ビンタと泥酔と突然のキス | 東京は夜の7時~

東京は夜の7時~

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あの子はタバコを吸いながら不機嫌そうに立っていて、僕が近づくと無言でスタスタ歩き出す。
ドイツ人のハーフで濃い顔。
絶対年取ったらステラおばさんみたいなボヨンとしたかわいい人になるだろうな。と想像出来る感じ。

初めて会った日、渋谷で三軒もハシゴして飲み歩き、僕は飲めないくせに家に地元福島の地酒がある。と話したらよっしゃ!お前ん家行くぞ!!といきなりうちに来て何故か一口も飲まずにソファで寝た。
僕はなんなんだ、この人は!と困惑しながら冷蔵庫の中身でおつまみをチマチマ作り、出来上がった頃には熟睡していて僕は無言でそれを食べ、起きるまでテレビを見ていた。

それから好きだとか付き合おうとか言わないまま時が過ぎ、でも何故か仕事終わりには一緒にいて、毎晩イタリアンだ焼肉だとうまいもんを食べ歩き、泥酔していた。

あの子は僕よりずっと男前でズバズバっとしていてめっちゃカッコいいなー。と思っていて仕事のアドバイスなんかは彼女の言葉をメモしていたぐらいだ。

ある日。いつものように飲み歩き泥酔し、タクシーであの子の家に行った。
辛い事があったのか家でもガブガブ飲んでいたあの子は無言になり、いきなり僕にモーレツなビンタをくらわし、唖然とした僕にいきなりキスをした。

かと思ったら味の無くなったガムを入れられていた。

わけわからん!(笑)

僕は飲み歩くといっているが実は全くの下戸でいつもあの子だけ飲んで僕はおつまみを食べるだけ。
グチをうんうん聞きながら時々デコピンさせろ。とかビンタしていい?ってのを必死で断り、タクシーに乗せ一緒に帰った。
あの子の機嫌がいい日は手を繋いだり。
なんだかんだで幸せだった。

あの子は超大手のインターネットサイトの派遣だったが社員になり、僕は僕で歌のステージが増え、本業で泊まる事が多くなりいつの間にかお互い連絡取らなくなった。

仕事で辛い時やヘトヘトに疲れた時、急にあの子を思い出すことがある。

元気?
最近どう?

なんかいい言葉が見つからない。
今さら寂しくなって連絡とかカッコ悪いし。
いつも携帯を握りしめ、指をキーボードに置いたまましばらく考え、やっぱり携帯をポケットに入れてしまう。