映画「フラッグ・デイ 父を想う日」は、父ジョン・ヴォーゲルを好きだと言い続ける娘ジェニファー・ヴォーゲルの物語です。贋札事件という派手な題材なのに、画面に残るのは「家の空気」と「親子の距離」でした。ここから先は結末まで触れるネタバレ記事です。
映画概要
1992年、アメリカ史上最高額級と言われた贋札事件で、犯人ジョン・ヴォーゲルが裁判を前に逃亡します。ニュースで父の罪を知った娘ジェニファー・ヴォーゲルは、静かに「父が好き」と言います。過去の記憶がほどけていき、父が現れては消える幼少期、母パティの崩れ、やり直したい父の言葉、そのたびに揺れる娘の時間が積み重なっていきます。
キャスト
ジョン・ヴォーゲル:ショーン・ペン
ジェニファー・ヴォーゲル:ディラン・ペン
ベック:ジョシュ・ブローリン
パティ・ヴォーゲル:キャサリン・ウィニック
ニック・ヴォーゲル:ホッパー・ジャック・ペン
詳しいあらすじ ネタバレ
1992年6月、贋札事件の犯人ジョン・ヴォーゲルが逃亡します。娘ジェニファー・ヴォーゲルは、父のニュースを見て「父が好き」と口にします。ここがもう苦しいです。好きと言った瞬間に、人生の説明が終わらなくなるからです。
時間はさかのぼり、幼いジェニファー・ヴォーゲルの前に、父ジョン・ヴォーゲルは突然現れます。優しくて、面白くて、家の空気が一気に明るくなるタイプです。1975年の夏、ジョン・ヴォーゲルは農場を買い、荒れた家を直し、母パティに笑顔が戻ります。ジェニファー・ヴォーゲルは、やっと普通の家になった気がして胸がふくらみます。
でも、その幸せは長く続きません。借金の請求や資材が次々に届き、ジョン・ヴォーゲルは苛立ち、また消える日々に戻ります。残されたパティは酒に寄っていき、家は荒れていきます。伯父ベックは、ジェニファー・ヴォーゲルと弟ニックを引き取るように動き、子どもたちは父のもとへ連れていかれます。
ジョン・ヴォーゲルの暮らしは、一見すると自由で、楽しくて、祭りみたいです。新しい恋人もいて、笑い声が絶えない時間もあります。ジェニファー・ヴォーゲルは「今回は違うかもしれない」と期待します。でもまた同じところに戻ります。仕事が続かない。金がない。借金が増える。結局、子どもたちは母のところへ戻されます。
高校生になったジェニファー・ヴォーゲルは、家を出ます。行き先は父しかない。ここがもう、現実っぽくて痛いです。頼れる大人がいないと、選択肢が狭くなる。ジョン・ヴォーゲルは「今回はちゃんと働く」と言い、真面目に見える生活を始めます。国旗制定日に生まれた男、という言葉が何度も刺さるように出てきて、家族の中で呪いみたいに残ります。
フラッグ・デイの贈り物の場面は、甘いのに怖いです。ペンダントを渡すジェニファー・ヴォーゲルの顔が、信じたいのか、もう分かっているのか、揺れて見えます。ジョン・ヴォーゲルは泣き、抱きしめ、約束を言います。言葉が優しすぎるぶん、次の裏切りが深く刺さると分かってしまうのに、心が動いてしまう感じがあります。
そして予感は当たります。ジェニファー・ヴォーゲルがアタッシュケースを開けると、空っぽです。仕事をしているという話は嘘だった。さらにジョン・ヴォーゲルは強盗で逮捕されます。面会に行っても、ジョン・ヴォーゲルははっきり言いません。「信じてほしい」と繰り返すだけです。ジェニファー・ヴォーゲルは旅に出て、父から距離を取ろうとします。
ジョン・ヴォーゲルは刑務所から手紙を書き続けます。ジェニファー・ヴォーゲルは居場所を知らせず、手紙は届きません。時間が流れて、ジェニファー・ヴォーゲルはジャーナリストになり、生活を自分で立て直します。そこへ出所したジョン・ヴォーゲルが現れ、「週末を一緒に過ごそう」と誘います。
ジェニファー・ヴォーゲルは断ります。もう無理だと分かっている。でも電話が何度も来て、無視しきれなくなり、結局会ってしまう。ジョン・ヴォーゲルは「仕事が見つかった」と言い、謝り、そして高級車を買ったと言い出します。ジェニファー・ヴォーゲルには、また嘘だと分かります。分かるのに、心のどこかが反応してしまうのがしんどいです。
最後、ニュース速報でジョン・ヴォーゲルが追い詰められていく映像が流れます。警察に囲まれたジョン・ヴォーゲルは、自分のこめかみに銃を当て、引き金を引きます。ジェニファー・ヴォーゲルは、画面の前から立ち上がり、歩き出します。スッキリはしません。終わっても終わらない感じだけが残ります。
感想
自分は「父が好き」という言葉が、一番怖かったです。嫌いと言えたら楽なのに、好きと言ってしまうから人生がほどけない。ジョン・ヴォーゲルが悪いのは分かる。でもジョン・ヴォーゲルが優しい瞬間も確かにあって、ジェニファー・ヴォーゲルはその一瞬に何度も救われてしまう。その代わりに、何度も壊される。ここがきれいに片づかないから、見終わったあとも胸の奥がざらつきました。
まとめ
映画「フラッグ・デイ 父を想う日」は、贋札事件の話というより、父ジョン・ヴォーゲルに振り回され続けた娘ジェニファー・ヴォーゲルの記憶の映画でした。父を憎み切れない気持ちと、もう信じたくない気持ちが同じ場面に並びます。終わっても気持ちよく閉じない作品が好きなら刺さります。気持ちよく泣いて終わりたい日は避けたほうがいいです。

