と或る日のおはなし | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

この世の中は不思議で溢れている。いや、不思議というより、俺の理解を越えていると言った方がしっくりくるか。


まずは今、目の前でビビンバをかきこんでいるマ室長がそうだ。

この男、トップアイドルグループ”A.N.JELL”のマネージャーだという自覚があるんだろうか。

加入前の新メンバーに整形を受けさせたところまでは百歩譲って理解を示してやろう。俺のように完璧な容姿の人間と並ぶからには、多少なりとも見映えをよくしておかないとバランスが悪すぎて、グループの質が落ちるからな。

しかし、だからといって整形に失敗したのを隠し、その場をつくろうために双子の片割れを本人と偽って連れて来るなんて言語道断!

しかも新メンバーは男なのに、連れて来たのは女だぞ!


「おい、テギョン、さっきからこっちをじっと見てるが、まさかこれを狙ってるんじゃないだろうな。お前たちは今日一日オフでも俺は忙しいんだ。今食べておかないとあとはいつ食事ができるか判らないんだからこれはやれないぞ。ああ、俺のように有能なマネージャーは忙しくてたまらん。せめてご飯くらいゆっくり食べたいよ」


「誰がそんなもの欲しがるか」


まったく、マ室長の言動は理解できないことが多すぎる。

誰が有能だって?

この男のダメっぷりのせいで、どれだけ俺たちが迷惑をこうむってるか。自分がいかにできないヤツか判らないというのは、それはそれで大した才能かも知れないが、そんなものに振り回されるこっちはたまったもんじゃない。






「シヌヒョン、ミナム知らない?」


外から入ってきたジェルミがシヌに声をかけた。


「さあ、さっきまでその辺にいたが・・・ミナムがどうかしたのか?」


「ジョリーの散歩行こうって約束したのに、待っててもなかなか来ないんだ。ミナムー、ミナムー」


ジェルミ・・・こいつもよく判らないな。

ミナムのことをよく思っていない様子だったのに、ミナムが女だと判った途端、やたらと構いたがる。

おいしいアイスの店があるから食べに行こうとか、ケーキを買いに行こうとか、食べ物に関することが多いが・・・女は甘い物好きだと相場が決まってるから誘いやすいのか?

先週も一緒にジョリーの散歩に行ってたな。口の端にクリームをつけて帰って来たから、シュークリームでも食べて来たんだろう。散歩が目的なのか、食べるのが目的なのか。

変な写真撮られてないだろうな。

プライベートでもアイドルとして恥ずかしくない行動をしてくれよ。






「ジョリーの散歩か・・・俺も出かけるから途中まで一緒に行こう。新しいお茶を買いに行くとこだったんだ」


シヌの場合は最初からよく判らないヤツだったな。

感情の起伏が乏しいのか、大声で笑うことも声を荒らげることもなく、いつも穏やかな笑みを浮かべてて。でも俺は知っている。カメラが向けられていないと、口は笑ってても時々目が笑っていないことを。

心の中じゃ何考えてるか判らない油断のできないヤツ。

この間も今日みたいに「買いたい物があるから途中まで一緒に行こう」とジョリーの散歩に出かけたが、帰りはタクシーで帰って来たぞ。だったら最初から車で出かければいいのに、どうしてそんなめんどくさいことをするんだ?

そもそもシヌはミナムが来るまで、ジョリーの散歩なんて行ったことなかったのに。






パタパタと階段を下りてくる足音がした。


「何だミナム、上にいたのか。早くジョリーの散歩行こ」


二階から下りてきたのはミナム。

こいつもよくわからんヤツだ。

兄のためとはいえ、男のフリをして男ばかりのアイドルグループに入るとは。しかも俺と同室になった時、俺のベッドのすぐ横に布団を敷いたんだぞ。

女としての自覚がないとしか思えん。

いつも何かやらかす事故多発地帯。

こいつの事故に何度巻き込まれたことか。


「ジェルミ、ちょっと待ってください。これ、ヒョンニムに渡してから・・・と、うわっ!」


ミナムは階段の一番下の段を踏み外し、びたんと床に寝そべった。そしてその拍子に持っていたバケツ型の容器を落とし、開いた蓋から、中に入っていたものが床に散らばった。それは紫色のころころとした親指の先ほどの軽そうな物体。


「あああっ、ポップコーンが!せっかくヒョンニムの目にいいと思ってブルーベリー味のを買ってきたのに~」


ガバッ!という擬音が聞こえてきそうなほど勢いよく起き上がったミナムは、床に転がっているバケツを覗いた。


「よかった、まだ中に残ってました」


「おい、まさかそれを俺に食べろと言うんじゃないだろうな」


「ブルーベリーは目にいいんですよ」


「そういう問題じゃない。まだ中に残ってたと言いながら、さっきから落ちてるやつそのバケツに入れてるじゃないか」


ミナムは散乱しているポップコーンをかき集めては、バケツの中へと戻していた。


「大丈夫、三秒ルールです」


「何わけのわからんことを言ってるんだ」


どうしてここでバスケの話が?やっぱりこいつの思考回路も俺には謎だ。


「ミナムー、早くジョリーの散歩行こー」


「ちょっと待ってください、すぐに片づけますから」


まったく、俺の周りには理解しがたいヤツらばかりだな。


「おいミナム、散歩なんて行ってる暇はないぞ。今からキーボードの練習だ、さっさと来い」


昨日も間違えたくせに、ジェルミとのんびり散歩なんてさせるか。シヌも一緒だと?冗談じゃない。

俺は地下の練習室へと向かいながら、人差し指の先でクイクイとミナムを呼んだ。


「はい、ヒョンニム、すぐ行きます!ごめんなさいジェルミ、散歩はまた今度誘ってください」


パタパタと俺の後をついてくるミナム。

その足音を聞きながら、俺はニンマリと笑った。






ここにいるのは理解不能なヤツらばかりだが、その中でも一番理解できないのは、俺自身のことかもな。

ミナムがシヌやジェルミに笑顔を向けるたび、不愉快な気分になる。

楽しそうに話していれば内容が気になってイライラする。

事故多発地帯で俺に迷惑をかけまくっているこいつのことが気になって仕方ない。

本当に理解に苦しむが・・・どうやら俺はコ・ミナムに惚れてしまったみたいだ。


「あーあ、ジョリーの散歩、楽しみにしてたのに・・・」


「ミナム、つべこべ言ってないで練習しろ。上手く弾けたら後で買い物にでも連れてってやる」


「本当ですか。ヒョンニム、ありがとうございます」


「喜ぶのはまだ早い、上手く弾けたらと言っただろ。それと・・・」


俺は拳を口元にあてると小さく咳払いをした。


「二人きりの時はヒョンニムはやめろと言っただろ」


「あ、そうでした。でも私のこともミナムって呼んでますよ、オッパ」


したり顔で俺を見るミナム。


「う、うるさい、さっさと始めろ」


はーい、と言ってキーボードを弾く姿を見ながら俺は首を傾げた。

本当にどこがいいんだろうか?

いくら考えても答えが出ない。

時間のムダだ。

だから俺は考えるのはやめて、心に従うことにした。


「ミニョ」


名前を呼ばれ、顔を上げたミニョにキスをする。唇が触れただけの軽いキスなのに、一瞬で顔を真っ赤に染めるミニョが可愛くて仕方ない。

俺は常日頃、よく考えて行動する方なんだが・・・

たまには心のままにというのも、悪くないな。



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