― 勝利より価値あるものを掴んだ一年 ―
ファイナル3岩手戦の終盤。
ボックスのすぐ目の前で起こった、1on1のグラウンドボール。
相手は岩手大学のエースロング。
対するのは、4年間ずっと接触が苦手で、当たる場面になると逃げ続けてきた細身の4年生MF。
「ここは避けるだろう。スピード勝負だろう。」
そう予測していた私の想像を、彼は大きく裏切った。
真正面からクロスをボールに伸ばし、トップスピードの“激マン勝負”。
案の定、体は宙を舞い、鎖骨は粉砕。入院。
ファイナルへの出場も叶わなかった。
それでも試合前日に退院してきた彼は、清々しい顔でこう言った。
「散々逃げてきて怖かった。でも、あの瞬間、“今が戦う時だ”と感じて突っ込みました。後悔はありません。」
人は弱い。すぐ逃げる。
でもそれは、身体の小さい人間が生き残ってきた歴史そのものだ。
何でもない日に漢気を振りかざしてマンモスに挑んでいたら、我々は絶滅している。
だからこそ人生には、“逃げずに立ち向かってしまう瞬間”がある。
その一歩は、ただの自己満足ではなく、
大切な誰かのため、守りたいもののためにだけ踏み出せる一歩なのだ。
■ 福島が成し遂げたのは「快進撃」を超えた物語だった
東北リーグ史上初——
福島大学は岩手大学・新潟大学という二大強豪を撃破し、ファイナルで東北大学に挑んだ。
もちろんこの歴史的成果は誇るべきものだ。
だが私が学生たちに最も伝えたいのは、
“勝ったこと”ではなく、“どうやってその勝利を掴める人間になったか”である。
そこにこそ、福島の価値があった。
■ 福島が掴んだ“勝利を超えるもの”
福島の部員たちが、一年を通して胸の奥で問い続けていた疑問がある。
• 「自分は変われるのか?」
• 「こんな自分でも何かを掴めるのか?」
• 「環境に恵まれなくても、仲間と奇跡を起こせるのか?」
福島はこの問いに、
自分たちの人生そのもので答えを出した。
そしてその物語は、部員だけに留まらず、静かに、しかし確かに外へ広がっていった。
初めてラクロスを観戦したプロカメラマンは、試合後に顔を真っ赤にして走ってきて、
「ラクロスってこんな面白いの?!もっと早く出会えていたら人生変わっていた!」
と言い、それから毎試合撮りに来てくれるようになった。
さらに動画クリエイターの友人まで連れてきてくれ、最終戦後には
「福島ラクロスロスです。来年までどうすればいいんですか」
と言ってくれた。
また、介護や子育てに疲れた一人の女性は、偶然福島の物語を知り、全国放送されたファイナルでは、1対10の状況の中、福島の1点を10点以上の価値として待ち侘び、それが“明日を生きる希望”になったとメッセージをくれた。
福島の物語は、今も静かに、そして確かに広がり続けている。
監督の仕事とは、学生たちと共に物語を紡ぐこと。
一人一人の物語が重なり、掛け合わされ、無限に広がっていく物語を見守り、全体を掴み、読み聞かせるようなもの。
最近、そう感じることが増えた。
そして今年、福島が越えた大きな壁——
それが 「強者の理論」からの目覚め だった。
これは、これから先、世界やラクロス界が(例えばメジャースポーツ界のように)変わって行こうとも
福島ラクロスのアイデンティティとして大切に継承していって欲しいもの。
■ 強者の理論とは何か?
“勝つ人は努力している。
負ける人は努力が足りない。”
そんな単純な理屈。
だが本当は、結果の大半は 環境の差 で決まる。
強豪校には、伝統があり、人数がいて、文化があり、競争が自然発生する構造がある。
一方、地方大学は初心者だけのゼロスタート。
負ける理由は“努力不足”ではない。
今年の福島は、この歪みから目を覚まし、
**「現実を受け入れ、そのうえで強くなる」**という成熟を遂げた。
■ 福島が掴んだ“本当の強さ”
技術でも、結果でもない。
もっと人間的で、本質的な強さだった。
① 「事情を抱えた仲間」を大切にした
研究、バイト、家庭、メンタル。
それぞれ違う背景を抱える仲間を否定せず、事情ごと受け入れてチームになった。
これは強豪校では学びにくい、“人としての成長”そのものだった。
② 「普通に努力するだけでは勝てない環境」で、情熱を途切れさせなかった
福島が強くなれた理由は、練習量ではない。
環境で勝てないと分かっていながら、前を向き続けたことだ。
その背景には、
• OBOG
• 遠くから支えてくれるコーチ
• 地域の応援
こうした存在への“感謝”があった。
環境の“無さ”ではなく、支えてくれる人の存在に心を向けられた。
連絡・共有・相談という当たり前の積み重ねが、関東にいる私との心理的距離を無くしてくれた。
仕組みではなく、想いでつながったチームの強さだった。
③ 強豪の真似ではなく、「福島に合う努力と戦い方」を作った
強豪校の練習量をそのまま真似すれば潰れる。
福島はその現実を直視し、
• 続けられる努力
• 勝つための現実的な戦術
を自分たちで構築した。
これは環境が整っていないからこそ辿り着ける、本質的なやり方だった。
④ 一人ひとりが、自分の殻を破った
化学部出身の副キャプテン。
運動経験ゼロ、人と話すことも苦手。
それでも「誇れるチームにしたい」と殻を破り、仲間の中心になった。
強者理論を信じていたキャプテンは、
“努力だけでは測れない仲間の事情”を理解するリーダーへと変わった。
この変化の積み重ねこそ、福島が“勝ったチーム”ではなく
“強くなったチーム”になった理由だった。
■ 福島の青春は、勝利を超えた価値を掴んだ
• 強者理論という歪みから目覚め、
• 仲間を大切にし、
• 支えてくれた人に感謝し、
• 自分たちの道で、人として強くなった。
これはどんな強豪校でも経験できない。
環境に恵まれないからこそ辿り着けた、“人生の宝物” だった。
■ 最後に
福島の一年は、“勝ち方の話”ではなく、**“生き方の話”**だった。
努力は環境に依存する。だからこそ、福島の挑戦は尊かった。
感謝し、仲間を敬い、与えられた条件の中で最善を尽くし、
そして歴史を変えた。
みんなの青春は、勝利より価値がある。
心から誇りに思っています。
カラダの底から熱く湧き上がるような泣ける時間をありがとう。
勝ちも負けも抱きしめたくなるほど愛おしい。
福島ラクロスに関わって下さった全ての皆様、ありがとうございました。
そして、これからも“福島物語”をよろしくお願いします。
2025/12
福島大学ラクロス部 監督
出澤 純
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未来の福島生へ付録を残しておきたい。
参考付録①:「強者の理論」が生まれる理由──
努力が報われる世界の影と、見えないスタートラインの話
スポーツでも、ビジネスでも、受験でもよく語られる
「勝つ人は努力している」「結果が出ない人は努力が足りない」
という“強者の理論”。
一見すると筋が通っているように見えるが、実はこれは
人間の心理と社会構造が生み出す“誤解” である。
本当は、結果を分ける最大の要因は
**「恵まれた環境にいたかどうか」**なのに、
なぜ私たちはこのシンプルな真実に気づけないのか。
■ 成功者は「努力」を過大評価しやすい
心理学には 自己奉仕バイアス がある。
• 成功 → 自分の努力のおかげ
• 失敗 → 外部要因のせい
これは自尊心を守るための自然な働きだ。
そのため成功者ほど、「自分の努力」を強調しやすい。
しかし実際には、
• 良い指導者との出会い
• 挑戦を応援してくれる家族
• 失敗しても立ち上がれる安全網
• 学習・トレーニング機会の豊富さ
こうした “目に見えない土台” が結果を大きく左右する。
だがその存在は、本人の中で“当たり前”に変換されてしまう。
■ 社会は「努力物語」を好む
社会は
「努力すれば報われる」
という物語を好む。
• 成功者の苦労話 → メディアが取り上げる
• 努力物語 → 書籍になる
• 環境格差や運の偏り → 語られない
物語は人の心を掴みやすく、競争を正当化しやすい。
その結果、成功の“複雑な要因”のうち、
語られやすい部分だけが誇張されてしまう。
■ 人は「努力=報われる」と信じていたい
これは不安から逃れたいという本能でもある。
もし「結果の大半が環境で決まる」という現実を直視すると、
• 自分の努力は無意味なのか
• どれだけ頑張っても勝てないのでは
• そもそもスタートラインが違うのでは
という不安が襲ってくる。
だからこそ、「努力がすべてを決める」という信仰が必要になる。
しかしこの信仰が強すぎると、努力しても報われなかった人を不必要に傷つける。
■ “恵まれた環境”ほど本人は気づけない
環境の恩恵は“空気”のようなもの。
生まれたときから吸っていれば、その存在に気づけない。
• モチベーションの高い仲間に囲まれている
• 尊敬できる指導者が近くにいる
• 何度失敗しても挑戦を許される文化がある
• 助けてくれる大人がいる
• 心が折れたとき寄りかかれる場所がある
こうした環境は、本人にとって“日常”に見える。
しかし多くの若者はそうではない。
結果の差は、努力以上に「置かれた場所の差」で広がる。
■ 努力は無力ではない。ただし“正しい環境”にだけ効く
誤解してはいけない。
これは「だから努力は無意味だ」という話ではない。
努力は、環境の扉をこじ開けるための唯一の手段であり、
チャンスと出会う確率を高める行為である。
ただしその努力が最大化されるかどうかは、
やはり環境によって左右される。
その当たり前の真実を、
正直に語れる大人がどれほどいるだろうか。
参考付録②:平等・公平・公正──
地方だからこそ育った“人を大切にする力”
地方には“平等では報われない仲間”が多い。
だから福島は自然と、**“公正な向き合い方”**を身につけた。
• 平等(Equality):全員に同じものを与える
• 公平(Equity):状況に合わせて支援を調整する
• 公正(Justice):そもそもの構造を修正する
福島が育んだのは、この“公正”の感性だった。
例えば、
• 苦手な子には何度も説明する
• 不器用な子には時間をかける
• 言葉が得意でない子に寄り添う
• 一歩踏み出す仲間の背中を押す
• 事情がある仲間を見捨てない
• OBOGや支えてくれる人へ感謝を忘れない
こうした行動は、人が欠けたら成立しない環境だからこそ育つ。
都会の強豪校では気づきにくい視点。
これこそが、勝利を超えて福島が手にした
“最大の宝物”であり福島の在り方=みんなで作り上げた
アイデンティティなのではないだろうか。





