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『怒り』の原作を読んだ。
原作者である吉田修一さんは以前からのファンで、他にも2冊過去作品を持っているが、この作品は公開時から色んな人の感想を読んで、見る勇気がなくなってた。
理由は、米兵による痛々しいシーンがあるから。
それでも手に取りまずは原作を読んでみた。
だんだんと犯人がなんとなく分かり、そして終盤付近では本を読む手が震えていた。
その時自分の中に芽生えた感情はまさに「怒り」だった。

読んだあとも、今もずっと頭から離れない。
あまりにも悲しすぎてやるせなくて、現実でもつい最近あんな事件も起きたばかりで、これを映像で見るのはあまりにも辛すぎると思った。
まだ10代の役者さんに演技とはいえそんな体験をさせるなんて、演じた役者さんたちも相当辛かっただろうと思った。

歳が一番近く、沖縄の離島ということから、私が一番共感したのは、女子高生の小宮山泉だった。
彼女は母親の都合で友達もいない離島に引っ越してくるという設定で、境遇は少し違うけれど自分と似ているような気がした。

そんな彼女がいわゆる「バックパッカー」みたいな風貌の素性の知れぬ「田中」という男に気を許してしまう気持ちも、痛いほど胸に刺さり、だからこそ、彼女の最後の結末に悔しさや怒りがこみ上げてきて止まらなかった。

その時、ふと頭の中で思い出した。
地元の離島で、私が16歳だったとき、街中で私に声をかけてきた、赤いリュックを背負い無精髭をはやしたバックパッカーらしき男の人のことを。

あの男の人はどうしてあの島に居たのだろう。
今はどうしているのだろう。
ご飯も何も食べていなさそうな風貌だったけれど、ちゃんとご飯を食べて今も暮らしているのだろうか。

その男の人はどこか挙動不審で、人目を気にしているようにも見えた。
会話を交わしたのはたったの数分だったけれど、そもそも彼はなぜあの時、私に声をかけてきたのだろう。

きっと、「田中」という男に出会い、彼を気にかけ星島を行き来していた小宮山泉も、こんな気持ちだったのだろうかと思った。
私はいつの間にか、自分の体験に置き換えて考えていた。
まるで自分自身が、小宮山泉として本の中に潜り込んでいるような気分になって恐ろしくなった。

私にとってこの作品は、いろんな意味で深い爪痕を残した。
後味は悪いけれど、読んで良かったと思った。
一生忘れられない作品になるだろう。