに」と作者のユーモアと少々強気な部分がのぞく。

      (慧子)

              (まとめ)
 樹木がないのでやむなく煙突に巣を作っている鸛の哀れさを、初句の俗語が和らげている。その俗語の効果で明るい応援歌になった。

     (鹿取)
 

2026年度版 馬場あき子の外国詠11(2008年9月)
  【西班牙3オリーブ】『青い夜のことば』(1999年刊)P58~
  参加者:F・I、N・I、T・K、N・S、崎尾廣子、T・S、
      藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
  レポーター:渡部慧子      まとめ:鹿取未放


96 ユーカリの鬱たる汚れの辺に群れて葦は考へるちから捨てたり


            (レポート)
 アンダルシアなどスペイン南部大規模農園は非効率的農業の象徴であったが、近代農業へ移行されている。しかし保守的気質、資本投入不足、乾燥した荒々しい気候の影響などの諸条件で、その生産性はヨーロッパ基準からすれば低レベルである。そういう状態を「ユーカリの鬱たる汚れ」に託していよう。そして「辺に群れて葦は考へるちから捨てたり」と続くのだが、「葦」とはパスカルの言う人間だ。その人間へ前述の状況下で個人としての輝きを失い「群れて」「考へるちから捨てたり」と作者の見解を示している。しかし旅先の人々を「葦」に託し、寓言めいた表現をしているのは一旅行者としてあからさまな言挙げをつつしんだのであろう。(慧子)

           (まとめ)
 レポーターのように葦を人間ととると、土地の農民たちが、収穫も思うようにならない汚れたユーカリの木の辺りに無気力に群れているということか。作者独特の「ちから」の語を用いているが、ここではそれが発揮できない状況で、為す術もない人々をうたっているのだろうか。なんだか土地の人を蔑しているようで、あまりしっくりしない。また、こういう解釈をすると直前の歌〈アンダルシアのユーカリは汚れし手を垂れて泣けてくるやうなやさしさにじます〉のやさしさ、3首前の歌〈乾大地赫ければ半裸かがやかせオリーブ植うる南へ南へ〉の逞しさなど一連の中で見るとき、どうもこの歌だけが異質な感じになる。もしかしたら群れる葦は自分たち観光客の事かもしれないが、通り過ぎる韓国客に考える「ちから」や心寄せは、それほどないであろうから、解釈が悩ましい。では葦を植物ととると、葦はふつう湿地に生えるものなので乾燥地のユーカリの木の周りに生えていたかどうか気になるところだ。実景ととるならユーカリの周りに群生している葦たちも力なく萎れきっているというのだろう。(鹿取)


 

2026年度版 馬場あき子の外国詠11(2008年9月)
  【西班牙3オリーブ】『青い夜のことば』(1999年刊)P58~
  参加者:F・I、N・I、T・K、N・S、崎尾廣子、T・S、
      藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
  レポーター:渡部慧子      まとめ:鹿取未放

 

95 アンダルシアのユーカリは汚れし手を垂れて泣けてくるやうなやさしさにじます


            (レポート)(慧子)
 サハラ砂漠から季節風が吹き、雨量の少ない地であるから「ユーカリは汚れし」は想像できる。「泣けてくるやうなやさしさにじます」と詠っているのは、対象に距離を置かない作者の心の表白であろう。

     (当日発言)
★馬場は動物にも植物にも人間のようなシンパシーを持つ人なので、この歌もユーカリに対して人間のようにゆかしさを感じているのでしょう。(鹿取)

           (まとめ)
 ユーカリの木は六年で成木になるそうだ。1メートルの成木もあるが、高いものでは100メートルにも育つという。多くの種類があるが、ここでは柳の葉に似た細長い葉を垂れる種類なのだろうか。乾燥地にあって水分不足で葉が垂れているのかもしれないし、土埃で汚れているのであろう。下の句は八・八とたっぷりにうたわれて、こちらの情を誘い込むようだ。「やさしさにじます」の主語はユーカリの木であろう。(鹿取)

 

2026年度版 馬場あき子の外国詠11(2008年9月)
  【西班牙3オリーブ】『青い夜のことば』(1999年刊)P58~
  参加者:F・I、N・I、T・K、N・S、崎尾廣子、T・S、
      藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
  レポーター:渡部慧子      まとめ:鹿取未放

 

94 万の起伏の変化に沿ひてオリーブの畑うねり出すアンダルシアより


          (レポート)
 アンダルシアはスペイン南端部の地方。農業、商業、文化いずれも発展し、高度な都市文化を築いた。その遺産としてグラナダ、コルドバ、アルハンブラ宮殿などよく知られている。(慧子)

          (当日発言)
★「うねり出す」がこの歌の力(崎尾)
★下の句の倒置が活きている(藤本)

          (まとめ)
 整然とオリーブの木が植えられている情景の写真をよく目にするが、日本の茶畑のような単純な丘ではなく、起伏に富んだダイナミックな地形なのだ。その地形に沿って植えられた見渡す限りのオリーブの木、「うねり出す」という表現でみごとに情景がとらえられている。ゴッホの樹木等のダイナミックなうねりをイメージさせられる。

  (鹿取)