医学の進歩はすごいなと思った話 その3 新型コロナウイルス感染症の治療に役立つ2つの異なるメカニズムを明らかにした

通常の薬剤の作用

「人間のタンパク質に影響を及ぼして」治療する。特定のタンパク質の働きを強めたり弱めたりすることで治療に役立てる。影響を及ぼすタンパク質は薬の種類によって異なる。
ウイルスの作用
人間のタンパク質と相互に作用し、影響を及ぼして感染させる。
→ウイルスはと相互作用するヒトタンパク質を薬剤によって制御するとウイルスの感染や繁殖を防ぐことができる。
この考えをもとに、新型コロナウイルスのタンパク質と相互作用するヒトタンパク質を図に表わした。
その図の交差点が薬物が新型コロナウイルスと戦える場所になるため、この部分に影響をもたらす薬剤を、アメリカ食品医薬品局(FDA)の薬剤カタログの中から探し、69種の既存薬剤を発見した。
既存薬剤のテスト
実際に新型コロナウイルスに感染したアフリカミドリザルの細胞に薬剤を投与する前後で、ウイルスの量と生きている細胞の数を比べ、薬の効果を検証した。
47種類の薬剤テストの結果薬剤の影響は異なる2つのメカニズムによって作用した
1. 翻訳阻害
通常は細胞がウイルスに感染すると、ウイルスが感染した細胞の生産を始める。このプロセスには細胞がウイルスRNAから新しいウイルスタンパク質を作ることも含まれる。これが翻訳と呼ばれる。
この翻訳を阻害する化合物…テルナチン-4、ゾタチフィン(日本にはないかもしれない。多発性骨髄腫の治療に使用されていると書かれている)
2. シグマ受容体の不活性化
人間の細胞には「細胞受容体」が細胞表面と内部の両方に存在し、特定の分子がその受容体に結合することで生体反応を促進・抑制するなどの特定の働きをする。ウイルスはこの受容体を利用して感染することがあり、この受容体に影響を及ぼす薬剤を使用することでウイルスに戦うことができる。
ただしウイルスがどのように受容体を操作しているかは正確にはわかっていない。
【薬物治療に効果的な受容体シグマR1とR2に影響を与える7つの薬剤・分子】
・ハロペリドール、メルペロン、クレマスチン、クロペラスチン、化合物PB28、プロゲステロンは新型コロナウイルスを不活性化する。これによりウイルス複製を抑制できる可能性がある。
・デキストロメトルファンはテストではウイルスの複製が促された。
※ この研究では「ヒドロキシクロロキン(マラリア治療薬)」の研究結果もある。結果としては受容体シグマR1とR2に結合することはなく、心臓の受容体と結合しやすく障害をおこす。このため信頼できる治療薬とはならない。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校、細胞・分子薬理学部のネヴァン・クローガン教授の研究チーム(QCRG:QBI coronavirus research group) 4月30日 「Nature」
A SARS-CoV-2 protein interaction map reveals targets for drug repurposing