生成AIルール追い付かず

人工知能(AI)を使って文章や

画像を自動作成する「生成AI」。

 

その革新的な技術を使ったサー

ビスが、成長産業として加速度

的に広がる中、社会のルールが

追いついていない現状が浮き彫り

になっている。

 

例えば、

「著作権は誰に帰属するのか?」

「資格を必要とする業務を委ねる

 場合、法に触れないのか?」

このように、従来の枠組みが翻弄

される状況に、有効活用に向けた

指針の再構築が課題となっている。

 

司法のデジタル化、指針策定

司法のデジタル化は、

法律相談など活用を期待する、

といったプラス面、

一方で、弁護士法抵触の恐れ、

といったマイナス面、

がある。

 

そんな中、現在も紙資料が主流

の司法業界に、デジタル化の波

が寄せ始めている。

 

民事裁判をIT化する

「改正民事訴訟法」

が1昨年成立したのを

機に、デジタル技術を

活用した司法関連サー

ビスを提供する

「リーガルテック」

企業が登場。

 

成長分野として注目され

ているが、既存の制度と

の衝突や混乱を招く恐れ

もあり、法務省は

「リーガルテック」

に関する指針の作成を

急いでいる。

 

生成AIを活用した法律

相談のイメージを以下に

示すと、

<日本の法律では、

 配偶者から受け

 た言葉の暴力に

 よる精神的苦痛

 が重大である場合、

 離婚の原因となる

「精神的不和」に

 該当することが

 あります。>

パソコンの画面に

<離婚を考えています>

<パートナーからの言葉

 の暴力がひどい>

と打つと、上記のように

法律の専門家のような

メッセージが返ってきた。

 

対話型AI「チャットGPT」

を法律相談用に調整した

サービスで、過去の100

万件以上の相談内容を読み

込み、新たな質問に対する

回答を編み出しているので

ある。

 

また、同時に弁護士業務を

手助けするサービスも拡大

している。

 

具体的には、契約書の

「AIレビュー(審査)」

支援サービスで作成中の

契約書をシステムに読み

こませると、

<損害賠償の上限額は

 定められていますか?>

など、注意するポイント

が表示される。

 

人間が見落としがちなミス

を見つけてくれることで、

業務を効率化できるので

ある。

 

先進的なビジネスを担当

する政府の規制改革推進

会議の部会が1昨年、

成長産業としてヒアリング

対象とするなど、国からも

注目される、

「リーガルテック」

このサービスは、将来的には

準備書面の下書きや判例など

の下調べを担い、弁護士業務

の効率化に貢献できるように

なるだろう。

 

一方で、課題もある。

 

弁護士法では、弁護士資格の

ない者が報酬を得て具体的な

法律相談を行うことは、

「非弁行為」

として禁じられている。

 

一般人相手に有料で裁判書類

を作成するなど、

「リーガルテック」

のサービス内容が弁護士業務

に近づくほど、非弁行為と

判断される可能性は高まる。

 

法務省によると、既存のサー

ビスが明確に法律に反して

いるとする報告は、現在は

ないが、将来を見越し、

「リーガルテック」

に関する法解釈を整理する

指針の策定を進めている。

 

同省の担当者は

「リーガルテックは業務効率化

 による法務人材の人手不足

 解消にもつながる可能性も

 あり、引き続き注目して行く」

と話す。

 

著作権侵害、米で訴訟相次ぐ

生成AIをめぐる訴訟が米国で

相次いで起こされている。

 

原告は自分の作品が生成AIに

無許可で使用され、著作権が

侵害されたと訴えている。

 

訴訟の行方が生成AIの利用

範囲や著作物の扱いをめぐる

議論に影響を及ぼす可能性が

あり、注目されている。

 

在米アーティストのD氏は、

1昨年仲間と3人で画像生成AI

「ステーブル・ディフュー

 ジョン(SD)」

を開発した英企業を、著作権

侵害で西部カリフォルニア州

の連邦地裁に訴えた。

 

SDは、利用者が作りたい画像

の作風や模倣したい作家名など

を入力すると、SDが「学習」

済みのデータから新たな画像を

生成する。

 

訴状によると、英企業はドイツ

の非営利団体が研究目的で集め

た約60億の画像や文字データの

大半をSDに学習させたが、その

データにD氏の作品が断りなく

使われていたとしている。

 

米著作権法は、教育や研究など

一定要件を満たした場合、

「著作権侵害」に当たらない、

とする「フェアユース(公正な

利用)」を認めている。

 

一方で、ドイツの団体のデータ

を営利企業が利用したのは、

「脱法的」

とも指摘されている。

 

D氏は米紙への寄稿で、

「模倣作品には私の作風の

 特徴があった」

と述べ、補償を求めた。

 

英企業を巡っては米写真配信

大手も昨年、無断で1200万枚

以上の画像を使用されたとして、

東部デラウェア州の連邦地裁に

提訴した。

一方で、米メディアによると、

欧米の規制当局は、利用者が

詳細に指示し、生成AIが作成

した「作品」について、利用

者の権利を認める方向である。

 

人が独自性を引き出そうと知的

な努力を重ねた「作品」に関わ

る権利は、完全にコンピューター

が作った「AI生成」作品とは、

区別すべきだとの議論が優勢だ

という。

 

ただ、AI規制新法の制定へ動く

欧州連合(EU)が原案を2021年

にまとめた際には、SDや対話型

AI「チャットGPT」の利用が、

これほど早く広がると想定されて

いなかった。

 

生成AIを巡る日本の著作権保護に

ついては、AIが学習に用いる

データの保護法制が、他の先進国

に比べ非常に緩いと指摘する

専門家が多い。

 

司法のAI活用、初指針

政府は契約書審査の触法範囲

を示した。

 

その流れを以下に示すと、

政府は1昨年、デジタル技術を

活用した司法関連サービス

「リーガルテック」

に関する指針を初めて公表した。

 

人工知能(AI)を用いて契約書を

作成・審査するサービスについ

て、法律に抵触するケースを

整理し、経済の成長分野として

発展を促す狙いがある。

 

サービスの進展に伴い、指針の

改定も視野に入れている。

 

AIによる契約書審査サービス

などを巡っては、弁護士資格

のない者が報酬を得る目的で

弁護士と同等の業務を行う

「非弁行為」にあたる可能性

がある、との指摘も出ていた。

 

今回の指針では、非弁行為の

可能性があるケースについて、

➀報酬を得る目的で、

➁具体的な法律上の争いがある事件

 に関し、

③鑑定する、

 (法律上の専門知識に基づき見解

 を述べる)ー

という3つの条件を全て満たす場合

だと整理した。

その上で、➀~③すべてに該当

しても、企業に雇われた弁護士が

サービスを利用する場合は問題ない、

とした。

指針に従えば、具体的な法律上の

争いがない状況で作成されること

が多い企業間の一般的な契約書では、

現行のAIによる審査サービスが違法

性を問われることは基本的にないと

見込まれる。

 

一方で、訴訟中の企業との和解契約書

などの場合には、具体的な法律上の

争いがあるため、弁護士法が禁じる

「非弁行為」に該当する可能性がある。

 

会見で法相は、

「リーガルテックの健全な発展に

 繋がると期待する」

と述べた。

「混乱解消」業界関係者は安堵

AIを活用した契約書の審査サービス

を巡り、弁護士法に抵触しない範囲

が明示されたことで、業界関係者は

「混乱が解消される」と胸をなで下ろ

している。

 

法務省関係者によると、1昨年に新規

参入する業者からの問い合わせに対し、

同省が、

「違法の可能性がある」

と回答したことで、既存サービスまで

「違法ではないか」

との風評が広がった。

 

弁護士側からも、弁護士資格のない

AIが関与できる範囲を広げると、

「無資格のブローカーが法律上の

 トラブルに関与する余地ができる」

との懸念が寄せられていた。

 

一方で、政府の規制改革推進会議は、

昨年6月、改革の一環で、リーガル

テックに関する指針策定を提言。

結果として、法務省は業者や弁護士

からの不安の声や、契約書のAI審査

だけで数千以上の企業が利用する現状

も考慮し、詳細な内容の指針を公表

するに至った。

 

将来、裁判書類の下書きも可能!

政府が、今回公表した

「リーガルテック」

に関する指針は、一部の例外

を除き、現在、提供されてい

るAIを活用した契約書の作成・

審査サービスに

「問題はない」

とするものである。

 

とは言え、リーガルテックは

世界的にも発展途上で、今後

は最先端のサービス開発競争

が国内でも本格化しそうで

ある。

 

そんな中、

指針の公表を受け、契約書の

AI審査支援サービスを展開

する弁護士は以下のように

期待を口にした。

 

「新しいリーガルテックに

 企業が挑戦し、利用者が

 活用しやすい環境が整っ

 た。」

司法分野へのデジタル技術

適用を巡っては、以前から

判例のネット検索、

弁護士検索、

などがあったが、最近はAIの

導入事業者がしのぎを削って

いる。

 

その代表例と言えるのが、

AIの契約書審査支援である。

 

契約書を読み込ませると、

<損害賠償の範囲に弁護士費用

 が明記されていません>、

などと指摘し、修正案の提案や、

契約の更新期限を知らせたり

する。

 

これは、主に企業の法務部門で

活用が広がりつつある。

 

現行のサービスでは限定的な

機能が中心だが、

業界関係者は、

「契約書や裁判の準備書面の

 下書き作成、判例の収集・

 分析など、AIを活用する

 範囲が広がってくることが

 見込まれる」

 と将来図を描く。

 

そもそも、司法分野はAIの

活用に親和性が高いとされ

てきた。

 

その理由は、AIの性能向上

には膨大なデータが欠かせ

ないが、判例や学説を中心

に司法分野に膨大な

「文字データ」

の蓄積があるからである。

とは言え、現状は「紙」が

中心であるが、政府は今後、

民事訴訟の全判決文をデジ

タル化し、データベースを

構築する計画を進めており、

環境が整えばリーガルテック

は、さらなる向上が見込める。

 

それ故、法務省幹部は

「国際競争力の向上にもつな

 がるので、成長産業の健全

 な育成に協力して行きたい」

と話す。