2014年4月から約半年間にわたって行ってきたバングラデシュの看護師育成プロジェクトも、この感染予防対策講義を持って、日本人講師による講義は一旦終了となります。
この感染予防対策は、病院の医師たちが最も力を入れたいと言っていた科目です。
感染予防対策と一言で言ってもテーマは広いのですが、現場視察を重ねる中で、特に優先してアプローチすべき項目を絞っています。
ポイントとしては、特に看護師たちが日常的に行う、または遭遇することの多い「手指衛生」「個人防護具装着脱」「針刺し切創事故防止対策」が優先事項に挙げられました。
<日本で使用されている個人防護具を紹介。生徒が使用方法をみんなにベンガル語で伝えてくれている様子>
もともと看護師たちが受けてきた教育では、あらゆる感染予防対策のルールが文章で講義されてきたようですが、なかなかそれだけでは現実的に仕事に生かすことができません。また今回の私たちのプログラムも含め、一度学んだ事も、やり続けなければ現場に継続して根付かせていくことが困難です。
「手指衛生」、「個人防護具装着脱」においては、正しい手技はほとんどの学生はできていたのですが、それを適切な時に行うことができていません。つまり技術はあるのですが、適切にその技術を使うことができていないわけです。
そこで、正しいタイミングで正しい手指衛生を行うことの必要性を伝える方法の一つとして、手洗い訓練キット(専用ローションを手についた汚れに見立てて塗り、手洗い後、特殊ライトの下に手をかざすと洗い残しが光り、適切な手洗いができているか確認できる教育ツール)を使用。
<手洗いミスが起こりやすい部分を訓練キットで確認している様子>
何のために、いつ、どのように手を洗う必要があるのか?を実体験しながらその必要性を考えて学ぶことが大切です。
洗い残しがある部分が光って見え、自分ではちゃんと手を洗ったつもりでも、実はそれではあまり有効に手洗いが出来ていないということを視覚的に確認。
また、パソコンキーボード・患者の頭の周囲・時計の裏などに付着している細菌の写真を見てもらい、普段なにげない行動の中で、自分の手がどれほど細菌を運ぶリスクがあるのかをイメージします。
「針刺し切創事故防止対策」においては、そもそもの使用後の針をどう処理するか、という対策自体がなく、安全機能のついた針などは使用されてはいません。また、感染症を持つ患者に使用した針での針刺し切創事故が生じた場合の対応などの病院としてのマニュアルはなく、今後の課題であり、急務です。
今回は、現地病院にある実際の物品を使用し、現時点で実現可能な針刺し切創事故防止対策として、使用後の針をいかに安全に廃棄するか?の実技指導を行いました。
<日本で使用されているものと同じ安全機能付き針を紹介している様子>
今回のプロジェクトでは全講義実習を通して「どんな時になぜ必要か自分たちで考えてもらう」ことを重要視したディスカッション、そして、現場をイメージした実践を行いました。
<スタッフが吸引場面を実演。「手袋を着脱する7つの手指衛生のタイミング(WHOの5つの手指衛生のタイミングを主に軍病院が示す7つのタイミング)」「一処置一手袋」「一処置一手洗い+手指消毒」をキーワードに、どこができてないのか?なぜ悪いのか?どうしたらいいのか?をみんなでディスカッションをしている様子>
<学んだ内容をもとに、人形を使い生徒が実践>
今回日本から派遣され現地で活動していた小笠原 妹 看護師のコメント
「バングラデシュでは、人は良くも悪くも驚くほど素直で純粋な一面があり、こうだと教えたら全てこうだとインプットしてしまいそうで、ある意味教える怖さも感じました。教える側も、エビデンスをしっかり持った知識を再確認して、取り組む基本の大切さを感じます。また日本は何事もマニュアルで動くことが多くて、動く順番や使用する物品が決まっていることが多いですが、でもそのための必要な物が十分に無い所、つまりここではじゃあどうするの?となります。ここでは足りない場所は、その都度臨機応変に考えて動くしかない。それが私たちが知っているマニュアルとは全く違ったとしても、ここではそれが正解だったりする事もありましたね。」
これからも継続するフォローアッププロジェクトでの目的は、
「知識と必要性の理解を、現場での行動に繋げる」ことです。我々が作ったマニュアルにただ従って動くのではなく、彼ら自身が考えた行動の結果が、彼ら自身で作ったマニュアルとなり、現地に根付くことでもあります。
2014年4月より開始した軍病院ICU看護師育成プロジェクト。
この感染予防対策講義を持って全講義実習予定を無事終了することができました。
改めて皆様のご支援、ご声援に深く感謝申し上げます。
ここで今季の日本からの講師派遣は終わりますが、しかしながら、これからが現場で生徒と向き合って行く本番でもあります。
どれだけ念入りな計画を立てていたとしても、思うような結果が得られない状況には何度も出会いますが、何度でもフィードバックから計画を見直し、実践、評価を行っては、また改善を行うサイクルを繰り返し続け、これからもフォローアップや来季のプロジェクトに取り組み続けたいと思います。
これからもどうかご声援、ご支援をよろしくお願い申し上げます。
NGO Future Code
Bangladesh 看護師育成プロジェクトチーム一同