「ミスター・ユーラとの別れ。」

 

刻一刻と別れの時間が近づいている。

現在七時二〇分。何かたった

3日間、ミスターユーラと同室で一緒の生活をしたのです。

英語はしゃべれません。ロシア語だけです。

でも自分の体が熱くなってきて

いるのを感じ取ります。

胸が締め付けられています。

 

        (生粋のロシア軍人)

三日前、たくさんの荷物を持って入ってきました。

一緒にきた息子さんらしき人と別れを惜しんで、

熱い熱い抱擁をしていました。

その荷物は魚のようです。

自分で釣ってきた魚のようです。

後、上から下までまっかっか。

ロシアの旗をイメージした服です。

驚き桃の木山椒の木。その彼と三日間過ごしました。

名前を「ユーラ」といいます。年は53歳だそうです。

 

 

途中でイランかパキスタン系でロシア語を話すご夫婦が

3人のお子さんをつれ入ってきました。

2部屋上のベッドを利用なんです。

奥さんと上のお兄ちゃんおねちゃんは隣。

下の男の子は同じ部屋です。甘えんぼです。

いつもお父さんのそばにいないとだめです。

またいるだけではだめで構ってもらいたい。

 

いつもお父さんを呼び甘えています。

特にお父さんを呼ぶ「ダッダ」「ダダ」が耳元で鳴り響くんです。

機嫌が悪いと、大声をだしたり思いっきり泣き始めるんです。

同じ部屋だとかなり強烈です。

こちらは大人だから我慢します。

 

ユーラと顔を見合わせます。

朝から晩まで、下の男の子の言動です。

若いお父さんもさじを投げて

時としてお母さんにパスします。

おかあさんは短い時間しか見ていません。

そして若いお父さんに変わります。

 

それが朝から晩まで。ユーラとはそんな関係で、

意気投合しました。しかし、3日目にその家族は車両が変わったのです。

たぶん2等から3等車に変わったんです。

列車が駅で停まった時に後ろの車輛にのっていたんです。

(懐かしいような、これでよかったな。複雑な気持ちです。)

 

しばらく通路で外を眺めていました。

シベリア鉄道沿線にロシアの軍隊が駐留していたり、

軍用のトラックや兵器が鉄道で運ばれていたりしています。

小型か中型かわかりませんが戦車が何台も運ばれていました。

ユーラが指差して、自分はあれに乗っている。

(阪神のあれではありません)

でユーラは軍人なんだ。

 

確かロシアはいろいろな国の紛争に駆り出されている。

実際に戦闘に参加している。だから上から下まで

ロシアのマークの入った衣類なんだ。

狭い戦車の中で命がけの仕事をしている。

 

だから休暇を取ったら自分の育った田舎の川でのびのびと釣りをして、

自然を満喫し釣った魚をさばいて、お土産にする。

命がけの仕事だから息子さんらしき人と熱い熱い抱擁ができるんだ。

(勝手に想像していました。)

 

ユーラが下車する3時間くらい前に一緒に写真を撮らせてもらいました。

 

      (ユーラーと2ショット)

 

(自分より年上だと思ったら10歳年下でした。大人になったら年

なんか関係ないと思うときと、やっぱり年を意識するときがあります。

伊妻の矛盾。自分勝手)

 

「ノヴォシビルクス」という大きな駅で彼はおります。

ハグはしません。シェイクハンドです。

そしてバックを後ろに背負い、前に背負い

(前はせじゃない腹だ。腹負い。

 

右手に左手に荷物を持つためにお手伝いして別れました。

(お元気で、お達者で。3日間ありがとうございました。

夕暮れのホームを出口に向かって歩き始めました。

伊妻は彼を見送りました。)

 

[ミスター・ユーラ]

上から下まで、鎌とハンマー入った

真っ赤なロシアのTシャツ短パン、ロシアの軍人さん。

 

バカー(さようなら)