並んで、からだが少しだけ触れ合って、
- 前ページ
- 次ページ
並んで、からだが少しだけ触れ合って、
何度か花に別れを切り出されたことがあります。
数ヶ月前に、
ふたりの感情抜きでふたりの関係を終えざるを得ない時がありました。
花がカレシにおれとの関係がばれた時です。
おれと、花と、カレシと3人で、3者面談をしました。
花には色々事情があって、
おれと別れてカレシとの関係を続けざるを得ませんでした。
気持ちを無理矢理押さえ込んで、そうするしかありませんでした。
でも、やはりおれの人生にはどうしても花が必要で、
その数日後、花に会いに行きました。
カレシはゆるしてくれているのか?
カレシはやさしくしてくれているのか?
カレシにあいされているのか?
カレシをあいせているのか?
花は、今、幸せなのか?
色々な質問をぶつけました。
答えは、全てNOでした。
お仕置き的に体を殴られたりもする、という事でした。
裸の写真も撮られたりする、との事でした。
でも、ふたりには、どうしようもないことが多すぎて、
この悲しい流れに身を任せる事しか出来ませんでした。
『ちょっとだけ飲みにいこうか。』
と言って、そのままふたりで黙って歩きました。
新中野の商店街のほうに、
【もんし】という居酒屋がありました。
昭和の映画館のような変な看板で、花は、
「なんかこのお店気になる。」
と言いました。
おれは、
『こんな看板の店、いかにもダメっぽくね?』
と言ったのですが、
「あたしの勘、けっこう当たるんやで。ええ店やと思うわ。」
と、花が行ってみたいということだったので、仕方なく、
おれは諦めムードが花にがっつり伝わるように、
花のうしろをだらだらとついていきました。
信用していなかったので、
がっかりしないように、
おれは、チーズとか漬物とかあまり手のかからない
ハズレの少ないものを注文しました。
花は、れんこんのはさみ揚げとかを頼みました。
おれが頼んだものは手がかかってないだけあって普通でした。
花が頼んだれんこんはさみ揚げを食べてみました。
さくさくで全くあぶらっこくなくて、
期待していなかった分衝撃的にウマくて、
他の料理も、何を食べても大概ウマくて、
食べる側を思いやってる感に溢れる料理でした。
『すげー。こんな居酒屋を東京でずっと探してたよ。
田舎にはあったからさ。大概ウマい系の店。いいな、ここ。』
と言ってしまいました。
花は、
「な?あたしを信じるべきやったやろ?」
と誇らしげに言いました。
さっきの沈んだふたりとは思えないくらい、
いつのまにか、しあわせなふたりにもどっていました。
「あとな、根拠も無いのにずっと言ってるけど、
あたしと大は絶対はなれたらあかんねん。
あたしの勘は当たるねん。絶対はなれたらあかんねん。」
と幸せそうに言いました。
結局、それから、
いつのまにかまた普通に連絡をとるようになって、
いつのまにかまた普通に会うようになっていました。
結局は、ふたりは、はなれられませんでした。
どうせはなれられないくせに、
その後も何回か別れ話になりました。
ついこのあいだも。
「ごめんなさい…。もう無理…。
うちらもう手詰まりだよ…。
いままであいしてくれてありがとう…。」
そう言い残して泣きながら花が部屋を出て行きました。
悲しかったのですが何も出来ず見送る事しかできなくて、
出て行った後もしばらくその場に座っていました。
別れるしかないのか…、と体中の力が抜けました。
でも、やっぱりどうしてもおれの人生には花が必要で、
もう花が部屋を出てから何分もたっていて
追いつけないかもしれませんでしたが、
おいかけようと立ち上がりました。
急いでコートを着て靴を履いて、
ドアに手をかけました。
その瞬間。
向こうからドアが強く引っ張られました。
花でした。
花もやはりおれと同じ気持ちで、
途中まで帰ったものの引き返してきていました。
おれを見た瞬間「大……。」と、抱きついてきました。
しばらく抱き締めて、
『よりによって同時かよ。おれらいつも一緒だな。』
「やっぱりそうだね。どうしよう。はなれられないね。」
と、ふたりでわらいました。
皮肉な気もしますが、
別れ話のたびに、
ふたりの絆が強くなっていっている気がします。
そして信頼関係も増しているような気がします。
初めて【もんし】に行った日から何度も別れ話をした今なら、
花の勘を信用してどんなお店でも…、とは思いますが、
まだそこまで花の勘を信用できなくて、
やっぱりまだ色々ぶーぶー言ってしまいます。
なので、
「あたしと大は絶対はなれたらあかんねん。
あたしの勘は当たるねん。絶対はなれたらあかんねん。」
まずは、ここから、花の勘を信用することにしようと思います。
海苔&チーズ
れんこんはさみ揚げ
ここまで一応不倫していましたが、
オレの嫁が暫く実家に帰っていてこっちにいなかったので、
生活自体はあまり不倫っぽくありませんでした。
色々事情があって、
花はまだカレシと別れられずに同棲を続けざるを得ず、
花と一緒に遊んだ別れ際などは
カレシの元へ返さなくてはならず、
耐えがたいものがありましたが、
おれはひとりの家に帰るだけだったので、
花にはあまり耐える時間はありませんでした。
正月明けに、嫁がこっちに帰ってきました。
これで花にも耐える時間ができました。
一応、嫁とは別れ話が進行中ですが、
やはり花はすごく不安なようです。
オレと家族の生活がまた始まったことによって、
花との時間が減るんじゃないか、
いままで花と過ごした時間の思い出が薄れるんじゃないか、
家族への思いが強まってそちらを選ぶんじゃないか、
不安は尽きないようです。
オレがすんなり別れられればそれにこしたことは無いのですが、
なかなかすんなりいかず、
花には、また、さびしい思いばかりさせています。
花は、『さいきんあたしすこしおかしい。』
と言っています。
花は、最近、すぐに、
『こんなんじゃあたしもう死んだほうが楽や。』
と言ってきます。
花は、最近、すぐに、
『あたしめんどくさいおんなになってるよな?』
と聞いてきます。
花は、最近、すぐに、
『こんなあたしじゃ大にめいわくだからしばらく連絡取らんようにしよ?』
と言ってきます。
あんなにふたりで笑ってばかりいたのに、
『せっかく大といるのにわらえないしわらわせられないし
大にひどいことばっかり言ってる。』
と、花は、最近、いつも言っています。
花には、普通の人が味わう事のないような、
辛い過去があります。
その時、オレは、まだ花と出会っていなかったので、
そばにいて支える事も、
一緒に乗り越える事もできませんでした。
不謹慎かもしれませんが少しだけ悔しい気がしました。
ちょっと前に、花のご両親のお墓に一緒に行きました。
花のふるさとに行くのは初めてでした。
あれから何年か経っていても、花の傷はまだそのままで、
涙が止まることなく溢れていました。
おれは何もできませんでしたが、
大量の雑草をむしって、
いろいろ水であらって、
心をこめて、きれいにそうじをしました。
そのあと、
天気が良かったのですこし散歩をしてから、
花のふるさとの名物柿の葉寿司の、
『大和寿司』というお店で、
寿司を食べながら、酒を飲みました。
『大とここに一緒に帰って来れてよかった。』
と幸せそうに言ってくれました。
そして、ちょっと軽く…のつもりが、
やはりふたりだと楽しすぎて、
日本酒を何本も飲んでしまいました。
やはり花は幸せそうで、
今鳴いたからすがもう笑った…、という感じでした。
過去の話なので、
どうやっても一緒に乗り越えることは出来ませんが、
一緒に墓参りに行って、すこしだけ花のつらさを共有できました。
また、花に、すごくやさしくしたくなってしまいました。
今、こういう状況で、花もオレも辛い状況です。
一緒に乗り越えるべき大きな壁にぶち当たりました。
いま、花は、目の前でつらい思いをしています。
なのに、ちゃんとやさしくできずにいます。
昨日も、初めて花を怒ってしまいました。
オレも色々あって余裕が無いのかもしれませんが、
冷静になった瞬間、
花にやさしくできなかった後悔と反省で、
頭がいたくなります。
自分が楽な立場の時は、
『やさしくしたい。』とあんなに簡単に思ったくせに、
と、自分が情けなくなります。
『どうしたらあたし楽になるんやろう…。』
おれがすぐには別れられないのを知っていても、
最近花は何度も聞いてきます。
いつもうまく答えられませんが、
多分答えは簡単で、すぐに離婚すればいいのですが、
それが簡単ではない以上、
いつも以上におれが花にやさしくすればいいのかなと思います。
そして、ふたりで、ゆっくり酒を飲めるだけでいいんだと思います。
そんな時間を今はなかなか作れないから、
花は、鳴いてばかりいてまだ笑わないんだと思います。
今鳴いているからすはいつ笑うんだろう、
早く笑わせなきゃいけないな、と思います。
ふたりのじかんをたくさんつくってあげないとな、と思います。
そうしたら、花のしあわせそうな顔が見れて、
おれもしあわせになるんだと思います。
そして、
今でも笑ってる時は確かに幸せですが、
こういう時こそお互いがお互いを思いやって、
支えあって一緒に乗り越えて初めて、
心から笑える日が来るんだと思います。
花。がんばろうな。と、思います。






