家に着いてから、私はリビングにいた息子の前でボイスレコーダーを再生した。
「えっ、ボイスレコーダーに録ってたの?」
「うん。
お父さんのこと(元カノの件)で散々学んだからね。」
私自身もそうだが、人は自分がされた言葉や行動(特にネガティブなこと)は覚えているけど、自分が相手にした言葉や行動は覚えていない場合が多いと思う。
息子は一通り聞き終わった後
「連帯保証人はちゃんと断ったんだね。
姉ちゃんっていくつだっけ?」
「31歳。」
「31歳ね〜………
お父さんの【一度帰って来いコール】もしつこいと思うけど、姉ちゃんも相変わらずだね。
連帯保証人になって欲しい
同棲相手さんのことわかって欲しい
そう思うなら、まずお父さんやお母さんが納得できる説明をする必要があるよね。
これじゃあ、まるで子どもの癇癪だよ。
突っ込まれたくない部分を言われた途端、感情に任せて言うのは良くないよ。
今回、相談できないのをお母さんとお父さんの育て方のせいにするんだ…。
それに両親のゴタゴタ⁈
そのゴタゴタからいち早く逃げたの誰?
ゴタゴタと判っているのに、それをわざわざ同棲相手さんに話したのは姉ちゃんだよね。
それで、自分は被害者みたいなこと言って…
俺なんて、そのゴタゴタした両親と今も暮らしてますけど!!」
「そうだね。
息子の方がずっとゴタゴタに巻き込まれているよ。
お姉ちゃんに対して、お母さんの悪いところがあったのは認めるよ。
だから、お母さんはこの2年間お姉ちゃんに一切連絡してないし、母としての存在すら消してた。
でも、結局お姉ちゃんはこれからもお母さんが関係するようなことは、すべてお母さんのせいにして生きていくんだなと思ったよ。」
「姉ちゃんのことはまた距離を置けばいいよ。
姉ちゃんはお父さんとおばちゃん(元カノ)のことがあってから、お母さんが変わったことも知らないし知ろうともしないよ。
俺だって、今のお母さんの姿なんて想像もしていなかったんだから、姉ちゃんなんて想像できる訳ないでしょ。
とりあえず、連帯保証人は断ったんだし、姉ちゃんとはこのままでいいんじゃない。
って言うか、姉ちゃんはお母さんに
『彼氏ができたら連れて来てね。』
って、言われたかったってこと?
『連れて来なくいい。』が、お母さん私(娘)に興味ないんだになるの?」
「う〜ん、お母さんはおじいちゃん(私の父)やおばあちゃん(私の母)にそんなこと言われて、イヤだったし恥ずかしかったから、お姉ちゃんにもそういう意味合いで伝えたつもりだったんだけど…
お母さんの言葉足らずだったんだろね…
それから、お姉ちゃんは母親に『あなたがお付き合いしている人に会わせてね!』と言って欲しいタイプだったのかもしれない…」
『へえ〜!!
俺ならそんなことお母さんに言われたくないし、そもそも最初から絶対に(彼女)連れて来ないけどね!!」
言葉足らずだろうが、お互いの解釈の違いだろうが、どちらにせよ私の言葉や態度で娘の心に傷を負わせたのは間違いない。
そして、それは私が主人から傷つけられた傷よりもきっと深いだろう。
だって…
母が娘につけてしまった傷なのだから。
だけど、私は娘が私への嫌悪感を吐き出してくれて良かったと思っている。
主人が小さい頃から抱いている不満や嫌悪感をまったく知らない義母。
息子に「お父さんは俺に無関心だよ。」と思われていることを、まったく知らない主人。
この2人のように子どもの本心を知らずに自分の子育ては成功だ!と思いながら過ごしている裸の王様のようにはなりたくない。
だから、今回の娘の吐露もよかったと思っている。
娘に私の母としての愛情の注ぎ方は娘の望んだ形ではないことだと知ることができたし、私も主人や義母と同じような過ちを犯してしまったと自覚できた。
息子が父である主人へそんな想いを抱いていることは母としてとても苦しいが、
息子は自分の想いを吐露してまで、主人がそれを知ることを望んではいない。
母である私が今の娘にできることは、これからも母としての存在を消し関わらないこと。
他人よりも遠く感じる娘だけど、これからは幸せでいてほしいこと。
息子には、主人への想いは知りながらも今共に生活している父と息子を静かに見守り続けること。
私は息子に言った。
「息子!彼女ができたらお母さん会いたいから、絶対連れてきてね!」
「重!!ウザ!!」
息子は笑いながら、自分の部屋へと戻って行った。
娘の声を聴いてから数日後、主人から
「俺、やっぱり(同棲のこと)納得できなくて娘にメールした。
『お前、悪い男に引っかかっているんじゃないだろな。
今、自分の足元見えてるのか?』」
「そのメール、いつ送ったの?」
「あの電話のすぐ後。」
心の中で思いっきり溜息をついた。
娘はあの電話の内容を私が傍で聴いていたことは知らない。おそらく、主人が私に話してからメールが送られたと思っているだろう。
娘の私への気持ちから察すれば、きっとその言葉は主人ではなく私が言ったと思い込むだろう。
その日を境に娘からの連絡はまた途絶えた。