昔々あるところに、
赤いスポーツカーを乗り回している男がいました。
その車はたいそう古く、
まるでミニチュアのようでした。
その男には彼女がいました。
まるで、バブル期からタイムスリップしてきたような女でした。
あるとき、その二人はドライブに出かけました。
天気の大変良い日でした。
「前やつ、オヤジのくせにMarchかよ。奥さんの車を借りてお買い物ですか~。なんつって。」
「ホントにねー。それに比べてこの車は素敵よね。カッコよくて、スポーティーで、おまけに可愛い彼女まで乗せてるんだもの。ぐふふ。」
「お前、自分のこと可愛いって言ったな~。まぁ、本当のことだけどね。」
「んもー!あなたって正直者ね。」
「あはは、俺は幸せだなあ。」
「ねぇねぇ、キチ男、私のこと愛してる?」
男は少し嬉しそうにこう言いました。
「もちろんだよ、キチ美。君のためなら何だってやってみせるさ。」
調子に乗った女は男にあるお願いをしました。
「だったら…」
「なんだい、キチ美。」
「前の車のオヤジをビビらせてやってよ。」
「なんだ、そんなことなら朝飯前だよ。」
「やだぁー、もうお昼ご飯も食べちゃったべさ。きゃははー。」
「んだった、んだった。俺ってばおっちょこちょいだなぁ。」
「そんなことはどうでもいいとして…marchのオヤジ、なんなのよ~」
「チンタラ走りやがって、こっちは急いでるってのによ。」
男は、自分の車とMarchの距離を縮めはじめました。
「これで、どうだ!ええ?オジサンよぉ。ビビッて警察呼んじゃうんでない?」
「えー、どんだけチキンなのよ~。」
「まぁ、警察呼ばれたところで、俺は逃げも隠れもしないけどね。ははは。俺って強いじゃん?俺の周りにいるやつは悪いやつばっかだしさ。相手が警察だって手加減はしねぇぜ。」
「…ねぇ、全然ビビッてなくない?もっとつめちゃってよ。」
「そうだな、こんな程度じゃさすがにビビらないかもな。おっと、オジサン、左折しちゃうの?もうちょっと可愛がってあげるよ。ふふふ。」
「そうだそうだ、やっちゃえー」
「ほらよ、これでどうだ。ん?後ろからバイクが来たようだな。まぁ、俺のエリザベス(愛車)には天と地ぐらい、いや北海道と沖縄ぐらい遠いぜ。」
「……ねぇ、後ろのバイクなんか近くない?ちょっと怖いんだけど。しかも、女みたいよ。女のくせにバイクって…ちっとも可愛くないわね。ヘルメットなんて私、小学校の登下校の時にかぶって以来よ。」
「俺は、お母さんに髪を切ってもらったときヘルメットみたいになっちゃったときがあったっけなぁ~。そろそろ髪伸びてきたし、またお母さんに切ってもらわないとな。俺のお母さんなんだけどね、絵里子っていうんだ。いい名前だろう?それで、この車の名前も…」
「…やっぱり近いわよ。なにあの女…生意気ね。」
「も、もしかして、私服警官?あのオヤジ本当に電話しやがったのか!運転中は携帯電話使用禁止だってことしらねぇのかよ!」
「えっ、ヤバいって!私今朝、ゴミの日じゃないのにゴミ出してきちゃったのよ。今警察に捕まったらそれも全部調べられて…あっ、部屋に昨日の夜吸ったシャブが…」
「お前、ゴミは月曜日と木曜日の2回だろ。今日は日曜日だぜ。あと一日待てないのかよ。」
「ねぇ、これが最後のお願いになるかもしれない。早く逃げてキチ男!!!」
「うん、分かったよ。一緒に逃げよう。っていうか、シャブって何?」
「そんなことはどうでもいいから!早く逃げましょう!」
こうしてキチガイなFutariは岩見沢方面へ消えていったのでありました。
チャンチャン。