情報システムの導入は企業にとって重要な経営投資ですが、必ずしも成功するとは限りません。一般的には目標を達成できるシステムを期限内・予算内で導入できることは稀であると言えます。
私の長年の経験から「システム導入」における問題点と成功のポイントを物語仕立てで書いてみました。肩の凝らない内容ですので気軽にお読みいただき参考にしていただければと思います。
あらすじ:父親の急死でT工業㈱を継いだ高岡は、社長就任半年後に自ら事業計画の策定に着手した。しかしその過程で自社のシステムの有用性に疑問を持ち、事業計画策定後にシステムのリニューアルすることを決断した。
現行システムの問題点の明確化から始まりシステム化計画、要件定義、開発管理、システム導入と各フェーズにおいて様々な困難を乗り越え新システムの導入を実現した。
なおこの話はフィクションであり実在の組織・人物とは無関係です。
新社長の決断-システム導入編 第1章-社長の疑問-
春も半ば薄暮の時、高岡は隅田川のゆるやかな流れを眺めながらこの1年の出来事を回想していた。川の流れと違いあわただしい1年間だったと高岡は思う。
父の急死、自身の退職、T工業の社長就任、得意先への挨拶回り、事業計画の策定等々・・・。
ほとんど後ろを振り返る暇もない毎日だった。その中で彼はひとつの疑問を持った。それはT工業のシステムが何故これほど使えないのかである。
高岡は社長就任前は大手商社で主に営業畑で働いていた。そこではシステムから彼が欲しい情報を入手できた。もちろんセキュリティによる制限もあり使いにくさもあった。またシステムからの情報だけで充分なわけではなかった。しかし、必要最小限の情報は得ることができた。それに引き替えT工業のシステムは極端にいうと請求書発行機に毛が生えたようなものだった。
前社長である高岡の父にとってもきっと満足がいくシステムではなかったと思うが、T工業は父が自らが創業した会社である。父はきっと個別の売り上げ情報を見れば経営判断はできたのではないかと高岡は思う。しかし一方で父はシステムが分かる若手の社長室長を数年前に採用している。それは彼もシステムの重要性を認識していたに他ならないと考えられる。
高岡はシステム担当の鈴木総務部長と池田社長室長を社長室に呼んだ。
鈴木部長は怪訝な表情で部屋に入ってきた。池田室長は何かを察したような表情をしていた。
「急にお呼び立てしてすみません。実は前々から感じていたのですが、今のシステムは当社にとって本当に有用かと?もし、そうでないのならシステムのリニューアルを検討したいと考えています。事業計画策定時にはシステムに関して疑問を持ちながら充分検討ができていませんでしたが、やはり手を付ける必要があるようです。」
高岡は2人の顔を交互に見ながら告げた。そして一呼吸おいて「その判断と決定のために鈴木さんに現状のシステムについてご説明いただければと思います。」と続けた。
「分かりました。ただ申し訳ありませんが、私は行きがかかり上システム担当になっていますが、実態はシステムのことは詳しくありません。各部門からあがってくる不具合や改善要望を開発委託先に連絡しているだけです。いわゆるシステムの窓口です。」
「もちろん知っています。ただシステム導入の経緯を含めて当社内では鈴木さんが今のシステムを一番よくご存じでしょう。」
「そうですね。少々お待ちください。資料を取ってきます。」
「すみませんが、お願いします。」
鈴木は資料を取りに席を立った。高岡は池田に向かって言った。
「池田さんは、システムについて詳しいとお聞きしていますが・・。」
「いえ、それほど詳しいわけではありませんが、前社では経理部に所属した後システム部門に所属しており5年ほどシステム導入・運用業務に携わっていました。」
「そうですか。それでは後程、是非あなたの意見もお聞かせください。」
ノックの音とともに鈴木が戻ってきた。
「お待たせしました。細かい資料もあるにはあるのですが、まずはシステム全体を俯瞰したシステム関連図をお持ちしました。」
「それで結構です。当社システムの概要をご説明ください。」
「はい。当社のシステムは受注から請求までを管理する販売管理システム、製品・商品・原材料の在庫を管理すする在庫管理システム・・・。」
鈴木部長の説明は約30分ほど続いた。高岡はその間に簡単な質問をはさんだ。池田はただ無言で聞いているだけだった。
「ありがとうございます。大枠はわかりました。システム間の連携が弱いのと経営に必要な区分がされていない点、生産管理がほとんどシステム化がされていない点、また適切な改善ができる体制になっていない点がネックなようですね。」
鈴木部長は俯きがちにうなずいた。
「それでは引き続き現システムの導入の経緯をお教えください。」