S木さんは見事に成功した。彼女の刺した針から点滴の液が順調に流れていった。
(後で知ったのだが針がうまく刺さらないと血液が点滴の管に逆流するそうだ。)
「S木さんやったね。」
「ありがとうございます。」
S木さんは、はにかみながら微笑んだ。「ありがとうございます。」は看護婦さんの応対としてはちょっと変かもしれない。
しかし、翌朝はS木さんの刺した針は別な場所に移動した。朝番の看護婦さんが、刺した場所が痣になることを心配して刺し直したのである。S木さんは多分このことを知らない。
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入院5日目頃の深夜の病室で、私が入院患者であるということを強く認識させられる出来事に遭遇した。入院していれば当たり前の話だが、それまでホテルにいるような気持でいた私はかなり驚いた。
入院直後は朝昼晩の区切はほとんど感じなかった私だったが、さすがにその日は朝晩の区切を認識していた。ただ入院生活に慣れたせいか逆に寝つきが悪かった。消灯時間は21:00であるが2人部屋で同室者がいないことを良いことに0:00過ぎになってもテレビを見ていた。もちろん病室のドアを閉めて電気は消していた。そして半分うとうとしながらテレビを眺めていた。
とその時、病室のドアの中の仕切りのカーテンが突然開いた。私は、跳び上がるほど驚いた。
カーテンの向こうには看護婦さんの顔が浮かんで見えた。
「すみません、驚かれましたか?」彼女は落ち着いた声で言った。
「ああ、びっくりした。いきなりカーテンが開いたから・・・。」
「すみません。毎日夜中に巡回しているのですが、ご存知なかったですか?」
「そう、そうですね。声をかけられなかったので気が付きませんでした。」
「いえいえ、私は患者ですね。看護婦さんは患者さんの部屋には当然フリーパスですよね。」
私は、何を訳のわからないことを言っているのだろう。私は入院患者なのだ。
看護婦のYさんは既に私のベッド脇に立っていた。Yさんは、30台前半のいわゆる整った顔の方で応対も優しい人だった。
「何か変わったことはありませんか?すこしお休みなった方がよいですよ。」
深夜の病室に看護婦さんと二人きりでいる。この時は不謹慎ながら、私はほのかな幸福を感じていた。
by MTK