天動説と古代哲学者の苦悩
安部
こんにちは、3回の安部です。今回はタイトルの通り、天動説について説明したいと思います。僕は宇宙論や惑星に興味があり、部誌では個人的に面白いと思った比較的マイナーな話題を誰でもわかるように書いていました。しかし今回はいまいち書きたいことが見つからず、結局天動説というありがちな話題となりました。ただし、この手の話では地動説への移り変わりの部分をメインに語られることが多いですが、今回は地動説には一切触れず天動説をメインとして話すことにします。特に前半では実際の星の運動や観測結果に矛盾がないような天動説のモデルができるまでの歴史を、後半ではその詳細な構造について述べます。
さてそろそろ本題に入ります。まず天動説というのは地球が静止しておりその周りを星が公転しているというものですが、まあ昔の人がそう思うのも無理はないですよね。星が天球上を東から西へ移動するのを見てまさか自分が回転しているとは思わないでしょ普通。もちろんその原因として宗教的な価値観による後押しもあったでしょうが。ところで天動説を考える上で避けては通れないのが惑星の逆行でしょう。逆行とは地球からみて惑星がある期間において、通常とは逆に動くことを指します。これは単に地球を中心とし、その周りを惑星が回っていると考えたのでは説明できません。この問題を解決するために古代哲学者は様々な惑星のモデルを考えました。これがはっきりと確認できるのは紀元前340年頃のアリストテレスが著した『天体論』までさかのぼります。この書では古代哲学者エウドクソスによる同心天球説を発展させたモデルについて言及されています。これは各々の惑星軌道自体が自転することで逆行を説明する非常に複雑なものです。しかしこのモデルはいくつもの矛盾を孕んでいました。その中でも、
② 惑星の明るさの変化を説明できない
②逆行する期間と順行する期間の説明
という問題がありました。これらを解決するために紀元前2世紀哲学者ヒッパルコスにより考えられたのが従円(導円や誘導円とも)と周転円によるモデルです。(図1)
図1
これらに2つの重要な概念をくわえ、具体的な公転の周期を与えるなどし、体系化したのが2世紀にアレクサンドリアで活躍したプトレマイオスであり、それは『アルマゲスト』という書にまとめられています。これに書かれている天動説は以後1000に渡り西洋で受け入れられました。つまり、二世紀の時点で、大まかに星の運動を説明するモデルが天動説という形で示されていたのであり、いかに天文学と数学が発達していたかが窺えます。
ここからはプテレマイオスの示した従円と周転円に離心円とエカントという概念を加えたモデル(図2)について説明します。
図2
離心円とは地球を中心としない周転円の中心の円軌道のことです。ややこしいで物ですが簡単にいうと地球は真ん中から少しずれているという認識で大丈夫です。次にエカントとは周転円の中心が離心円の中心を挟んでちょうど反対側にある点であり、エカントから見ると周転円の中心が一定の角速度で移動するというものです。これもわかりづらいですが、要するに周転円の中心の円運動は等速ではないということです。このモデルではまず周転円上で惑星が周点円の中心と逆向きに動く期間があるので逆行を説明できます。また惑星の明るさの変化は地転と惑星との距離が変化するので説明できます。次に離心円やエカントといった複雑な概念を導入した理由ですが、本来地球の公転軌道は楕円であるためにおこる現象(例えば春分点から秋分点までの期間と秋分点から春分点までの期間のズレ)を太陽が地球の周りを円運動する条件のもので説明するためです。そもそもこのころ天体の軌道はすべて真円であるという風に考えられていました。地球が中心にあることに加えこの条件を仮定したがために今回説明したような複雑なモデルが生まれたと言うことです。とくにエカントというのは天体の等速円運動を破るものであり受け入れ入れようとしない哲学者もいたようです。このモデルにプトレマイオスはさらに内惑星と外惑星についても周転円上の周期と公転周期を与え惑星が地球に接近、離反する周期について観測と一致させることに成功しました。その辺の説明をしだすと文章が非常に長くなってしまうので控えておきますが、参考文献1にとても詳しく説明されています。
以上が天動説の発展の歴史です。天動説は実際の天体の動きを正確に説明できることとその体系が2世紀の時点で、できあがっていたということを知っていただけたのであれば幸いです。実はここでは紹介していない全く異なるモデルやエカントを解消するために後の哲学者が考えたモデルも複数あるのですが、これをきっかけに興味を持った方は調べてみてはいかがでしょうか。
参考文献
古典天文学http://fnorio.com/0015Classical_Astronomy1/Classical_Astronomy.htm#3-3-1
宇宙観の革命
http://www.wattandedison.com/JSME-Nakamura.pdf