ある学校に、光を持った子がいた


その子は、
少し早く大人の世界に足を踏み入れてしまった。


ピアノが特別上手だったわけじゃない。
でも、音に気持ちを乗せることができた。
自分の感情を言葉にするより、
音や役割を通して差し出すほうが得意だった。

先生たちはその子に気づいた。

「伴奏ができる子」
「学級委員を任せられる子」
「場の空気を和らげる愛嬌のある子」

そうやって、
その子の周りに物語の輪郭が描かれていった。



彼女は、期待に応え続けた

期待は、怖かった。
でも同時に、
「ここにいていい理由」でもあった。

だから彼女は、
音楽室で一人、毎朝鍵を借りて練習した。
弱音を吐く暇もなく、
「大丈夫な顔」を覚えていった。

先生たちは彼女を導いた。
舞台を用意し、役を与え、光を当てた。

それは
守るためでもあり、前に出すためでもあるプロデュース。

彼女はそれを全身で引き受けた。



そして、中学最後の合唱コンクールの日が来る

勝ちたかった。
心の底から。

これはただの賞じゃない。
このクラスの時間、
自分が背負ってきた役割、
信じてくれた視線すべての行き先。

でも、音は完璧には鳴らなかった。

その瞬間、
彼女の中で
「光」が初めて痛みに変わった。



それでも、世界は終わらなかった

泣いて、
悔しくて、
自分を責めて。

でも、
何も言わずそばにいた友達がいた。
陰で見守っていた先生がいた。

そして、
あまり関わりのなかった一人の先生が、
静かにこう言った。

「あなたと一緒に合唱ができてよかった。ありがとう。」

その言葉は、
肩書きを剥がして、
役を外して、
彼女の存在そのものに届いた。

その瞬間、
彼女は初めて知った。

「私は、何かを“成し遂げたから”じゃなくても
 一緒に時間を過ごしたこと自体を
 感謝されていいんだ」



時間は流れ、彼女は大人になった

舞台はなくなった。
役も消えた。
先生たちもいない。

そして今、
静かな場所で立ち止まって、
あの頃を思い出している。


あの言葉をふと思い出して、涙が止まらなくなった。


苦しくて、
誇らしくて、
戻りたくなくて、
でも羨ましい。

それは、


あの物語を生き切ったからこそ生まれる感情。