生まれた日の夜空が教えてくれた | 言葉は言霊 ~話す言葉によって未来が変わる~

言葉は言霊 ~話す言葉によって未来が変わる~

人の身体は、食べたもので作られる
人の心は、 聞いた言葉で作られる
人の未来は、話した言葉で作られる

いい言葉を聞いて、心を豊かにし
いい言葉を話して、明るい未来を作りましょう

 

日本講演新聞、中部支局長・山本孝弘さんが

社説に掲載した記事をリライトし、

さらに未発表作品を含め全42編のエッセイを収録した新著。

 

早速、読んでみると

涙があふれ出てきて

電車の中で読むのは危険レベルです。

 

まだ途中ですが、一つ紹介します。

 


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タイトル:生まれた日の夜空が教えてくれた
 

~前略~

 

愛知県刈谷市立の小学校で

理科の教師をしている小田さんは

数年前の春まで教職を離れて

市が運営するプラネタリウムの解説員として

3年間派遣されていた。
 

その科学館は金曜日に限り 

18時半からの投影時間があった。
 

子供対象ではなく、少し天文知識を交えた

大人対象の放映内容だが
いつも客はまばらだ。


ある雨の日のことだった。
 

会社帰りと思われるサラリーマンが

1人でやってきた。


体は小田さんより一回り大きく 

身なりも整った紳士だった。
だが、小田さんの目には 

彼は少し疲れているように映った。

 

小田さんは男性のところに行き

そっとこう言った。


「生まれた日の夜空を眺めてみませんか?」


「そんなことできるんですか?」
 男性は少し驚いてそう言った。


生年月日を聞くと

少しだけ小田さんより年上だった。


その日付を機械に打ち込むと

男性の頭上に満天の星座が現れた。


星たちが作り出すその日だけの夜空である。

 


星座や天体の解説が

男性一人のために始まった。


そしてその年の出来事が 

織田さんの優しい声で語られた。


すると真っ暗な館内から

男性がすすり泣く声が聞こえてきた。


上映が終了し、館内が明るくなると

男性は映写室の小田さんのところにやってきた。

 


「ありがとうございました・・・」

 


 目を真っ赤にした男性は静かに話し始めた。


「施設にいる母の認知症が

 ひどくなってきました。
 最近は僕が誰だかもわからないようです。
 正直もう行くのも億劫に感じていました。
 

 でもさっき生まれた日の夜空を

 見上げていたら、

 この日に母が僕を産んでくれたんだな
 だから僕は今ここにいるんだな
 そんな感謝の思いが湧いてきました。」
 

小田さんはその時 

目の前の男性が少年のように見えたそうです。


「急に母に会いたくなりました。

 明日、母のところに行こうと思います」
 

そう言って帰っていく男性の後ろ姿は

元の紳士の姿に戻っていたという。


来た時に感じた疲れた様子はもう消えていた。

 

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心が優しくなれるエッセイ集です。