男は目を覚ました。

暗い穴の中に居る。空には月が出ていた。

男は立ち上がり、左手を上げる。


ジャラ


何か引っ張る物がある。見ると左手が鎖につながれていた。鎖の先には玉が付いている。

男は鎖を強く引っ張ってみたが、左手を上げる事はできなかった。

玉は世界一重い金属でできている。

男は仰向けになり、夜空を見上げる。そのまま目を閉じて寝てしまった。


次の日、男は目を覚ました。

穴の中が明るい。太陽が高く登っている。左手は鎖につながれたままだった。その先に付いた玉を見ると、人の頭くらいの大きさの黒い玉だった。

男は起き上がる。穴の縁に向けて右手を伸ばす。右手は届かなかった。

前を見ると、斧が置いてあった。男は斧を右手に取り、鎖を叩き始めた。日が暮れるまで叩き続けた。鎖は壊れなかった。

男は仰向けになり、夜空を見上げる。そのまま目を閉じて寝てしまった。


次の日、男は斧で鎖を叩く。

次の日も、その次の日も鎖を叩く。


一年後、斧の刃はボロボロになってしまった。鎖は全く傷ついていない。

鎖は世界一硬い金属でできている。


男は穴の縁に向けて右手を伸ばす。相変わらず穴の縁に右手は届かない。

男は仰向けになり、夜空を見上げる。そのまま目を閉じて寝てしまった。


次の日、男は右手を穴の縁に伸ばす。

次の日も、その次の日も右手を伸ばす。


一年後、右手の指が穴の縁に届いた。指の力だけでは外に這い出せない。


男は左手で鎖を引っ張る。黒い玉は動かなかった。

男は仰向けになり、夜空を見上げる。そのまま目を閉じて寝てしまった。


次の日、男は左手で鎖を引っ張る。

次の日も、その次の日も鎖を引っ張る。


一年後、黒い玉は男の足元に移動していた。相変わらず左手を上げられない。


男は両手で黒い玉を持ち上げようとする。持ち上がらなかった。

男は仰向けになり、夜空を見上げる。そのまま目を閉じて寝てしまった。


次の日、男は両手で黒い玉を持ち上げようとする。

次の日も、その次の日も玉を持ち上げようとした。


一年後、男は両手に黒い玉を持っていた。


男は黒い玉を頭上まで持ち上げ、穴の外へと放り投げた。穴の縁に両手を掛けて、壁の出っぱりに足を掛け、腕に力を入れて穴の外に脱出した。


男は空を見上げる。太陽は高く登っている。

辺りを見回す。そこは沢山の岩が突き出ている荒れ地だった。

足元を見る。両手で黒い玉を持ち上げた。


黒い玉は鏡の様に周りの景色を妖しく反射させていた。男は自分の顔を黒い玉に映した。汚れた自分の顔があった。


男は黒い玉をお手玉の様にして遊びながら、鼻歌を歌い、裸足で荒れ地を歩いていく。


火山の噴火する音が聞こえる。

「きっと近くに温泉が湧いているだろう。」





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