去る11月29日、太陽の直径よりも短く太陽表面に近づいたアイソン彗星が、突然姿を消してしまった。彗星とはほとんどが氷で出来ており、「汚れた雪だるま」と表現されるが、おそらく太陽の熱で大部分が溶けてしまったか、太陽の重力に負けて分解してしまったと言われている。

 ギリシャ神話に出てくるイカロスという神が、太陽に近づき過ぎて焼け焦げてしまったという逸話を、まさに地で行ったようなものだ。彗星は太陽風によって氷やチリを反対側に噴出し、それが長く尾のように見える天体だ。太陽に近づけば近づくほど、尾は長く明るくなる特徴がある。アイソン彗星もはかなり太陽に近づく予測だったので、近来にない大彗星になるのではと期待が膨らんだが、がっかりである。

 彗星の名前は普通、第一発見者の名前が付く。有名なところでは「ハレー彗星」や「池谷・関彗星」などがある。しかし今回の「アイソン彗星」は、第一発見者のロシア人、ネフスキー氏とノヴィチョノフ氏が所属する「国際科学光学ネットワーク(International Sciense Optical Network」の名称を付けたもので、やや珍しいことだ。

 そして太陽に近づいて消滅した彗星も相当珍しい。テレビの特別番組も、陸や空の観星ツアーも全ておじゃんになってしまった。天体の運行に関する予測は、計算上ほとんど狂いがないものだが、今回は全く予測に反するものとなってしまった。宇宙の現象には、まだまだ我々人間の叡知を越えたものがあるのだと、痛感することになった。