パパ、どこにもいかないよね。
あの女がほくそえんでる気がして夜眠ることが出来ない。
なぜ間違ったことをしていないママが死んであの女は生きているんだろう
神様なんていない
パパ。どこにもいかないでね
パパ、どこにもいかないよね。
あの女がほくそえんでる気がして夜眠ることが出来ない。
なぜ間違ったことをしていないママが死んであの女は生きているんだろう
神様なんていない
パパ。どこにもいかないでね
一時退院をしたとき、病院から帰ってきた母の荷物に一枚の写真があった。
父がデジカメでとった写真だった。
私と妹と母がいた。
みつごじゃね?と妹は笑った。
そっくりすぎるよ、と父も笑った。
さすが私のDNA、と母も笑った。
母に会いたい。
心の中にいればいいなんて、うそだ。
マザコンと言われようがどうでもいい。
誰か母を返してください
さもなければ誰かを恨んでしまいそうだ。
そんな感情は間違っている。さもなければ自分を嫌いになりそうだ。
母に諭されたい。
せめてもう一度だけでも会いたい。
でもそのすぐ後、また別れがあるのなら、そんなのにはきっともう耐えられないから
私はおとなしく母の死を認めなければならないのだろう。
母はもういないのか。
いないわけじゃない、だけどもういない、会えない、話もできない。
あの小さな手に撫でてもらうことも、お弁当を食べてもらうことも、褒めてもらうこともできない。
出来ないことばかりを数えてる。
文字にするとなんと情けないことだろうか。
認めたくない、でもわかっている。
私の母は死んでしまったんだ。
もう息をしていなければ、どこを探しても母の姿を見つけることも出来ない。
考えがまとまらない。
歩いて、笑って、動く母がみたい。
母の声を聞けない夜なんて今までいくらだってあったのに、今はそれが堪えられない。
通夜、火葬、葬式とすんで、たくさんの人が声をかけてくれたけど、どれもあまり覚えていない。
小さい母が、さらに小さな骨になった。
薄い、ピンクの色がところどころについていた。
長年の薬の投与か、わからないけど母の骨は粉々だった。
手のひらにすっぽりおさまる、まだ暖かい骨をこっそり黒いハンカチに隠した。
これは私のものだ。
火葬がすんで、車に乗り込んだ時、妹が手のひらを開いて見せた。
そこにも母が居た。
私も黒いハンカチをひらいてみせた。
私たちはくすりと笑って、それからまたひとしきりないた。
私は弁護士になりたかった。
その為に中学校から勉強していた。
妹は中学校、その前からスポーツでいろいろなところから注目される選手だった。
まわりの大人にそんな意識はなくても、妹が褒められるのが、嬉しくもあり羨ましかった。
どうころんでも私には運動なんて出来ないから、私にもなにか出来る事が欲しかった。
幸いか、勉強するのが苦ではなかったから、そこに道を見つけた。
弁護士になろうと思ったのは、単にお金が稼げそうだから。
弁護士なんて職業になりたいと言ったらまわりから「すごいね」と言ってもらえそうだったから。
それだけの理由だったけど、それからたくさん勉強するようになった。
弁護士は学閥だ、とうろ覚えだが聞いたことがあり、じゃあいい大学に入ってやろうと思った。
テストでいい点をたくさんとった。
県下のテストでもいい成績を残せるようになった。
希望の大学にストレートで入れた。受験前に父親の浮気なんて事もあったけど。
母は喜んでくれた。
だけど母がそれ以上勉強しろだとか、いい点をとれだとか、そんな事は一度も言われた事がなかった。
私の視力が落ちてしまったのを少しだけ悲しんでいたのを覚えている。
「眼鏡は似合わないからコンタクトにしなさいよ」と、笑いながらやっぱり頬を撫でてくれた。
コンタクトをしても、はずしても、今は視界がぼやけてうまくものが見えない。
父と母は覚悟をしていました。
今を逃したら、一生病院にいつづけねばならなかった事を。
最後とわかっていて、私と妹と暮らすために「一時退院」していたことを。
この二ヶ月、父と母と私と妹と、毎日が穏やかで、ただただ楽しかったです。
辛そうな様子など微塵も感じさせませんでした。
幸せに目がくらんで、母の事を思いやれなかった。
息をひきとるまえ、左右の手で私たちの頬を撫でてくれた母の手の感触がまだ残っています。
色が白くて、静脈がうかんでいて、小さくて、でも暖かい母の手。
その手の感触が消えていくのが怖い。
妹が泣くと、私が泣いているような気がする。
私が泣いていると、妹も泣き出す。
ただただ涙しか出ない毎日です。
立ち直るとか、先のこととかがまったくみえないです。
もう大人になって いくのに、もっと悲しい思いをしているひとはきっとたくさんいるのに。
私はこんなにも悲しい。心臓が痛い。