その彼は、幼い頃、父親に捨てられ、母と極貧生活を送っていた。
食事すら満足に取れない生活で、彼は成長と共に、
当然の如くグレていったのである。
中学もロクに卒業していなかった彼は、自堕落な生活を送っていたが、ある日、苦労をかけ続けてきた母が、それでも何も言わず、働きづくめの様子を見て、「このままではいけない!!」
「こんな俺は俺じゃない!!」と一念発起し、大学検定を受け、
見事、奨学金制度で大学を、無事卒業する事が出来たのである。
だが、その後も彼の不運は続く。
夜遅く迄、必死になって働いていた頃、終電近くの電車を駅のホームで待っていたら、不意に
暴力団風の男にいきなり顔を殴られ、線路に落ち、気付いた時には、駅の医務室にいた。
訳も分からず、通り魔的な犯行に見舞われ、彼は、片目の視力を殆ど無くしてしまった。
又、彼の周りの友人が事故に見舞われる事が相次いだり、電柱から垂れ下がっていた電線に、同僚が触れ、目の前で感電死したりと、
普通ではあまり体験しない不吉な事が度々起こっていたのだ。
それでも、彼の目は真っすぐと見据えられ、陰りひとつ無く、そんな経緯を一切感じさせない穏やかな彼に、
私は、彼の「波乱万丈」な半生を、不謹慎にも少し羨んだ。
その事を彼に告げると、彼は遠い目をしながら
「波乱万丈な人生がイイなんて言うもんじゃない・・・。
普通の人生が一番なんだよ。。。」
と呟いた。
今なら、その言わんとする事が分かる様な気がする。