(はあ、いいお湯だった)




ウォーターサーバーから、冷たい水を汲み、一気にのどに流し込む。




身体がホカホカ熱い。




少し気分も晴れたし、本でも読もうか。




私はテーブルに置いてあった何冊かの本のうち、一冊を手に取って、パラパラとページをめくった。





私は本が大好きだ。物心ついたころから、本ばかり読んでた。うちの母に聞いた話だと、まだ小さな私が、よく絵本を持ってきては読んでとせがんでいたそうなので、もう、物心つく前から本が好きだったのだろう。





のんびり本を読む、この時間が最高に楽しいのだ。






ひとしきり読んでいたら、急に眠気がきた。





まぶたが重い。





ダメだ、ベッドで寝なきゃ風引いちゃう……





私は手にしていた本を、パタンと閉じて、布団に潜り込んだ。





その夜、夢を見た。





目の前に一冊の本がある。




キラキラとひかるその本を、私はめくってみた。




でも、中身は真っ白。何も書かれていない。





(? 本…じゃない? ノート? にしては分厚い…日記帳かな?)





ひかる日記帳を眺めていると、どこからともなく声がした。





「せっかく、せっかくこんなに智恵をさずけてるのに、全然活かせてないなんて!」






「え? 智恵?」




私は思わず声に反応した。





「そうよ! あなたにこんなに智恵を授けているのに、あなたはそれをただ読むだけ。なんて嘆かわしいの」






声はすれども姿は見えない。





「え…と、一体あなたは誰?」




私は見えない相手に向かって尋ねた。





「私はニコ。知識を司るもの。まあ、ざっくり分かりやすくいうと、本の妖精」








「はあ、妖精ですか」







「あなた、今日泣いてたでしょ。こんな生活、もうやめたいって」







「ああ、はい、まあ…」







「やめられるのよ、あなたがイヤだと言ってるこんな生活は。あなたが望む未来にたどりつくための智恵は、全部もう、授けてあるの。それなのに、あなたはいつまで経ってもそれを活用しない。なんてもったいない生活してんのよ」








「あの、それはどういう意味ですか?」





「あなたが読んでる本! 特に最近のお気に入りは、自己啓発や願望実現なんかの、自分を高める本、たくさん読んでるでしょ」






「あ、はい。なんか、面白いので…」





「それ、どう面白いの?」




「えっと、読むと気分が上がるっていうか、なんか、読んだ直後は、成功してキラキラした自分になれた気がするんですよね。まあ、その時だけなんですけど」






「だーかーらっ! それがもったいないって言ってんの! せっかくいい本読んで、智恵を授かったんだから、実践しなきゃ意味ないでしょ!」






「本…実践…」





「あのね、本は読むだけのものじゃないのよ。先人の智恵を詰め込んだ、いわば教科書や指南書なの。読んだら書いてある通りに動いてみる。動くことで、自分の人生を変化させていくことができるのよ!」






「え、、うーん。でも、それって、本を書いたその人だから出来たことであって。私とその人は違う人間なんだから、やったところで結果も違うというか、、、」





「ほらでた、言い訳。人間ってやらない理由はいくらでも思いつくのね。そんなこと言ってるから、いつまで経ってもこんな生活から這い出せないのよ!!!」






「………」




今日の夢はやけにリアルだな。ちゃんと眠れてないのかな。そういえば、夢を見るときは眠りが浅いって、何かの本で読んだ気がする。





「まあ、あなたが今のままの人生でいいですっていうなら、ずーっと娯楽として本を楽しめばいいんじゃない? そのかわり、あなたの生活一生変わんないけどね」





「え! やだ! そんなのイヤだ!!!」





「イヤだってあなた、、、だって変わる気ないんでしょ」





「そんなことないです。変わりたい。今の生活から抜け出したい。もう、がんばってもがんばっても報われない、仕事も全然楽しくない、欲しいものも買えないし、行きたいところにも行けない生活、終わりにしたいんです!」





私は夢の中で叫んだ。ニコが何か言ったような気がしたが聞き取れず、次の瞬間目に入ったのは、自分の部屋の照明だった。





辺りは少し明るくなっている。





(………もう朝か)





なんだか、不思議な夢を見た。あれは私の心の叫びなのか。




起き抜けで、まだ頭が働かない。




もう少し布団の中でゴロゴロしてようかと思ったが、のどが渇いていたので水を飲もうと、のそのそとベッドから這い出した。





ふらふらとリビングに行くと……





ソファーに子どもが一人、寝そべっていた。