目覚めたミニョが辺りを窺いながら上半身を起こした。そして椅子に座って腕組みをしている俺を見て、自分のいる場所が見憶えのある部屋のベッドの上だと判ると、着衣に乱れがないかを確認するような動きを見せ、飛び出すようにベッドから出た。
「おい、あんまりなあいさつだな」
俺は頬をひくひくと引きつらせた。
「私、どうしてここに・・・」
しかし目が覚めたといってもまだクスリが身体に残っているのか、足元がふらつくようで、俺は慌てて近寄るとバランスの崩れた身体を支えてやった。
「バーで飲んだジュースに睡眠薬が入ってたんだ」
「テギョンさん・・・が?」
ったく、声は控え目だがひどい質問だ。
「さっきから俺を何だと思ってる。俺じゃない、グラスを運んできた男だ」
「どうして、そんな・・・」
不安な表情をしているミニョのバッグの中で携帯が鳴った。
たぶんシヌだろう。結局ミニョはシヌに連絡をする前に寝てしまったから、またこの間のように連絡が取れないと慌てているかも知れない。
俺は電話に出ようとするミニョの手を掴んだ。
「放してください、たぶんシヌさんです。私、電話に出ないと」
寝る前もシヌ。
寝言もシヌ。
起きてからもシヌ。
ミニョの口からシヌの名前が出るたびに俺の心はキリで突かれたように痛む。あいつの名前を口にするなと叫びそうになるのをぐっと堪え、拳を握った。
「さっきから何度もかかってきてる、ほっとけばまたかかってくるだろう。そんなことより、まずはそのにおいを何とかしろ」
「におい?」
「俺がにおいに敏感なのは知ってるだろ。お前からはシヌのにおいがする。俺はあいつの香水のにおいが嫌いだ。お前がシヌのにおいをさせてるせいで、俺のベッドが臭くなった。この部屋もだ。そのにおいを何とかするまでは電話には出させない。電話に出たかったら今すぐシャワーを浴びてこい」
本当は違う。
においがするのは確かだが、それはシヌではなく酒のにおい。
バーで酒が服にかかったせいだろう。ミニョからは酒のにおいがする。
しかしミニョがシヌの名前を口にするたび、シヌのことを気にするたび、ミニョからシヌの移り香がする気がして。
ミニョのすぐ横にシヌがいるような気がして俺は苛立った。
ミニョは俺の言葉に一瞬、え?と驚いたように目を見開いた直後、なぜかとても暗い表情を見せた。
「シヌさんの・・・におい?」
「ああ、だからさっさとシャワーを浴びてこい」
俺はシャワールームのドアを指さす。
においが気に入らなければ部屋から追い出せばいいだけなのに、においを消せというのは強引な話だと思う。当然「でも」とか「あの」とか抗議の言葉を口にすると思っていたが。
ミニョは唇を噛み、沈んだ顔で「判りましたと」呟くと、素直にシャワールームへ向かった。
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