昨年、村田沙耶香さんの小説「コンビニ人間」の英語版が出版されて以来、65万冊の売り上げを記録した上、芥川龍之介賞を受賞しました。英国では村上春樹や日系英国人の石黒一雄などの小説家達が有名になりましたが、英語圏では人気のある日本現代文学はまだまだ少ないです。

 

その理由について、言葉の壁を除くと、文化の違いが一番大きいです。だからこそ、日本語から翻訳された小説は我々外国人にとって、欧米と異なる日本文化に対して理解を深める機会です。「コンビニ人間」の主人公はコンビニエンスストア店員8年目の古倉恵子(36)。独身者の恵子は自身を社会の負け組と感じています。私は竹森ジニー氏が翻訳した英語版で小説について知りましたが、日本語版を読む際に一番驚いたのは題名の違いでした。英語版では「コンビニ女性」と翻訳され、欧米の読者が主人公の性を気にする理由について考えました。

 

コンビニエンスストア

 

社会に合わせるプレシャー、労働者不足、結婚率の減少や急増する独身者など。主人公を通して村田さんは日本社会の問題点を描きます。しかし、個人的に気になったのは主人公の珍しい性格ではなく、コンビニエンスストアのカウンターにいる店員から見た視点でした。

 

日本に来られた全ての方はご存知でしょうが、コンビニエンスストア「コンビニ」は日本で非常によく見かけるもので、全国に5万店以上あります。印刷サービスや日常商品の販売を行う現代のコンビニは「なんでも店」のよろず屋に通ずるところがあります。コンビニをよく使う人は多いと思いますが、コンビニで働こうと考えたことはあるでしょうか。村田さんはこの疑問について作品の中で述べています。

 

「コンビニ人間」の1ページ目では普段見慣れていコンビニのロゴ、店内で流れる音楽、匂いなどについて言及し物語の世界に入ります。コンビニのお客様がよく知っている店内の照明、ビニールのパッケージ、ドアのチャイム、店員の明るい挨拶「いらっしゃいませ!」などに言及しており、日本でどれぐらいコンビニは重要なのか感じました。よくコンビニを使う私たちはあまり考えませんが、コンビニはお客様に魅力的な温かさを伝えます。当たり前のように思っているからこそ、なくしては日常的にいられない人は少なくないと思います。

 

日本社会を内部から察する村田さん

 

「コンビニ人間」は小説ですが、村田さんは現実の世界や社会問題などをきちんと指摘しています。現在の日本において人手不足は避けられない事実ですが、様々な企業が適切な対策に取り組んでいます。コンビニ大手4社の中、ファミリーマートが最初に24時間営業を止めることを発表しました。

小説の中でも人手不足で恵子や店長などが追加のシフトをしなければなりません。村田さん自身も主人公と同じく実際にコンビニで働いているようで、本人もこの現状をよく理解されているそうです。小説の中でも外国人の店員も働いていることで、現実的に描写されています。

 

「コンビニ人間」で描いている社会は結婚と婚活に注目する世界で、村田さんは日本における社会問題に言及しています。日本の少子化問題の原因は減少している結婚率と見られています。NHKが昭和43年(1973)から5年ごとに行っている「日本人の意識」調査によりますと、結婚することを「必ずしも必要はない」と考える人は平成の時代に増え続けて、70%近くに上回っているそうです。しかしながら、特に女性に対しては結婚と子育ての社会的プレシャーはまだまだ強いようです。小説の中でもこのプレッシャーは存在しています。アルバイトではなく、ちゃんとした会社に勤めて、結婚と子育てをする。これらが人生における成功の証だと登場人物の全員が表現します。「コンビニ人間」の主人公はこのプレッシャーを強く感じ、ようやく相手を見つけて付き合い始めると、今までずっと務めていたコンビニの仕事を辞めても、店長も含めた周りの人達など、誰も反対しないのはなぜでしょうか。

 

実際に、村田さんの作品内における社会意識は単一で、独身者の恵子だけではなく、社会にうまく適応できない人にとっての「普通」と「変」の違いは何なんでしょうか。「みんなが思いうから正しい」という考え方は本当に正しいでしょうか。村田さんが描く世界では周囲と異なる人は問題視され、恵子も子供の頃からの暴力的な性格のせいで両親を心配させ、本人も社会の本流から距離を置いていました。恵子にとって不つり合いな恋人「白羽」は、人間ではなく、動物のように描かれ、彼は「餌の時間」に恵子から「餌」をもらい食べていると描写されています。こうしたシーンを読むと、「コンビニ人間」の読者は社会の「普通」と「変」の判断について深く考え、疑問を抱くことができます。

 

欧米では、このような問題について「日本の変わった文化」などと簡単に解釈されそうですが、村田さんの小説のおかげで恵子みたいな人の状況を理解得ることができると思いました。

 

欧米の判断:「コンビニ人間」はフェミニズムの反抗

 

日本では100万冊の売り上げに至った「コンビニ人間」。私の日本人の友達で読んだ人は少なかったですが、英語版の「Convenience Store Woman」を知っていた外国人の友達は比較的多かったです。欧米では英語版の性的な題名から多くの欧米批評家がフェミニズム的に小説を批評しました。恵子は女性の理想的なイメージからずれているため、社会に対抗しているフェミニストという意見が多いです。マリーフランスの批評は皮肉的でした:「結婚や就職などする意欲がない若い女性は無駄なんでしょうか」(“For what is a young woman worth if she has neither professional ambition nor a desire to get married?”)。こうした理想的な女性のイメージに反対するのはアジアよりも欧米の方が多いのではないでしょうか。しかしながら、小説家はわざとこの意見に応じず、小説のフェミニズムを修辞的疑問にします。恵子の友達と家族は結婚を進める一方、無意欲なバイトをしている大人は社会の役には立たないだろうと考え、子供を産まない方がいいと主張しました。このように小説の中で描かれている「物足りない女性」は日本社会における問題を示し、村田さんは2016年にヴォーグジャパンの「今年の女性」「Vogue Japan Women of the Year 2016」に選ばれました。

 

現代の潮流

 

ニューヨーク・タイムズのある批評によりますと、「コンビニ人間」は「社会的にうまく適応できない女性とコンビニとのラブストーリー」と批評されましたが、一部だけその通りです。恵子と白羽の愛のない関係と比べたら、恵子はバイト先のコンビニエンスストアに真面目な愛と忠誠心があります。コンビニでは一日中一生懸命働いて、仕事が終わってもコンビニのチャイムが耳の中で聞こえます。恵子はコンビニのために食事をして、睡眠をとって、生きています。仕事への熱心さを強く感じ、コンビニの仕事以外ではモチベーションが無くなり、生きる意味を失ってしまいます。

 

コンビニエンスストアでは、毎日、朝礼を行い、「いらっしゃいませ!」や「ありがとうございます!」などの発生練習が行われています。ある日、新しく入った店員がこれについて非難しますが、恵子は全然驚かない様子でした。なぜなら、彼女はコンビニでの仕事に当たり前のように全精力をかけているからです。一人のアルバイトをこういう風に思うのは珍しいかもしれませんが、恵子の努力は残業、細かいところへの追求、完璧なチームワークなど日本の働き方の価値感に似ています。仕事を単に仕事と考えるのではなく、職員の人生そのものだ。恵子もそう思っています。欧米のワークライフバランスと同じく、小説の中でモダニズムと伝統的な価値感のバランスが良かったと思いました。

 

では、「コンビニ人間」は社会的にうまく適応できない女性についての変なラブストーリー?もしくは、コンビニ仕事の内部による説明?どちらにしても、小説は単なるラブストーリーだけではなく、社会と自身を様子を鏡のように映しながら葛藤する、とあるコンビニで働く女性店員の妄想(こだわり)を探ります。