この2人を表紙に出されて決断と書かれたら買わずにはいられない。題名の「提督」と書いたところが憎い。司令長官でもトップでもなく提督。提督となると突然偉人のようなイメージになるのが不思議だ。
面白かった内容をお伝えしたあとに投資家として参考になるところを挙げたい。
東郷平八郎はといえばバルチック艦隊を前にしての敵前大回頭が有名だが著者はそこではなく東郷がミッション・コマンド型の指揮系統を構築した点が世界の提督たる所以であると記している。ミッション・コマンドとは任務を理解した上での独自の判断のことをいう。
東郷が乗る第一戦隊は敵前大回頭のあとに幾つかの理由でバルチック艦隊を見失ってしまった。しかしそのときに後続の第二戦隊司令官である上村彦之丞が第一戦隊に後続せずバルチック艦隊の頭を抑えたとある。
これは本来は命令違反であるのだが連合艦隊の任務はバルチック艦隊をウラジオストク湾に行かせないことであり第一戦隊のあとを付いて行くことではない。この意思統一と信頼関係を部下と構築していたことが素晴らしかったと著者は記している。敵前大回頭については世界でそれほどに取り上げられたことはなく、至って通常のことであり坂の上の雲の影響が強いと主張している。
さて投資家に役に立つとも思われる内容に入ろう。
リーダーは如何なる状況に置かれても冷静に情勢を分析し、大勢に流されることなく、少数であっても適切な進言があれば受け入れる寛容さを持つことだと思います。
p20より引用
このはバルチック艦隊が北海道の宗谷海峡か、青森の津軽海峡か、対馬海峡か、どこを通ってくるのかわからなかったときのことだ。パニックに陥った日本海軍は北進(北海道と青森に向かう)しようとするがたった一人だけ猛然と反対した人物がいた。
藤井較一(こういち)大佐という人だ。藤井大佐は、北進したと判断する根拠がない、バルチック艦隊が日時を引き伸ばしている可能性がある、台湾付近にいる艦船からの連絡がない、と理路整然と述べ対馬に留まるべきと主張。
島村速雄少将が藤井大佐の意見に同調し東郷は藤井の意見を受け入れ北進を1日延期。その結果、バルチック艦隊発見の情報が入り結果として日本海海戦の大勝利となった。
東郷が藤井大佐の意見に賛同したのは驚きとしか言いようがない。大多数の意見よりもしっかりとした根拠を持って主張した少数(というより一人)の意見を採用するのは並大抵のことではない。
これを我々投資家に当てはめるとしっかりとした数字や根拠を元にして判断する必要があるということに繋がる。根拠のない熱狂や思い込みや直感で行動してはいけない。買いや売りを行うときは何かしらの指標や数値を元にして実行する。周りの雰囲気や勢いに流されずにきちんとした根拠を元に行動する必要がある。可能ならノートやパソコンにその根拠を残しておきたい。そうすればあとから振り返り様々な発見が客観的にわかる。
加藤友三郎が国家百年の大計を考えて決断したのに対して加藤寛治の主張は海軍の戦術レベルに留まっていました。
p215より引用
対米戦争を避けることこそが最善の国防という考えの加藤友三郎に対して軍備拡張を主張した加藤寛治。わかりやすくいうと国家百年を見越して軍縮を受け入れた加藤友三郎とアメリカ・イギリスとの短期の戦力を考えた加藤寛治。加藤寛治は日米開戦へと向かう流れを推進し結局日本は太平洋戦争で約310万人もの犠牲者を出してしまった。
加藤友三郎はワシントン・ロンドン海軍軍縮会議において日本の軍縮を受け入れたがいずれ日本が巻き返せるときがいつか必ず来ると考えていたと思う。しかし今ここでアメリカ・イギリスと戦争になれば勝てる見込みがない。経済的にも金銭的にも軍事的にも勝てる見込みがないので戦わないという国家生存戦略を中心に据えたといえる。孫子の兵法である。これは以前紹介した鳩山由紀夫氏の考えに繋がる。
我々投資家も長い視点を持って投資をしていかなければならない。勝てない投資はしない。勝てるときだけ戦う。または勝てるまで力(資金)を貯めておく。このことを加藤友三郎が教えてくれるように感じる。
比較的分量も少なく読みやすいので歴史好きで投資家の人は是非買って読んでいただきたいと思う一冊であった。
