広島では一家全滅の家もたくさんあったし、両親が死んで、赤ちゃんだけ残った家もある。
 「満田さんのお宅は、お一人で済んでよかったですね」と、お悔やみどころか喜びを言われたこともしばしばある。そんな時、「はあお蔭様で」と言ってしまう。皮肉ではなくて、時と場合や、相手次第で、自然にそう言うこともあった。人間の幸も不幸も、結局は比較の問題である。
 しかし一人で済んだから、幸せだとは、信仰心のない私はなかなか悟れない。

「山河慟哭」満田廣志書 より