「...あ、雨...。
アクアちゃん、走ろう?」

「うん、わかった!」

ぽつり、ぽつりと小さかった雨足がだんだんと激しくなってくるころ、2つの影が走り出した。
どうやら通り雨のようで。

今いるところはヤーノ市場。
エルネア城にある居住区に帰るにはまあまあの距離があるため、帰るにはずぶ濡れになってしまうであろうと近くの船小屋へと駆け込んだ。

娘であるアクアと買い物に出掛けていた矢先の出来事だった。

「だいぶ、濡れちゃったな...。
アクアちゃん、大丈夫?寒くない?」

先日、4年に1度の白夜の日を迎え、だんだんと冬が近づいて来ているようで、濡れた所から体温が奪われていくような肌寒さを感じる。

「...ん、平気だ..っくちっ!」

大きな瞳をこちらへと向け、小さく笑いながら平気だよと告げようとするアクアだが、やはり肌寒いのか小さくくしゃみをすると、ぶるっと肩を震わせていて。

「ちょっと何か羽織れるものが無いか探してみるから、アクアちゃんはここにいてね。」

「ん」

小さくうなずくアクアに安心させるように笑いかけ、広さ十畳くらいの小屋の中を見回してみる。

どうやら漁師が仮眠をとれるような簡易的な設備のある小屋なのか、片隅に毛布が畳まれているのを見つけ、ホッと安堵の笑みを浮かべた。

毛布を手に取ると、その毛布をふわりと背中からかけてそのままぎゅっと抱き締め。

「あったかいねー...」

背中に感じる母の温もりと、毛布の暖かさで安心したようにアクアはほうっと息をつく。

言葉の代わりに安心させるような笑顔を見せ
れば、ふわりと頭を撫でて。

くすぐったそうに眉をしかめながらも嬉しいのか、ふふっと可愛らしい笑顔を浮かべると、ふと思い付いたように嬉しそうな笑顔になり。

「ねぇ、母ちゃん。
こないだの父ちゃん、カッコよかったねぇ!
あんな大きなりゅうに勝っちゃったよ!」

「そうだね、父ちゃん、すごかったねぇ。」

この国には4年に1度の白夜の日に、眠りから覚めたこの国の守り龍であるバグウェルと、その年に行われる全武力組織の中で優秀な成績を修めた者たちのトーナメントで勝ち残った者が対戦をするという古くからの習わしがある。

今年、そのトーナメントを勝ち残り、頂点に立ったのが夫であり、アクアの父親であるアンガスだったのだ。

「ね!
母ちゃんは、父ちゃんが強いから好きになって、けっこんしたの?」

子供心ながらも、それがどれだけ凄いのか理解しているのか、まるで自分のことのように嬉しそうな様子で尋ねる。

不意を突かれた突然の質問に目をぱちくりさせながら、そうだなぁと呟き。

「..母ちゃんが父ちゃんを好きになったのは、父ちゃんが強く無かったから、かな?」