アメリカについて、「週刊文春」9月15日号 | ほぼアニメ中心のブログ

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9月8日発売の「週刊文春」9月15日号で町山智浩がシュガーダディについて書いていた。
 
シュガーダディとは何かというと血のつながっていない若い女性を援助する「パパ」のことで、アメリカ版援助交際みたいな話なのだけど、日本のそれとは随分と趣が違う。
 
「プレイボーイ」創刊者のヒュー・ヘフナー(85)が25歳のプレイメイトと結婚式を挙げる予定がその4日前に逃げられ、「自分と結婚したら80万ドル、その後は毎年50万ドルをあげる」などとその女性に約束していたことが暴露されてしまった話題は記憶に新しい。また投資家のジョージ・ソロス(81)が、 28歳の元愛人に50億円の損害賠償請求で訴えられたという話もあった。ソロスはマンハッタンに200万ドルのマンションをあてがうことをその女性に約束していたのに、新しい愛人に乗り換えるとそっちの女性に件のマンションを与えてしまったことがいけなかったのだとか。
 
この辺の下世話な話はさておき、本題へ。

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こういう「パパ」を英語では「シュガーダディ」、経済的援助を受ける女の子を「シュガーベイビー」と呼ぶ。これがアメリカで激増している。ネットにはシュガーダディを紹介するサイトが乱立し、登録者数はここ数年で3倍以上になったという。彼女たちは遊ぶ金目当てじゃない。多くはマジメで優秀な苦学生だ。
 
「名門NYU(ニューヨーク大学)だけで500人近くのシュガーベイビーがいます」
 
教育ジャーナリストのアマンダ・フェアバンクスが先日、ショッキングなデータを発表した。彼女は全米の名門大学を対象にシュガーダディを持つ女子大生の数を調べたのだ。UCLAは253人、うち(注;町山の家)の近所のバークレー校も193人。ヘフナーとソロスに会ったベイビーたちも女子大生だった。
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そういえば、2008年にはカリフォルニア州立大サクラメント校の22歳の女子大生が、大学院への進学を望むも学費ローンの返済に困り、自らの処女をオークションにかけると発表して話題となった。
 
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背景には08年の金融崩壊と10%前後の失業率、大学の財政難による学費の高騰がある。たとえばNYUの年間授業料は平均で5万5000ドル、公立のUCLAでさえ3万ドルもする。4年間で1000~2000万円になるので中産階級の親には辛い。多くの学生は学費ローンを借りる。卒業時に学生が抱える借金は平均2万7000ドル。新卒の就職率はどん底なのに!医師や弁護士の資格、MBAを持つ者と一般の勤め人の年収差はケタ違いに広がった。アッバークラスに上がるには立派な学位が必要だが、それには金持ちの御情けにすがるしかない。これが21世紀アメリカの実情だ。
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同じく「週刊文春」で、こちらは教える側、長らくコロンビア大の教授であったドナルド・キーンが日本への永住を決意するにあたって、医療制度がその理由の1つであったことを明らかにしている。

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「たしかに日本の病院での体験は、私が永住を決めるきっかけになりました。それだけ言うと日本国籍をとる理由としては誤解されるかもしれませんが、もちろん私は日本に対して純粋な気持ちです。」
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キーンは近年、痛風に苦しんでいた。

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「昨年の大晦日には歩けないほどに悪化しました。そこで元旦に聖路加国際病院に入院することになりましたが、その時から三週間後に退院するまで、医師や看護師の尽力には大変感激しました。入院当初は熱があったために、点滴もうまくいきませんでした。容態は深刻で、周囲の人々は『一生車椅子じゃないか、寝たきりになるんじゃないか』と心配していました。診断は、痛風の三段階診断で一番重い『シビア』だったのです。しかし、医師の診察と治療はとても信用できるものでした。説明もしっかりしていて、入院中、疑問に思うことはありませんでした。担当の医師は私が初めて歩こうとした時もニコニコして、ベッドから体を支えて起き上がると、ずっと激励してくれる。これは感心しましたし、自信も付きました。フロアを歩いて一周すると、別の病棟の看護師たちまでも『歩けるようになって良かったですね』と喜んでくれる。つまりは人間味の問題です。これはアメリカでは経験したことのない、ありえないことです。」
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そして今年の7月の終わりには、ニューヨークの自宅で朝起きて気絶し、そのまま救急車で運ばれるという出来事があった。

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「すぐに応急処置がなされました。私は脱水症状を起こしていましたが、この時の処置は良かった。私をモノではなく人間として扱ってくれた。酸素吸入をして、危機は脱しました。酷かったのはその後です。近くの病院に運ばれたのが午前九時。そこはまったく人間的ではないところでした。何人も医者が回ってきますが、前の医者が何をしたかを知らないので、何回も同じことを聞かれる。そしてその医者は二度と戻ってこない。そして二時間ほど検査をした後は、ずっとほったらかしです。」
 
「私はER(救急治療室)で長い時間待たされました。アメリカにはいろんな人種、階層の人がいます。ERにも、さまざまな人々が喚いたり騒いだりと大変騒がしい。そんなとこに、八時間も放っておかれたんです。もう我慢できない、ここにはいられないと医者の許可を取らずに、点滴の針が付いたまま病院を出ました。会計も無視して出たので、二時間ほどして病院から電話がありました。あんなところにはいられないから出てきた、というと、化膿するので針だけは抜きに来てくれという。後日行きましたが、治療費を聞くとこれで一回四千ドル(約三十万円)だそうです。メディケア(高齢者向け医療保険)があるので、払わずに済みましたが。」
 
「オバマ大統領の政策によって、大勢の人が医療を受けられるのはいいことです。ところが私が体験したのは、医者が足りない、設備が足りない、患者は喚いている……まるで地獄のようでした。東京での体験と比べると、説明できないほど嫌な思いをしました。もちろんアメリカの医療すべてがそうだと言うつもりはありませんが。」
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海外では日本の放射能リスクを恐れる向きも強いというが、日米の医療制度の違いというのは、それを乗り越えさせるほどのものらしい。名門大学に長年奉職した教授という、アメリカでも押しも押されぬエリートである筈のキーンでさえ、現地の病院でああした目に遭うというのがこの話の勘所であって、これが低所得者だったら病院へ行く金もなく、喚くことすらできないという話である。
 
アメリカは自由というけれど、自由も度が過ぎれば放置プレイに等しく、大学で研究を続けるために女子学生は春をひさぎ、よりよい医療を受けるために老学識が国籍を捨てるといった、およそ本末転倒な事態が起きてしまっている。
 
元々が「大草原の小さな家」みたいな自力更生を生活理念とするアメリカであるけれど、西部劇みたいな暮らしをするならいざ知らず、現在においてはそうした考え方は、ちと無理があるということだろう。