賞賛の拍手 | 言葉は言霊 ~話す言葉によって未来が変わる~

言葉は言霊 ~話す言葉によって未来が変わる~

人の身体は、食べたもので作られる
人の心は、 聞いた言葉で作られる
人の未来は、話した言葉で作られる

いい言葉を聞いて、心を豊かにし
いい言葉を話して、明るい未来を作りましょう

特急バスが発車して間もなく、
前方座席でなにやらトラブルが起こりました。
 
 
「なんとか峠の手前の
 ホロ町で降ろしてもらえんかのう」
 
とガイド嬢に声をかけているのは
一人のおじいちゃん。
 
ガイド嬢は困った表情で
こう話しています。
 
「お客様、
 特急バスは決められた所にしか、
 規則でお停めできないんです。
 申し訳ございません」
 
おじいちゃんは
座席につかまりながら立ち上がり、
さらに頼み込みました。
 
「このバスが特急バスと
 知らんで乗ってしもうたんじゃ。
 ホロ町にみんなが集まっとっての。
 時間までにワシが行かんと
 みんなが困るんじゃよ。
 なんとか停めてもらえませんかのう」
 
ガイド嬢はすまなそうに言いました。
 
「おじいちゃん、ごめんなさい。
 安全な場所にお停めして
 降りていただくことはできますが、
 そうするとほかのお客様から
 『じゃあ、あそこに停めて』とか、
 『私はここで降ろして』
 というご依頼があったときに
 お断りすることができなくなるんです。
 本当にすいません」
 
おじいちゃんは途方に暮れて、
独り言のようにつぶやきました。
 
「峠を越えた所で降りたんじゃ
 ワシのこの足では歩けんし、
 ホロ町の手前で降ろされたんじゃ
 時間に間に合わんし…
 困ったのう、困ったのう…」
 
車内の鉄棒につかまったまま、
おじいちゃんは少し震えているようでした。
 
周りを見渡すと、
ほかの乗客も心配そうにおじいちゃんを見つめています。
 
そのときでした、
それまで運転手さんと話し込んでいた
ガイドがひとつうなずいたかと思うと、
客席に向かって姿勢を正し、
こう話し始めたのです。
 
 
「お客様に申し上げます。
 当バスはこれより
 峠に差しかかりますので、
 念のためブレーキテストを行います。
 ブレーキテスト、スタート!」
 
特急バスは徐々に速度を落とし、
静かに停車しました。
 
ガイド嬢はさらに言葉を続けます。
 
「ドア開閉チェック!」
 
乗降ドアがスーッと手前に開きました。
 
するとガイド嬢は
おじいちゃんに向かって目で合図をし、
右手を小さく前に差し出したのでした。
 
おじいちゃんはハッと気がついて
急いで荷物を持ち、乗降口に進みました。
 
 
そして
ステップの前でクルリと振り向くと、
 
運転手さんとガイド嬢に手を合わせ
何度も何度も頭を下げました。
 
おじいちゃんが降りると、
ゆっくりとバスのドアは閉まり、
ガイド嬢の明るい声が社内に響きました。
 
「ドアの開閉チェック完了。
 ブレーキテスト完了。
 発車オーライ!」
 
エンジン音とともに
バスが再び走り始めました。
 
と、期せずして車内には
大きな拍手が沸き起こりました。
 
ホッとした表情で
うれしそうに拍手を送っている人、
なかには涙ぐんで
うなずいている人もいます。
 
走りだしたバスに向かって、
両手を合わせ
頭を下げているおじいちゃん。
 
その姿は次第に遠ざかり、
やがて視界から消えていきました。
 
 
~魂を揺さぶる言葉たち~
 
ガイドさんと運転手さんの優しい嘘を
乗客全員が受け入れてくれるなんて
素晴らしいと思います。
 
相手のことを思い
誰にも迷惑をかけない
 
こうした嘘は、許されると思います。