こんばんは!

文月です。

 

今回の話は長いので早速小説です。

最後に色々書きますね。

それではどうぞ。

 

***

 

まえがき

海は人の心に少し似ている気がする。
満ちたり、引いたり。
人を寄せ付けたり、遠ざけたり。
綺麗だったり、汚れていたり。
いや、そんな自然を人の心と重ねるのは僕だけか。
これから僕がお話しするのは、数年前に僕に起こった初恋の話。
少し受け入れ難いかもしれないけれど、世の中にはこんな人もいるんだなぁ。と思う程度で結構だ。
リラックスして読んでくれると嬉しい。


それは──まだ梅雨の蒸し暑さが残る七月のはじめのこと。

珍しく晴れが続き、どこかへ行こうと考えた僕は少し昔のことを思い出していた。
幼い時両親と一度だけ行った近場の海。
昔のことすぎて記憶も曖昧だが、少し嫌な思いをしたような気がする。
しかし今なら何か違う感じ方ができるかもしれない。そう考えた僕は早速準備を始めた。
白い七部丈のシャツと紺色のジーンズを履いて、カメラとスケッチブックを雑にカバンに詰め込んで自転車に跨った。
あの頃とは違って今は一人でどこへだって行ける。

時間はまだ昼というには早い午前十時過ぎ。
久しぶりに自転車を漕いでいるが、案外普通に乗れるものだな。
坂道を一気に下る時に全身に当たる少し湿っぽい空気が妙に心地よくて、ずっと下り坂が続けばいいのにな。
そう考えていた。そうしていると微かに潮の匂いが漂ってきた。
左手でブレーキをギュッと押し込み自転車を止め、前を見るとそれはそれは美しい海が広がっていた。
自分の後ろから照りつける太陽が反射し、宝石のようにキラキラと輝いている。
「綺麗・・・」
意識せずポロッと感想が零れた。
これが海との『再会』と『出会い』だった。

堤防に自転車を立てかけ、堤防に座ってもう一度目の前に広がる海を見てみた。
さっきより、もっと近くで見る海は宝石箱のように感じた。自分の好きな『綺麗』を目一杯閉じ込めた場所だった。
少し視線を落とすと、真っ白な砂浜が広がっていて、複数の足跡があった。
まだ海の季節では無いけど、ゴミが少ないから掃除にきた人のかな。
僕はカバンの中から一眼レフを取り出し、靴を脱いだ。
堤防を降りて砂浜の上を歩き回ってみた。
小さな砂粒や貝殻、波によって打ち上げられた空き瓶。十数年海を見ていない僕からすると全てが新鮮だった。
綺麗だと思ったものをパシャパシャと写真を撮り、その思い出を貯めていった。
満足したところでもう一度海を見てみた。
その時──幼い頃体験した嫌な思い出が蘇ってきた──

母親に抱えられ、一緒に海水に浸かったことがあった。その時恐怖で泣き出してしまったのだ。
真下を向いてもそこの見えない真っ黒が広がっていたから。どこまでも落ちてしまいそうで、二度と上がって来れなさそうで──

「そうか。昔の僕は怖かったのか。」
思い出した今、もう一度海に浸かってみようと思った。
そうは言っても、水着なんて持ってきてはいないため、足だけ浸けてみることにした。
ザザー・・ザザー。と絶え間なく波が僕の足めがけて迫ってくる。僕はそんな波を踏んづけた。
足の裏に広がる冷たい冷たい海水と海に吸い込まれた砂。
とても不思議な感覚だった。ただの水とは明らかに違う感覚。
僕はそのままザブザブと歩いていった。
僕が歩く度、水面には小さな波が遠くまで伝播している。海を歩いたような、足跡が見えるようでとても楽しい。
ふくらはぎが浸かったところで、来た方向を振り返ってみた。
そこには今まで見たことのない景色が広がっていた。誰もいなくて、何もなくて、大きな宝石箱を独り占めしているようで。とても気分が高揚した。
この時僕は抱いたことのない気持ちをこの広い広い海に抱いた。
そして、年甲斐もなく海ではしゃいでみた。手で掬ってみたり、弾いてみたり、顔を浸けてみたり。
一通り堪能して初めて気づいた。
”タオルが無い!!”ということに。
僕は急いで海を後にしてカバンを覗いてみた。しかし、水気を取れるようなものは一つも入っていなかった。
僕は海に浸かったことを少しだけ後悔し、堤防に座って海をただぼーっと眺めていた。
「海はなぜそんなに綺麗なんだい?」
目の前の広大な海に向かって言葉を投げてみたが、少し勢いの落ちた波の音が聞こえるだけだった。
暇になった僕は海を眺め、考え事をしていた。
この場所から感じる海というものはとても不思議だ。
目に意識を向ければ、キラキラと輝く綺麗な海を見られる。
耳に意識を向ければ、目の前の砂を撫でる波の音が聞こえる。
鼻に意識を向ければ、脳を刺激する潮の香りが香る。
体に意識を向ければ、時折当たる冷たい潮風を感じる。
考えれば考えるほど奥が深くて、どこまでも沈んでいってしまいそう。
「はぁ・・・僕はきっと海が何よりも大好きなんだな。」
これまで何か一つのことに丸一日を費やしたことはない。それくらいに僕は海の虜になっている。

「そろそろいい時間か。」
左腕の時計は午後三時ちょうどを指していた。僕は乾いた足に付いたまま砂をはたき落とし、靴を履いた。
「まさか、海を見るだけだったはずなのにこうなるとは。」
僕は最後にもう一度海の写真を撮り、海を後にした。
坂道を上っている間も時折後ろを振り返って海を見る。海が見えなくなっても景色が、音が、香りが頭から離れることはなかった──

そしてすぐに次の日がやってきた。
初めての気持ちで興奮してあまり眠れなかった。起きてすぐに昨日撮った写真を眺め、思い出す。
そして僕はまだ気づいてない。今日は月曜日。そして時刻は七時半を過ぎていることに。
家を出る時間はとっくに過ぎているというのに着替えすら終わっていない。
「真〜!学校遅刻するわよー!!」
母親の大きな声で我に帰った。時計を見て慌てて制服に着替えた。
朝食は取らず、急いで家を出た。このペースだと確実に遅刻。先生になんて言い訳をすればいいか必死に考えながら学校へ急いで向かった。
  ***
「加川。珍しいなお前が遅刻なんて。夜更かしでもしたか?」
僕は「はい・・・」と答え、すみませんと謝った。
「まぁ今回が初犯だしなぁ。今回は見逃してやるが、次は無いと思えよ。わかったな」
「はい」
僕は急いで自分の教室に向かい、席に着いた。
僕の通う学校は結構山の近くにあって海とは無縁の地だ。だからこそ、家にいる時よりもっと海が恋しくなる。
休憩時間も授業中も意識が上の空で、何にも集中できなかった。そんな時後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。
「だ〜れだ?」
小さな手のひらで僕の目元を覆い、その人は問いかけてきた。
「毎日それでよく飽きないね。」
「ふふっ!まぁね」
小さく笑う彼女は、後ろの席の女子──朝倉華海。彼女はいつも下校時間になるとこうしてちょっかいをかけてくるのである。
「真〜今日はなんか意識が上の空だったねぇ」
ウッと心臓を掴まれたかのような感覚に陥った。こいつは毎日ふざけてるように見えるが結構人のことを見ている。それに勘が鋭い。
そうだ僕の知らないことを知っているこいつなら僕の昨日の『気持ち』の正体がわかるかもしれない。
「そうだ──」
「ねぇねぇ!」
僕の声は華海の声でかき消されてしまった。まぁこいつの話の後でも聞ける話だ。
そう思い、話のバトンを渡すことにした。
「あの・・さぁ。なんか今日一日なんか悩んでたのかわかんないけど、もうちょっと脳に負荷かけてもいい?」
「ん?いいけど」
華海の顔がみるみる紅くなっていくのがわかった。
「こ、これ。受け取ってほしいの!」
そういって彼女が僕に渡してきたのは一通の手紙。正面には『真へ』と書いてあった。
「じゃ、じゃあまた明日!」
そう言って彼女は足速に教室を出ていった。
「僕の話は聞かずに帰りやがった。明日覚えてろよ」
手紙を鞄に押し込み、僕も教室を出た。帰り道でも綺麗な海が鮮明に頭の中に残っていた。
  ***
家に帰り、ベットに横たわって華海に渡された手紙を開けてみた。
『真へ。
出会ってから二年経ちました!そこで、私から真に私の気持ちを伝えようと思います!
ほんとは直接言いたいんだけど恥ずかし過ぎるから手紙でごめんね。
私は真のことが好きです。出会った時からずっと。
あの時も私は真の後ろの席で、プリントを回してくれる時とか、一緒に話したり帰った
りしてくれたり。いつも真のこと考えてる。全部大好きです。
真がよければ、私と付き合ってほしいです!長くなってもいいから返事待ってるね。
                          華海』

「あいつ。僕のこと好きだったんだな」
今までのちょっかいの理由がやっとわかったのと、もう一つ気付いたものがあった。
「いつも考えるほど・・・か。僕のこの気持ちも『恋』なのかな」
僕の中で説明のつかなかった海へ対するこの想い。これは『恋』なのかもしれない。
家族や友人たちに抱く『好き』とは全く違う。想いの強さというか、重みが。
「そうか。僕は海を『愛している』のか」
ようやく腑に落ちた。最後のピースがカチッとはまった感覚。
──その日僕は『恋』を知った。だれにもいえない『恋』。
  ***
次の日。
まだ空がうっすらと夜を残している。そんな早朝に、あの堤防から海を眺めていた。
今日は学校に行く気がしなくて、ここへきた。
今日も今日とて海に人はいなくて、すごく得をした気分だ。
でも、気持ちは複雑だった。クラスの女子が話す『恋』とはこの感情なんだろうか。
しかし、誰かに相談しようにも「本気で海を愛してるんだよね」なんて言ったら『へ、へぇ。変わってるね。』と言われるに違いない。
「あれ?真じゃん。どしたのこんなところで?」
今日もまた真後ろから聞き慣れた声が聞こえた。振り返るとそこには華海が立っていた。
「いや、サボり。」
昨日あんなことがあったからきちんと目を見て話せず、淡白な返答になってしまった。
「そっか。てかなんでここ?あんたん家坂の上よね」
「海。見にきた」
華海は「そっか」と隣に座った。
「で?その、返事聞いても?」
「え?あぁ」
覇気のこもっていない返事をしたが、内心はとても焦っている。正直に話すか、理由を話さず振るか。
「えっと・・・」
こいつは一年の時からずっと一緒だった。クラス内の誰よりもこいつのことを知っている自信がある。それくらいには仲がいい。
だから、理由も話さずに突っぱねるのは、酷すぎるか。
僕は正直に話すことにした。
「正直言って、好きって気持ちがよくわからないんだ。たしかに華海のことは好きだ。でも『愛している』かどうかと言われればわからない。手紙に書いてあった、『いつも考えている』ってもの。その対象が『愛している』ものだとするなら、僕はこの海を愛していることになる」
そう言い、華海の顔を見ると『ポカン』としている。
「そう。なら真は海のことを知りたい?私とどっちが知りたい?」
華海にそう言われてわからなくなった。僕は海のことをもっと知りたいのだろうか。実は外から見るだけで満足なのでは無いだろうか。
それに対して華海はどうだろう?
「私とずっと一緒に居たいとは思わないの?この気持ちは私だけなの?」
そう言われて初めて気がついた。僕は華海とずっと一緒に居たかった。だからたくさん話したし、一緒に下校もした。
そうかこの気持ちが『好き』か。
──この日、僕は初めて『恋』を知った。人に伝えられる『愛』を。

「ちがう。それなら華海のほうがもっともっと大好きだ!」
僕は今日一の声を出した。
華海は「ふふっ」と笑い、僕の手を取った。
「ねぇ。実は私も海は大好きなの一緒にちょっとだけ浸かってみない?」
僕たちは靴を脱いでパシャパシャと海を歩いていく。
二人分の足跡は互いに干渉しあって遠くまでは届かなかったが、一人の時とはまた違う。不思議な感じだった。
「ねぇ。前から思ってたけどこの水面の波動って私たちが歩いた跡みたいよね。」
「確かに。」
僕らは堤防に戻って華海の持っていたタオルで足を拭いた。
「よくこんな大きなタオル持ってきてたな。」
「あぁそれはね。私毎朝この海に足つけてから学校に行くのが日課なのよ。大好きなものに元気もらってから通えるのっていいでしょ!」
僕は「確かに」って笑って、二人で学校に向かった──


あとがき

──よし。
僕は大きく伸びをして、パソコンの隣にあるコーヒーを一気に飲み干した。
記した物語から実際には五年経っている。僕も華海も社会人になって、バリバリ働いている。
高校を卒業後、海の見える一軒家を借りて暮らしている。
今物語を書いたのはまさに海を独り占めできてしまうこの家で僕の一番好きな場所。
目の前に視界を遮るものはないし、潮の香りだってこれでもかというほど香ってくる。
「懐かしいわね。」
後ろからあれからも毎日聞いている声が聞こえた。
「海にガチ恋してるじゃない。ちょっと妬いちゃうわ」
後ろにはほっぺたを膨らませた華海が腕を組んで立っていた。
「ほら、行くわよ」
今日は僕たち二人の結婚式である。
式は海の水を引いているという教会に。
二人で足跡と婚約指輪に誓うため。

 

***

 

どうでしたか?

僕の書いた作品の中で一二を争う文章量です。

そして、初めての人以外の恋愛にフォーカスを当てた作品です。

実はこの物語は本当に海で書いていたんです。

主人公のように堤防に腰掛けて設定を練ったり執筆したり。

南西から吹く潮風がとても気持ちよかったのを覚えています。

よし、文月の個人的な話の時間です。

 

今回なんですが、僕の作品にこめている想いについて書こうと思います。

僕は一つ一つ作品を作る時に毎回魂と並々ならない気持ちを込めています。

僕の中でこの創作活動が最後という気持ちなんですね。

これを失えば僕は本当に希望を失うでしょう。

勉強も苦手で、人と面と向かって会話をするのも苦手な僕に光を与えてくれたゲームのキャラクター。

僕もそんな誰かの心に寄り添える人を主人公にできるように心がけています。

まだ手探りな状態ですが、もっと誰かの気持ちを考え、寄り添える作品を作っていきたいですね。

 

ということで今回はおしまいです。

次回予告です。

次回は未来に迷う後輩に向けた作品です。

投稿日は未定ですが、なる早で投稿しますね!

では失礼します。

 

次回──考動と未来