ベンダー選定終了後、時をおかずに「要件定義フェーズ」に入った。
要件定義フェーズにはいったものの、池田達は「基本要件」、「要件」、「機能」の違いがよくわかっていなかった。システム化計画レベルで設定するのが「基本要件」だとコンサルタントとの森山から聞いてはいたが・・・。
その時に説明を受けた各項目に対応する事例は以下のようなものだった。
基本要件:原材料の所要量計算は埼玉工場と横浜工場
で別々に行う
両工場の展開状況を相互に一覧で参照でき
るようにする
要件:基本要件を前提に「同一部品に対して両工場の
所要量・予定在庫が一覧できること」
機能:全部品の所要量・予定在庫の両工場対比リスト
の提供
個別部品指定による所要量・予定在庫の両工場
対比照会
機能に関しては、さらに画面レイアウト・帳表レイアウト・入力チェック等を定義していく。
D社の岩見を中心に、T工業のプロジェクトメンバーが週2回のペースで要件定義を進めていった。
今回の要件定義には、以下の3つのパターンがある。
a.パッケージ機能にあるもの、b.パッケージ機能にないもの(アドオン)c.基本要件は定義されているが曖昧なもの
aは要件定義にはほとんど時間はかからないが、ベンダーとしては「設計フェーズ」の情報をその場で収集したいと考えている。
bは要件を齟齬がないように設定するのに時間がかかる。経験豊富なベンダ
ーであれば、他社事例を基にT工業用にカスタマイズして提案してくる。
一番厄介なのは、一見基本要件が定義されているように見えるが、実は要件に落とし込むまでの指針が決定されていないケースである。
要件定義ミーティングの4回目のテーマ(顧客別利益管理)がまさにそのケースに該当した。
13:00から開始した会議は15:00になっても何も決まっていなかった。
「顧客別利益管理」は高岡がリクエストした機能であるが、具体的な要件定義に関しては池田と河合に任されていた。高岡としては、汎用品中心顧客、特注品中心顧客、混合顧客に関して利益構造を明確にして、今後の戦略立案に活用したいと考えていた。もちろん管理会計ベースなので最終数字が財務会計と一致すれば、どのようなやり方もとれる。
池田・河合とも販売管理費・一般管理費の顧客への配賦方式については3パターンを考えていた。
1. 総額配賦方式 総額を一つの基準で配賦
2. 科目別配賦方式 科目別に配賦基準を変えて配賦
3. 直課方式 顧客に直課できる費用は直課し、それ以外は科目別配賦
ただ、方式は考え付いてもT工業にとってどの方式が良いかは決めかねていた。そこで彼らは多数のクライアントベースを持っているD社の岩見に他社事例をベースに提案をしてもらうよう依頼した。
岩見の結論は1の総額配賦方式で配賦基準は売上高だった。彼がそれを選択した理由は「採用している企業が多い」、「パッケージの機能をある程度利用できるためカスタマイズコストが少なくて済む」の2点だった。
この提案に対して河合が噛みついた。
「配賦基準が一律というのはおかしいのではないですか?広告宣伝費について言えば、パンフレットやHPの作成費はほとんど汎用機販売に使用しています。それを特注品販売先にも配賦するのは理屈に合わない。また、売上高が多いところにコストを多く配賦するのもおかしい。以前は儲かっているところ(部門)にコストを負担してもらえば、儲かっていないところ(部門)が救済できるというような考え方があったが、本末転倒です!
」
何回かのやりとりの末、温厚な岩見が珍しく声を荒げた。
「確かに粗い考え方です。でしたら、批判だけではなく河合さん自身の意見をお聞かせください!?」
険悪なムードが漂ったその時、会議室のドアがノックされて一人の男が入ってきた。
この物語はフィクションであり登場する企業・人物は架空のものです。
第18章 完 高石 貢(著)
第18章 -要件定義2- 7月31日頃 アップの予定です。
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