記号操作可能性は想像可能性に基づく | 東京大学村上文緒愛好会

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一つ一つの言葉にこめられた作者の思いがわかったとき、古典は本当に面白いと思った。古典を楽しみたい。その思いが古い言葉の意味を求めるきっかけにもなった。

ささ想像可能性という「理解」と記号操作可能性という「理解」
何かを理解したときには、何らかのイメージが頭の中で作ることができる、と言えるだろう。イメージが作れないときは理解できていないということになる。たとえば、「黄金の山」は現実には存在しないが想像できる。黄金の山は、日銀の地下の金庫にあるかもしれないが。しかし「丸い四角」は想像できない。「黄金の山」は想像できるけれど「丸い四角」は想像できない。
想像はこのような視覚的なものばかりでない。聴覚的、触覚的なものもあるし、さらには、抽象的な文を理解するときでも、われわれはなんらかのイメージを頭の中で描いているのである。
「理解」できたと思うときのイメージであるが、これは、具体的なイメージの時もあれば、あいまいなイメージの時もある。抽象的な文を理解したいときは、漠然としたイメージである。このように、われわれは、その言葉を聞いてイメージを作れば、理解できるという。これが理解ということの一つの側面-想像可能性である。
もう一つの理解は記号操作可能性である。記号操作可能性とは、記号を形式的に処理できることである。たとえば、算数の試験のときに、足し算の問題で、1+1=2とか8+9=17と答えれば、足し算を理解していると判断するし、1+1=3とか8+9=15と答えれば、足し算を理解していないと判断する。別に、その人間の頭の中でどういうイメージができているかは調べない。
「黄金の山は、あなたの家にありますか」という質問をある生徒にした時に、「私の家には、黄金の山がありません」と答えれば、その生徒は「黄金の山」を (それなりに) 理解しているとみなされる。
異なる二つの「理解」
われわれの「理解」には、想像可能性と記号操作可能性の二つがある。これは理解の二重性という。理解の二重性を踏まえれば、「坊主が屏風に描いた坊主が屏風に描いた坊主が屏風に描いた坊主が屏風に坊主の絵を描いた」の文の「理解」をめぐる議論は、「この文は、想像不可能であるが記号操作可能である」というように整理できる。「黄金の山」は想像可能で記号操作可能である。これに対して、「丸い四角」は想像不可能で記号操作可能である。ところで九九九九角形の理解はどうであろうか。私の場合は、すぐにイメージを作れるのは、三角形、四角形、五角形、六角形ぐらいまでである。七角形となると、少し時間がかかる。訓練をすればもう少し増やすことができるかもしれないが、それにしても十角形くらいまでではなかろうか。したがって九九九八角形は想像不可能である。九九九九角形も想像不可能である。だから、九九九九角形と九九九八角形は、どちらも想像不可能なので、想像可能性では差がないことになる。しかし、九九九九角形と九九九八角形は記号操作可能性では差がある。なぜなら、角の数が九九九九個と九九九八個とでは明らかに違うことがわかるからである。
このように同じ理解という言葉で呼ばれていても、想像可能性と記号可能性は大きく異なる。この二つの大きく異なるものを同じ「理解」という表現で同一に扱うことは議論を混乱させるだけであろう。この二つはそれぞれ別のものとして扱わねばならない。
丸暗記はなぜ身につかないか
記号操作可能性と想像可能性にの二つの理解は、どのような関係になっているのであろあろうか。
イメージ抜きで記号操作を理解するのは、丸暗記をすることであるが、通常、丸暗記は困難であり、また応用がきかない。読者の多くも、試験の前に数学の公式を丸暗記したことがあると思うが、それでは試験はできたとしても、その公式は試験が終わるとともに忘れてしまったであろう。このように、丸暗記に代表されるイメージ抜きの理解は身につかないのである。
その一方で、数学の授業で、習ったことがよくわからないけれども、教師に言われたとおりに数式の処理 (記号操作)をしているうちに、ある瞬間、「ああそういうことか」と納得したような経験もお持ちではなかろうか。これは、その瞬間にそれなりに適切なイメージが作られたということであり、理解が深まって、記号操作可能性に想像可能性が伴ったということである。本当にわかるには、イメージを伴った理解をする必要がある。イメージが伴った理解ができれば、少しくらい問題が変わっても解けるようになる。すなわち、応用がきくようになる。

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